傲慢と善良 辻村深月 感想(ネガティブ)

現代を生きる日本人の結婚観を描き出したルポルタージュ的な側面としては面白く読めたのだが、主人公の心の翳りへの掘り下げが食い足りず、平凡でお人好しな物語で幕切したのは不満が残る。

脇の人物は皆、おもしろい。ヒロインの実家がある群馬県前橋市の人々からは、過干渉の母親を筆頭に、地方都市の雰囲気がありありと感じ取れる。それは日本中どこにでもあるような世間というものの正体だろう。

一方で、ヒロインの姉や、主人公の友人女性たちは、その古臭い世間の束縛から逃れて自立している。まるで違う世界に生きているかのようなその隔たりにも共感した。

しかし、物語のミステリ要素であったはずの「ストーカー話」が気に食わない。何も言わずに一人の人間が姿を消すということの重み、残された人間の苦悩がどれほどのものだと著者は見積もったのだろうか。

「失踪」という大問題への詰めが甘いから、第二部の自分探しの旅もあの程度の易さでOKということか。『闇祓』がとても面白かっただけに残念。

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