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SX〜サステナビリティ・トランスフォーメーション〜(前編)【ONE JAPAN CONFERENCE 2021公式レポート: オープニングセッション】

CO2を出し続ける会社”というレッテルを貼られると融資を受けられない、株を買ってもらえない?――否応なく、世界はカーボンニュートラル待ったなしの状況になっています。欧州に端を発するこのSDGs/ESGの巨大な潮流に、日本の大企業、そして大企業の社員一人ひとりはどう向き合っていけばよいのか?「サステナビリティ・トランスフォーメーション」が2021年のオープニングセッションのテーマです。
「サステナビリティ・トランスフォーメーション」をテーマに、トヨタ自動車の大塚友美執行役員、パナソニックの楠見雄規社長、国際環境経済研究所の竹内純子理事、経営共創基盤の冨山和彦会長、モデレーターとしてテレビ東京の豊島晋作副編集長に語っていただいた。

【登壇者】 (敬称略)
・ 大塚友美 / トヨタ自動車株式会社 執行役員 Chief Sustainability Officer
・ 楠見雄規 / パナソニック株式会社 代表取締役 社長執行役員 グループCEO
・ 竹内純子 / 国際環境経済研究所 理事 / U3innovations合同会社 共同代表 / 東北大学 特任教授
・ 冨山和彦 / 株式会社経営共創基盤 IGPIグループ会長
・ 豊島晋作(モデレーター)/ テレビ東京 ニュースモーニングサテライト解説キャスター デジタル副編集長


OPENING SESSION_グラレコ_山内

■世界を支配するカーボンニュートラルのムーブメント

【豊島】2021年のオープニングセッションのテーマは「サステナブル・トランスフォーメーション」です。まず冨山さんに伺いますが、政府や企業の会議などの場で、脱炭素、カーボンニュートラルが議題となる、あるいは発言を求められる機会というのは増えているのでしょうか。

【冨山】そうですね。今、楠見さんのパナソニックの社外取締役もやらせていただいているので、そこでも発言していますよ(笑)。
気候変動がいよいよシリアスな脅威となってきたことに加え、さまざまなテクノロジーの進化によって、カーボンニュートラルがじわじわと技術的現実性を持ってきたというのが、このムーブメントが高まっている背景にはあります。これまではどちらかというとコスト、あるいは分配にまつわる議論が中心だったのですが、今は資本市場がわりと先行していて、良し悪しは別にして「成長」や「投資」といった前向きの議論の流れになっていますね。

その点で言うと、リニューアブル(再生可能な資源への切り替え)ではビジネス的な展開、あるいは地政学的、気象学的な条件も含めて、実はヨーロッパのほうが有利に立てる現実があります。気候変動問題には、地球や人類の将来を誠実に、真面目に考える側面と、その裏にはプラグマティズム、悪い言い方をすると昔の帝国主義的な側面があります。このオモテウラが重なると世の中というものは動くのですが、それがちょうど重なり合ってきているのがカーボンニュートラルの現状ですね。

【豊島】そのような中で、楠見社長のパナソニックもものづくりに取り組まなければならない。大変ではないでしょうか。

【楠見】まぁ、大変ですよね(笑)。大変だけれども、当社はけっこう真面目に考えています。というのも、パナソニック創業者の松下幸之助は「物心一如」、すなわち物と心の両面での豊かさに満ちた理想の社会を250年かけて作るという大目標を、90年以上も前に立てていたんです。

確かにキャピタリズム云々という話もあるのですが、やっぱりこの気候温暖化の問題というのは正面から向き合わないことには解決できません。決して楽観視はできませんが、これを機会ととらえ、技術や努力を結集してみんなで乗り越えていこう、という思いで取り組んでいます。私も今年5月には、パナソニックグループの方針として、環境問題に対してすべての事業の共通の課題として対峙していくことを表明しました。

【豊島】そしてトヨタ自動車。やはりEV(電気自動車)化についてはトヨタに関心と期待が集まっています。その一方で、国内だけで550万人の働き手を抱えている。いきなりEV化、脱炭素に舵を切れるのか、550万人の雇用はどうするんだ、というリアルに直面しているのではないでしょうか。

