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【詩】 ウォンバット先輩



また呼び出されたんだけど
早く帰って夢小説の続きを書いて
数学の予習でもしようと思ったんだけど

ウォンバット先輩
週に二回だけ顔を出してるバレーボール部の三年生
単純に顔が似てるからさ 
ウォンバットにだよ

遊ぶ相手がいない日はいつもあたしに声かけてきてさ
あからさまな補欠扱いがムカつく
カラオケボックスの入ってるビルの一階のサイゼで
何とかドリンクバーとポテトだけで持たせようと粘って
だいたいクラスの誰がどうしたって話なのに
声が大きくて下手なことなんて言えないから

ああウォンバットよウォンバット
大きすぎる鼻 つぶらな瞳
その顔があまりにもチャーミングで
質問攻めにされてもどうにも憎めない

あれから三十年ほど経つんだけど
大都会東京にはいくらでも選択肢があるのに
あたしたちまだサイゼリヤで駄弁ってるわけ
もうさすがにドリンクバーでは持たせないけれど大根を蜂蜜で煮付けると美味しいのよって
すっかり落ち着いた会話でさ
忙しなく捲し立てる喋り方とか大袈裟すぎる身振り手振り
眼鏡をかけてもやっぱりウォンバットで
ああ先輩 この時間がこんなに大切になる日が来るなんて
私思ってなかった

天使の肖像やボッティチェリのヴィーナスは
二人の会話をきっとずっとこっそり聴いてた


***

サイゼリヤをテーマに書いた詩。詩集用に書いたけれど、結局詩集には別の作品を収録する運びとなったため、没作品供養です。

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