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今更ですが『カメラを止めるな!』をWOWOWで見ました(2)

前回は、この映画の特徴を、1)叙述トリック、2)劇中劇、であると解説しました。いずれも脚本段階で織り込まれた創意工夫です。

観客として作品を受け取った僕は、この映画と対話するようにして、自分がどこに感動したんだろうと考えます。

3)アマチュアリズム

古い書籍になりますが、村上龍と坂本龍一の対談本で、坂本さんは、「ジャズはアマチュアの音楽だからね」とさらっと言っていて、前後の文脈はわすれましたが、この文言はずっと記憶に残っていました。

自分なりの解釈ができないまま、かなりの時間が経った後、日本映画専門チャンネルで新藤兼人監督の『裸の島』(1960)を見た時、「アマチュアリズム」という語が脳裏に浮かびました。続いて見た『人間』(1962)は、サウンドトラックとして背景にずっとジャズが流れていました。

新藤監督は日本を代表する名監督の一人です。いわばプロ中のプロなので、あえてアマチュアリズムと言ったとき、それは「商業性を捨て、表現の自由を獲得する」という意味になります。独立系、自主制作のスタイルです。

キャストスタッフは少数精鋭で、彼ら彼女らも自由に作品への発言が許され、共同で創作していくという趣が強くなります。

以上は制作側の事情ですが、観客の目にはどのように映るでしょうか。

まず真っ先に、手作り感、チームの一体感、それを束ねる監督の強い意志が作品を通じて滲み出ていることを感じます。

『カメラを止めるな!』においては、上田慎一郎監督のリーダーシップの強さよりも、チーム全体による集団創作の温かみを感じます。

この映画からは、映画作りって楽しそう、という気持ちにさせられます。仕事としてどうやったら関わることができるのか、などと現実的に考えるのではなく、まるで好きな音楽に触れた時のように、つい一緒に歌ったり踊ったりしてみたくなる、それと同じような気にさせるのです。

音楽では日常的なことですが、映画ではなかなかこういう気分になりません。作者と観客は相対してコミュニケーションをする間柄であり、自分が表舞台に立ったり、裏方をやったりというイメージが湧きません。そこを具体的に現場のシーンとして描いている。

実際に描いているものと、滲み出てくるもの、その双方から人肌の暖かさが溢れてくる映画というのはなかなか希少だと思います。

これが、僕が思うアマチュアリズムの良さなのかなぁ、と思います。自分もやってみたくなる、表現してみたいという気にさせてくれる。

『カメラを止めるな!』を見て映画(演劇)に興味を持った人はたくさんいると思います。それが例えば若い人なら学校で、同じ思いの友人と出会うこともあるでしょうし、そこでこのタイトルを出せばすぐに話が通じる、そういう意味でも将来にわたり語られていくことでしょう。

次回は、僕にとっては最重要の論点 4)ゾンビもの、について語ります。その前にもう一度作品を見直さなければ。