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イタリアで見たWWOOFから考える日本の農業と暮らし

大豆は古くから日本の食生活に欠かせない食材の一つだ。味噌・醤油・豆腐・納豆など、日本には多様な大豆の食べ方が存在し、日本の食の基礎を担っていると言える。しかし、日本の大豆の自給率は6%程度である(農林水産省資料:大豆をめぐる事情)。大豆の輸入は半分以上がアメリカ、続いてカナダと、多くを北米に依存している。日本の多くの作物で自給率の低さが問題視されているが、特に昔からの日本の食生活の根本とも言えるお米や大豆といった作物を、自分の国で生産・調達できることは重要であり、私が現在農業に関心を強く持っている理由の一つである。
このように私が農業に関心を持つようになったきっかけとして、イタリア・ローマへの訪問が挙げられる。本記事では、日本とは様々な面で異なるイタリアの農業事情を、実際に私が訪問した経験も織り交ぜてご紹介し、読者の皆さんに今までとは違った観点から日本の農業を考えるような機会を提供することを試みる。

ローマ郊外の自然保護区で1週間WWOOFerと滞在


2023年6月、私はローマに一風変わった興味のそそられる宿を見つけ、1週間その宿に滞在した。

2023年6月,筆者撮影

ALTRA TERRA と呼ばれるこの場所は、ローマから北に移動した郊外”Riserva Naturale della Marcigliana”(マルチリアーナ自然保護区)に位置する。ここはただの宿ではなく、自然と調和する健康的でより良い暮らしを実践・探求するような場所である。実践という点は、実際の活動にしっかりと現れており、例えばより良い農業を考えるのも、実際に菜園を裏庭に設けて様々な農法をその地域で利用可能か実践、検証している。他にも木工を通して暮らしに必要なものをDIYしたり、共通の関心を持つ人々を招いて自然の中を歩いたり、食事を一緒にする交流イベントなども開催している。
ALTRA TERRAは活動の拠点でもあり、創設者の2人の女性が暮らす生活の場でもある。1人は大学で環境科学を学びその実践の場を作ろうとし、もう1人は法曹界で勤務経験を持ちつつ、より良い暮らしを探求したい熱い想い一つで専門性から離れたALTRA TERRAを始めるに至った。彼らは愛犬たちと2階に暮らし、私は1階に滞在させてもらった。1階にも2名、WWOOFerとして活動を共にしているメンバーが滞在していた。1人はローマの大学に通いつつ、もう1人はヨガの先生としても活動しつつ、ALTRA TERRAの活動に参画していた。
WWOOFとは”World Wide Opportunities on Organic Farms”(世界における有機農家に関わる機会)という意味で、世界中の農家と、有機農家を学びたい訪問者が生活を共にし、農家は訪問者の手を借りたり刺激を得て、訪問者は食と住居に加え、有機農業を中心として実体験から多くのことが学べるということを目的とした活動である。この活動に参加する訪問者はWWOOFerと呼ばれる。

2023年6月,筆者撮影

家の外に出ると、ただただ広大な自然が広がるこの場所で、ALTRA TERRA創設者2名とWWOOFer2名が活動しており、私は1週間と短い期間だが、彼らの活動の様子を同じ屋根の下で見学する機会を得た。

ALTRA TERRAで彼らが考えていること

彼らの活動には、いつも自然との調和が念頭にあり、その上でよりよい暮らしの実践はどのようにあるべきかを探求する心と、それを人々に発信したいという思いがあった。
WWOOFerの1人は、畜産の実情について学んだ結果ベジタリアンにならざるを得なかったと話していた。私の1年間の欧米を回る一人旅の間、多くの知り合った人たちが特定の種類の肉を食べられないといっていたが、ほとんどが宗教的な理由であり、実際にあった宗教的な理由なしでのベジタリアンは彼女だけかもしれない。
農法についても、日本人が提唱した自然農法や、有機農法よりもさらに自然と調和した方法として注目を集めるバイオダイナミックという概念を紹介してくれた。裏庭には実際にその農法を利用した栽培の様子も見せてくれた。

2023年6月,筆者撮影。渦状の畝に多様な種の植物を隣り合うように栽培し、植物同士が相乗効果を生み、土壌にもよい環境を作っているという。

彼らは、自然と調和したよりよい暮らしを活動の軸としているが、その結果自然と農業の探求をするに至っている点は興味深かった。また彼らとの会話では、農業は地域ごとに全く性質が異なるためノウハウも地域ごとに養わなければならないことも指摘された。
よりよい暮らしを考えると自然と農業の探求につながり、農業のノウハウが地域ごとに異なるのであれば、日本人である私としては日本の農業の今までに培われたノウハウを学び、探求していく必要があると考えるようになり、日本に帰国した今もその考えは持ち続けている。

WWOOFの旅で日本の農業・暮らしを考える


イタリアは「ファーストフード」が食材への意識を低下させたり、地域それぞれの食文化を衰退させる課題を認識し、その逆のコンセプトとして「スローフード」を提唱した。マルゲリータピザやカルボナーラなど、本場のイタリア料理のおいしさはこういった考え方とそれを普及させる仕組み作りによって維持されている。またイタリアの若者が就農するケースが近年増えているという点も興味深い。イタリアの農業から学べること、日本の農業をみる他の観点はまだまだありそうだ。
一方で、日本の農業・暮らしを考える上でまず大切なのは、現場の農家さんの今までに培ったその土地に適した農業や暮らしを知ることだ。その方法として、日本でも行われているWWOOFは有効な手段として認識している。日本のWWOOFは、WWOOF JAPANによって年会費ベースで運営されており、会費を支払えば日本中の受け入れしている農家さんにアプローチできる。滞在期間も数日から1ヶ月以上まで制限がなく、多くの農家さんを1週間ずつ点々とすることも可能だという。先人の築いてくれたWWOOFのようなエコシステムもぜひ活用しながらさらに日本の農業・暮らしの理解を深め、自分にどのような貢献ができるか考えていきたい。

この記事を作成したチェンジメーカーについて

名前: 塩田 勇人/ Yuto Shiota [One Global Contributor]
略歴: 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業。大学4年生の卒業研究では量子暗号通信に関する研究に従事。卒業後、約1年をかけてアメリカ・カナダ・ヨーロッパ4カ国を旅する。現在主にフリーランスのエンジニアとして国内で活動中。 個人サイト:yutoshiota.com


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