好きなアーティストのラジオ番組にお悩みメールを送るということ/『星野源のオールナイトニッポン』2021年2月9日

僕は好きなアーティストのラジオ番組は欠かさず聞いていますが、よくあるのがリスナーからの相談メール。みんな、誠実に答えているのは確かですが、その答え方にはかなりの個性が出ます。

この日の放送は面白かったので文字起こししてみましたが、改めて眺めてみるとまた新たな発見もありました。皆さんはどう感じるでしょうか?まずは該当部分を読んでみてください。

*****(文字起こしここから)*****

「相談です。もう3年彼氏がいません。欲しいともあまり思いません。理由は、5年付き合っていた元彼のチューが気持ち悪くて、次の人も気持ち悪かったらどうしようという恐怖があります。付き合う前に体を重ねることやチューすることにとても抵抗があるので、付き合う前に気持ち悪いチューをする人か見極める方法を教えてください」

知らねぇよ、そんなの(笑)わからないよ。どんなチューするかなんて(笑)。

このメールは突っ込みどころが一杯あるんですよ。『もう3年』といっていて、『欲しいともあまり思いません』と思っている感じのメールじゃないんだよね。『見極める方法を教えてください』って言ってるから、本当な感じがしないっていうか。

あと、チューが気持ち悪くて恐怖するほどだったのに、どうして5年も付き合えたんだろうっていうのがありますよね。長いよね。チューだけが嫌だったのか、わからないけど。

うーん。なんかちょっとその、なんて言えばいいんでしょうね、ちぐはぐですよね。彼氏がいません、欲しいともあまり思いませんだったら、その後文章がないはずだから、それでいいんじゃないんですか、って話だと思うんだけど。

で、チューが気持ち悪くて、でも5年一緒にいれるっていうのは、なんだろう、そのでも、そんなに恐怖するほどの。よくわかんないんだよね。どのくらい気持ち悪かった、でもそれなんで(相手に)言わないっていうかね、そのまぁ言ったのなら多分何かしらの改善なのか、言ったのなら多分この文章内に何かがあると思うんだけど、書いてないということは言ってないということになるので、うん。

言えばいいのにっていうのと、なんかその、なんだろその、メール文面の中にもあるけど、自分の気持ちみたいなものを素直に相手に伝えたり、本当のことをまっすぐちゃんと伝えたりするのが下手なんじゃない。

だからあのー、本当にもうちょっとチューを変えて欲しいのを言って、恐怖するくらいなら、ダメだったらそれで別れればいいし、っていうことだと思うんですよね。

で、『付き合う前に体を重ねることやチューすることにとても抵抗がある』っていうけど、なんで抵抗があるんだろうね。

別にいいと僕は思いますよ。だってわかんないもん、そんなの。で、あと、もちろんチューもそうだと思うけど、体の相性みたいのってさ、実際重ねてみないと絶対わかんないから、だからなんか、本当に、なんていうの、僕は結構その、例えば告白してお付き合いする前に、体を重ねることを、なんか、はしたない、とかチャラいとかは僕は全く思わないので。だってそんな知らないよりかは知っていた方がいいから。

なんかそのね。僕はでも割とこう、なんだろう、好き!っていう気持ちを思うとすぐ伝えたくなってしまうタイプなので、その後がどうこうであれそんなに僕は気にならないタイプなので、そういうのもあるかもしれないけど。

『抵抗があるので』に関して、本当に抵抗を感じているのかっていうのを、一回自分とものすごく話してみるといいと思います。なんか多分、この人は自分と話してみることがとても大事だと思う。なぜ5年付き合っていたのか、なぜ気持ち悪いチューを恐怖と思うまで我慢したのかとか、それって自分と話すことがすごく大事で、人と話すこともすごく大事なので、それって結構イコールな気がするっていうか、どっちかを見ないようにしたり、置いてったりすると、その相手に対してもなにか置いてったりする可能性があるので、そういうのは結構大事だと思いますよ。

そういうのは結構文章に出るんですよ。『欲しいともあまり思いません』を、本当に欲しくないと思っているのか、『あまり』という言葉にどれくらいの幅をもたせているのか、とか、そういう風にして細かく考えていくと、僕の場合は、結構、俺、こういう風に感じたけど、言い訳のためにそう言ってたな、とか、最初そう思ってたけどもう感じてないんだけど、最初思ってたことをずっと引きずってて今もそういう風にアピールしてるんだな、とか、よく自分と話してみると今そうじゃないみたいなこともあるんでね。

