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万事快調〈オール・グリーンズ〉 波木銅 感想

あまりに面白くて興奮した。まずは何といっても文体が魅力的だ。会話もいいがそれにも増して地の文にエッジが効いていて笑える。三人の女子高生に加えて、四人目の主役と言ってもいいくらい、この地の文の主張が強い。めちゃめちゃキャラの濃い朝ドラのナレーターのようだ。

このナレーター、記述、描写、説明といった役柄を超え、キャラクターを積極的にイジりにいっている。勿論それは愛のあるイジリである。そしてそれはイコール著者のアルターエゴだと素直に受け取れる。地の文の中に、作者の自伝的要素を仄かに感じるのである。

これが、この作品の出自と化学反応を起こす。松本清張賞を審査員満場一致で受賞した、21歳の新人作家。どんな人物だろうという好奇心に応えてくれる、名刺代わりのデビュー作としては完璧なのではないだろうか。つまりは僕はこの作品で一気に著者のファンになってしまったのだ。

本作には映画や音楽、小説や漫画のタイトルや作家への言及が多い。とりわけ映画作品が俎上に上がることが多いが、これが僕には殆ど通じたということも大きい。推しの話題はシンクロするとものすごく盛り上がる。

引用された作品群は最も古いものはスタンリー・キューブリックの『現金に体を張れ』(1956年)だろうが、基本的には70〜80年代が多いようだ。それでも例えば映画の話をするとしてそれが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なのか『時計じかけのオレンジ』なのかという違いは、即座に発言者のキャラクターや場面のムードを決定づけてしまう。この作品においては後者となる。

選ばれた映画タイトルから受ける印象は、グロいカルト。傍流、オルタナ、でもそのジャンルでのトップ。フィンチャー(『ファイトクラブ』『セブン』)は出てくるのにタランティーノはないんだ、とか、その辺の重箱を突くのも楽しい。コーエン兄弟ラブであって『ターミネーター』や『マトリックス』じゃないのね、というのも主人公が女子高生、というところとしっくりきて納得してしまう。

そうしたエンタメカルチャーの、何をピックアップするかが、キャラクター造形に寄与しているという作りは、その構造自体は今に始まった事ではないけれど、そこから膨らむ作者のイメージが自分の好みとピッタリだったのだ。年齢からして親御さんは僕と同世代かな?と思い、その影響かなとも想像したが、大学では映像系の学部だということなので、そこで学んだのだろうか。創作のルーツがどこであれ、その質、量とも豊かであることを半ば羨ましくも思った。

主人公が茨城県の工業高校2年生というのもいい。時間的にも地理的にも未来へ向けて開けた感じがする。小説全体を見渡してみても、起承転結の転、結に至っても工夫があって締まりがある。会話のみならず動きのあるアクション描写もよかった。早くも次の長編が楽しみである。


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