原稿に現れる聞き手と書き手の思考と、知識と経験と。

このnoteは「書くとともに生きる」ひとたちのためのコミュニティ『sentence』 のアドベントカレンダー「2020年の出会い by sentence Advent Calendar 2020」の12日目の記事です。

インタビューのやり方は人それぞれ。先輩の取材に同行する機会はあっても、他のライターさんのインタビューを見る機会はなかなかないもの。

そんな可視化されていないインタビューの様子を動画で配信し、みんなでインタビューを学ぼう。ライティングコミュニティ「sentence」でそんなイベントが開催された。

今回聞き手となったのは、編集ライターとして10年近くキャリアを積んでいる3名。友達と話すようなテンポの良い対談のようなインタビュー、一緒に解決策を探すようなインタビュー、小さなことをしっかりと拾い上げるインタビュー。初めて観たインタビュー動画は、本当に人それぞれでスタイルの違いを知る、学びの深いイベントだった。

でも、そんなインタビュー企画の少し前、人が取材されている様子を見る機会があった。その取材が私にとって衝撃で、聞く人・書く人としての姿勢が少しだけ伸びた経験だった。

「○月○日の午前中って空いてる?カメラマンやってもらえない?」

先輩から突然のメッセージ。いつも先輩の仕事についていくときは大体わたしが撮影をしているので、それと同じだと思って気軽にOKを出した。

そしたら、まさかの撮影対象は、先輩。そう、先輩が取材される側だったのだ。しかも、今回は東京本社のとある雑誌。聞き手は14年以上編集長を務めている方。その雑誌で使う半ページ1枚のカットを撮ってほしいとのことだった。

「え、それはカメラマンのほうが良いのでは?」

あまりの大役におののいたが、きっと他の人のインタビューに同席する機会なんてそうそうないからと声をかけてくれたのだろう。ありがたく引き受けることにした。

自分の経験や考えを伝えて思考を深めるインタビュー

取材場所には、先輩と聞き手の編集者さん。そこにちょこんとお邪魔する私。音源をとってもいいと許可をいただいたので、真ん中にはレコーダー。そんな空間で取材は始まった。

まずは、出身地や小学生、大学、就職と半生を振り返っていく。雑誌の記事なので詳しくは書けないけど、インタビュイーの言葉を一度受け止めて、コメントを入れながら、時系列に沿って話は進んでいった。

そして、現在の活動から、インタビュイーの思想の話へ。すると、少しずつ聞き手の受け止め方が変わっていった。質問するだけじゃなく、自分の経験や考え、他の地域の話を持ち出ししながら、インタビュイーに疑問を投げかける。それに応えるようにどんどんインタビュイーの答えも深くなり、読んだ本の言葉を引用しながら、自らの考えを整理していく。

まるで、二人の対談を見ているかのようだった。

いつものクライアントワークだと、1時間以内に話を聞き終えることが多い。そうすると、自分の考えを言う時間などなく、相手の話を聞き出すことでいっぱいいっぱいだった。

でも、今回見たのは、受け手と聞き手の相乗効果でより深い思考になっていく現場。今までの取材のさらに先を見た時間だった。1時間半とすこし長めの取材時間だったものの、それだけお互いに思考を深められる場となっていた。

難しい言葉を平易ではなく、より深く、より柔らかい表現に

先日、その雑誌が発行された。ありがたいことに献本をいただいたのでさっそくページを開く。

そこには、当日の話がより深く、より柔らかい言葉でまとめられていた。当日はまぁまぁ難しい話もたくさんあった。普段から先輩と接していなければ、理解することすら大変そうな話もたくさん出てきた。でも、そうした難しさを平易ではなく、柔らかい表現に、そしてより深い思考を伴って記されていた。

「取材対象をただ写し取って伝えるのではなく、読者に意味付けして説明してあげるのが、ライターの腕の見せ所。」

私がライターを始めたころに先輩に言われた言葉を思い出した。当日の話をただ切り取って伝わるように編集して書くだけじゃない。書き手というフィルターを通して、「私は取材を通して、彼をこう見た」がこの記事には書かれていた。

良い文章とは、自分にしか書けない文章である。

以前、sentenceで行った読書会で、良い文章について話し合ったことがある。その本には「良い文章とは、(1)自分にしか書けないことを、(2)だれが読んでもわかるように書く、という二つの条件を満たしたもののことだ」と書かれている。

文章を書くという行為は、必ず書き手の思考を通る。「どの順番で並べたら、分かりやすいのか」「この言葉で読者に繋がるか」。聞き手・書き手自身の思考の深さ、知識や経験の広さが内容や文体に影響を与える。

頭ではわかっていたけど、今回の取材で目の当たりして、ようやく腹落ちしたような気がする。

確かに今回は自社媒体の企画記事だったので、個を出しやすかったのだと思う。でも、普段のクライアントワークでもその姿勢は一緒。頼まれて書く文章では個の考えを「こう思った」と直接書くことはないけど、文章の端端から思考の深さ、向き合い方はきっと伝わる。改めて、自分と向き合わなければいけないなと感じた時間だった。



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