*****(文字起こしは以上です)*****

僕は、いろんなことを感じたし、考えました。心が動きました。感動したってことです。

まず最初に、ラジオ番組って耳で聞くわけじゃないですか。で、聞いていて引っかかるところがあると、ん、何だ?って、こちらとしては一段ギアが上がるわけですよ。で、そうして聞いていてまず思ったのは、源さん、結構、相談メールをバッサリ斬ってるな、と思ったんですね。

うん、確かにこの相談メールは、さっと聞いただけでも、あれっと思うような矛盾が含まれている。

でも、一人の人間がそうした矛盾を抱えて葛藤するのは当たり前っていうか、まずそこに共感してもいいんじゃないかな、って思ったんです。そうしたアンビバレンスを歌にしてきたのが源さんだから。

それで、もっとちゃんと聞いてみなくちゃと思って、文字起こしをしたんです。僕は聞き捨てならないラジオの発言は、手間暇かけてでも文字起こしをしてみるんです。その時の話し言葉のニュアンスをできるだけそのまま生かすようにして。

そうしてまず気づいたのは、源さんの、「お悩みメール」へのアプローチの仕方、その個性が出ているなっていうこと。メール相談って、一方的で、クェスチョンが来て、それに答えるだけっていうワンタイムのやりとりじゃないですか。

だから、そのお悩みそのものの情報量って、固定されているわけですよ。ここはもっと聞きたい、っていうところを尋ねるわけにはいかないから。

それで、ラジオパーソナリティの皆さんはどうしているかというと、まぁ僕が聞いている範囲の方々ですけど、やっぱりみんなシンガーソングライターだから、いろんな人の声には敏感で、聞き取る力は凄くある。

で、答える段になって、その情報量の少なさをどうフォローするかっていうと、ある程度妥協して、「自分はこう受け取った」と引き受けて、その上で自分だったら、という風に想像するんですね。

これはやっぱり、時間が限られた放送の中で、すぐにレスポンスしなければならないから、脳みそをフル回転させて喋りながら、答えになるように一生懸命なんですけど、それはやっぱり、そこにそのアーティストの個性が出るわけだから、聞いていて興味深いというか、面白いなと思うし、より深くそのアーティストを理解できたのかな、っていう気になりますね。

で、星野さんですけど、お悩みメールそれ自体をかなり鋭く抉ってますね、言葉尻を捉えるというか。心理分析的なアプローチというか。

まぁまず、僕らリスナーはずっと耳で聞いているわけだけど、源さんはスタジオで、このお悩みメールの文面を目で見て読んでいる。これはインプットの入り方として違いますよね。自分が喋りながらプリントアウトされたそのメールを目で追っている。だから細かいところに気づくんだろうけど、でも見逃しませんよね。でもちょっと細かいところを見すぎという気もします。

でも、さすが、後半にいくと、この相談者さんの全体像を何となく把握しながらのアドバイスになってくる。『自分と話してみるといい』のところです。まさに僕もそう思いますね。

やっぱり迷ってるんですよこの相談者は。葛藤までいかない、逡巡というか、求める気持ちと自信のなさの狭間で悩んでいる。自信がないんですね。恐怖が先にきてしまう。これは、理由はないんです、きっと。気持ち悪いっていう感覚って、人肌に慣れていないというか、これはもう幼少期の体験も関係するので、こういう心の殻を破るのは難しいと思うし、もしかしたら不可能かもしれない。

そうしたことを考えてみるのは、その、考えるっていうことだけで、一つ前に進める気がするんですね。その結果、やっぱダメだぁっていうことになるかもしれないけど。

時間を使ってください。そのための人生の時間って気がする。

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僕もラジオDJになったつもりで、口語で思ったまま綴ってみました。

最後にひとつ、このような悩みって、頭で考えるのも大事だけど、そのためにはエネルギーが必要で、それをどこから持ってくるのかというのは悩みなんだけど、この放送のように、「好きなアーティストのラジオ番組にメールを送り、それが読まれ、コメントをもらう」これはとても大きな勇気になると思いますね。それは間違いない。相談者さんは嬉しかったと思います。