瑛人『香水』反復する傷の記憶

Official MV    歌詞 

ギター弾き語りのシンプルな楽曲で、サビのキャッチーなフレーズが強烈なゆえ、芸人でいうところの一発ギャグのような破壊力を持った曲、逆に言えばそれだけが魅力だと思っていました。しかしたまたま見たボイストレーナーさん(さきここVoice)のYouTube動画に心動かされ、この曲の魅力を再発見することになりました。

サビで語られるのは、「今も変わらずつけている君のその香水が香るので、僕はつい昔の自分を思い出してしまうんだ」。元カノと3年ぶりに再会し、居酒屋か何かで談笑している光景が浮かびます。

そしてその思い出している自分というのが、その前のBメロ「人を傷つけてまた泣かせても何も感じ取れない、クズな男」ですが、その頭に「でも見てよ今の僕を」とあるのが絶妙です。

過去を省みて己を客観視できているので、今では「きっとクズではない」と、そう思いたい自分がいるのでしょう。でもそれを実践するところまでは来ていない。やっぱりまだ引きずって傷ついている自分がいる。

元カノの「君」が目の前にいる、彼女がつけている香水が香る、というイメージが強いこの歌ですが、全てを通して聞いてみると、僕は、このイメージは空想上のものなんだろうな、という気持ちになりました。

過去の辛い体験を頭の中で反芻して自虐に浸る。そのヴィジュアルの中心に元カノの姿がある。きっと今頃はもっと可愛くなっているか、タバコが似合う大人の女性になっているか。それはわからないけれど、とっくに立ち直っているだろう。それにひきかえ僕は。

自分はダメな人間だと繰り返し考えるのは、有り体にいえば心地よい行為です。そんな堂々巡りの空想と、記憶に強く結びつくブランド名(ドルチェあんどガッパーナって言いたいだけやん!)、それが「香り」を経由して、身体的な表現である音楽としてアウトプットされた。直感のまま形になった故の傑作だと思いました。