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パタちと一夜の夏祭り

8月3週目の休日。
私の自宅の最寄り駅近辺では、年に一度の夏祭りが夜に開催される。

今月から私のボディーガードを依頼している、“パタち”ことレイン・パターソンと休日を過ごすのにうってつけだと思いつき、数日前、パタちに提案してみた。二つ返事・・・・・・とは言えなかったが、OKをもらい、当日17:00に最寄り駅の改札前で待ち合わせる約束を取り付けた。

待ち合わせ時間の15分前、私は待ち合わせ場所に到着。浴衣を持ち合わせていない為、ベージュの半袖Tシャツに7分丈ジーンズという、洒落っ気を微塵も感じさせない格好で、パタちの到着を待っている。
服装については特に何も伝えていなかったので、パタちが浴衣を着てきたらどうしようかと思案を巡らせる。

10分後、改札口から出てきたパタちの姿を確認し、声をかける。彼女の赤いロングヘアーは遠くからでも目立つ上、服装もいつもの短いタンクトップに迷彩柄のシャツとホットパンツ。見間違える事は無かった。

駅を出てすぐ目の前の大通りは、祭りの時間だけ歩行者天国となっており、頭上には色とりどりの提灯が泳ぎ、いかにもお祭りらしいネオンとなっている。
無論、歩行者天国の部分は老若男女の混雑の中を進まなければならず、パタちは私とはぐれないようにと、私の左腕を自らの身体にしっかりと固定させて、人混みの中をゆっくりと進んでいく。
私は左腕から伝わってくる柔らかい感触に内心てんやわんやとなっていたが、あくまで平静を装う・・・。

人波に乗りながら、それぞれが気になった露店に寄りつつ、一緒に祭りの空気を感じる。
私はお腹が空いていたので、焼きそばを買い、一人でそのまま平らげる。
だが、一口食べたかったとパタちから軽くお叱りを受けた為、お詫びにとパタちがお祭りの時に必ず食べるというりんご飴をプレゼントした。

駅を出発してから約2時間経過。
私は早食いした焼きそばで腹を下したらしく、歩行者天国の途中に設置されていた仮設トイレに駆け込んでいた。パタちに呆れた顔をされてしまい、私は自分の行動を恥じる。
トイレを出て、近くの銀行の前で待たせていたパタちの姿を見ると、傍らには見知らぬ女の子。見た感じ、3才くらいだろうかと考えながらパタちに話を聞くと、迷子だった。泣きながら両親を探す女の子が目に入り、パタちが声をかけたという。
女の子は始めこそ泣き止まなかったが、一緒に両親を探す事を伝えると、その後は落ち着いてくれて、両親をはぐれる前にどこを通ってきたのか、身振り手振りで教えてくれた。

・・・とは言え、この混雑の中での人探しはあまりに効率が悪いので、私が女の子を肩車しながら、進んでいた方向とは真反対の場所にある臨時の迷子センターを目指した。途中で女の子が欲しそうに見つめていた、キャラクター包装のわたあめを買ってあげる。
30分くらいかけて到着した迷子センターの前で、女の子が声を張り上げた。直後、私の視線の先にいた若い夫婦と思しき2人が駆け寄ってくる。
女の子を夫婦に引き渡し、ひとしきりお礼を言われた後、家族を見送った。一仕事を終えた気分になった私とパタちは、互いに笑顔を見せ合う。

迷子センターの近くにあったリカーショップの前では、冷たいビールが販売されていた。
熱帯夜の気温の中で飲むビールは美味いだろうなと私は即座に1杯購入し、のど越しの良いビールの冷たさと、先ほどの夫婦から謝礼として受け取ったベビーカステラの味を、ベンチに腰をかけながら二人でシェアした。
蒸し暑さを感じる夜空の下、談笑しながら祭りの夜は更けていったのだった。

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