【大塚】楠見さんもおっしゃったように、トヨタにとってもカーボンニュートラルは本気で実現しなければならない課題ですし、全員で力を合わせて進んでいかないことには実現できません。ただ、一方で再生可能エネルギーの事情や、車の使われ方は国や地域ごとに異なります。だから、本当にリアルにカーボンニュートラルをやろうとすると、一本足打法ではなく多様な選択肢が必要です。そのために550万人の皆さんと一緒に変わっていく。トランジションの過程も含めて、地に足をつけて考えていくことの重要性を感じています。

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■グローバルなルールづくりで不利な日本?

【豊島】今日(2021年10月31日)はちょうど、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が英グラスゴーで開かれています。日本の企業がカーボンニュートラルの課題に取り組む一方で、世界のルールづくりに参加している日本政府ですが、そのルールづくりにおいて日本はどうも世界の後塵を拝している印象があります。気候変動問題にまつわるグローバルな議論の現場を知る竹内さんに伺うのですが、実際はどうなんでしょうか。

【竹内】国際的な議論の場においては、SDGsと言いながら気候変動問題に関心が過度に集中していたり、他の省エネ技術や、それこそ低炭素電源という点では原子力の議論もあるにもかかわらず再生可能エネルギーにばかり注目が集まっている現状があります。先ほど冨山さんが「帝国主義的な側面」という表現をされましたが、かなり欧州的というか「一神教化」しているところがあって、ちょっと声が大きい国がイニシアティブを執りがち、というところが確かにありますね。

【冨山】欧州というのは、伝統的に官民複合体的な資本主義なんです。フランスなどはその典型です。だから今竹内さんがおっしゃった議論も、その国の官民の関係性の議論と連動するんですよ。

それと、もう一つ気をつけなければいけない議論は、この気候変動問題というのはその国の地理的・気候的条件に規定されます。日本であれば緯度が35度以上高くて、急峻な地形で、遠浅の海が無くて、晴天率が低くて、風もコンスタントに吹かない。そういう圧倒的に不利な条件の中でやらなければならない。一方で逆に有利な国もあるわけですよね。その条件が国によって違うので、そうすると当然国の政策性が効いてくるわけです。

【竹内】確かに、この気候変動問題はレベルプレイングフィールド(公平な競争)を確保するための交渉が非常にしにくい事情があります。発展途上国はこれから発展する権利を主張する。中国の目標は「2030年になったら減るフェーズに入る」としていますが、裏を返すと「2030年までは、私たちには増やす権利があります」と主張しているんです。

【冨山】実はWTOも、ESG的な文脈では政府の補助や関与をレベルプレイングフィールドのところであまり問題視しません。WTOが機能停止しているという見方もあるのですが、「ESGは人類のためにいいこと」という大義名分があるので、規制がわりと緩いんです。その点、日本はすごく真面目な「WTO的ルール順守国」でやってきている。そういう意味で日本の場合、政府と民間の距離が今はちょっと乖離しているのかもしれませんね。

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■イノベーションはダイバーシティから生まれる

【豊島】政府と民間の関係性の議論もありますが、民間は民間で技術的な革新を起こさなければいけません。いわゆるイノベーションが生まれる環境というのは、今どうなんでしょう。

【大塚】先ほども言いましたが、カーボンニュートラルの実現イノベーションにはやはり選択肢が多様にあるべきですし、日本には日本のやり方にあったカーボンニュートラルの道筋があると思います。そこをまさに、ステークホルダーの皆さんと一緒に考えていくことが大事ではないでしょうか。

技術というのは必ずしもゼロイチで生み出されるものばかりではなくて、ほとんどがさまざまな技術の組み合わせです。ポテンシャルを持っている技術はまだまだあると思うので、今時点で見えているところだけでなく、いろんな可能性を探っていきながらカーボンニュートラルに近づけていく。今はそんなフェーズでもあると思います。

【楠見】その段階においては、積極的に投資すべき技術かどうかというのは一企業だけでは判断できないんですよね。大塚さんがおっしゃるように、他の企業や、例えば大学でやっている研究開発なども含めて、いろんな可能性に張っていくことが大事ですね。

【冨山】「イノベーション」という言葉の本義が、日本人はなぜかみんな「発明」だと思っているのですが、イノベーションというのは本来「新結合」だから、いわばパクリとパクリのかけ算なんです。そう考えると、いろんなものを結合させるときに、日本の場合は既存の規制がそれを阻むことが往々にしてあります。竹内さんが支援されているスタートアップもそこで苦労しますよね。

【竹内】そうなんです。特にエネルギー環境分野で革新的な技術を生むためには、スタートアップの台頭も求められます。ところが日本の場合、とりわけエネルギー分野というのはスタートアップがすごく入りづらい分野で、IPOも3年に1件がやっとの状況です。それは、スタートアップに対しても「10万回やって1回もミスがないように」ということが最初から求められてしまうからなんです。

私が共同代表を務めるU3innovationsでも、大企業とスタートアップのマッチング支援を行っているのですが、どうも日本の大企業がスタートアップに対して管理しようとしすぎるというか……。うまく一緒に育っていける事例がなかなか出てきません。そこを、大企業の方にはぜひ支援をお願いしたい(笑)。

【大塚】確かにおっしゃるとおりかもしれませんね。本当に新しいことに取り組む際には、スタートアップも含めていろんな方から学ぶこと、つまりダイバーシティが大事だと思っています。

トヨタ自身もダイバーシティに関しては後れをとるところがありましたが、2021年1月に自動運転やモビリティビジネスの事業開発を担う「ウーブン・プラネット・グループ」を発足しました。そこにはトップのジェームス・カフナーをはじめさまざまな海外の人材が集っていますが、そこでダイバーシティが生まれ、そして新結合がダイナミックに起こっています。その様子を目の当たりにしているので、スタートアップや社外の方とうまくコラボレートできる会社に、トヨタも変わっていける気がしています。

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■バッテリー技術開発は日本に勝算あり!

【豊島】今日はせっかくトヨタとパナソニックの両トップがいらっしゃるので、カーボンニュートラルの技術といえばバッテリーについてもぜひお聞きしたいです。風力はヨーロッパに取られてしまった。そして太陽光は中国に持っていかれてしまう。その中で、日本のバッテリー技術はどうでしょうか……今、楠見さんが大塚さんを見られていますが(笑)。

【楠見】全個体電池や、バッテリーEVを動かす研究開発では、トヨタさんはもう世界トップですから。

【大塚】ありがとうございます(笑)。当社も最近では今年9月に「2030年までに電動車の車載電池開発に対し1兆5000億円を投資する」ことを発表し、一昨日(10月29日)には新型のBEV(バッテリー電池自動車)「bZ4X」をリリースしました。
BEVを含めた自動車の電動化の技術は、実はハイブリッド技術と密接につながっています。目下、その開発をパナソニックさんなどと一緒に進めています。あとは電池だけでなく、車に載せて全体として性能を高め、コストを下げる。ここも今かなり注力しているところです。

【豊島】車載バッテリーの分野でも、世界中がしのぎを削っている中で、冨山さん、日本勢に勝算はあるのでしょうか。

【冨山】エレクトロニクスの中でも、半導体や製造装置などコンポーネント、モジュール、エレメント系の分野の技術は、実は歴史的に連続性を持っています。とりわけバッテリーは、エネルギー密度を高めるというきわめて危険度の高い技術開発ですから、連続的な蓄積技術の際たるもので、いわゆるソフトウェア的なジャンプが起きにくいんです。そういう分野は、本来日本のプレイヤーが得意なところだと私は確信しています。


気になる後編はこちらから

構成:堀尾 大悟
編集:中川量智、福井崇博     
デザイン: McCANN MILLENNIALS
撮影:伊藤 淳
グラレコ:山内 健

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