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われら闇より天を見る クリス・ウィタカー 感想

この本に費やした読書時間について述べたい。

物語の世界に入ろうとするのだから、小説の序盤を読むには時間がかかる。それはいつものことだけど、生きることに疲れた人物たちが織りなす、モノトーンでスローな出だしに、なかなかページが進まなかった。寝る前に本を開き、一章を読む頃には強烈な睡魔が襲ってきた。

そんな感じで第一部を読み終わる。途中、巻末の解説を読んだりして、第二部は雰囲気がガラッと変わるだろうと期待した。その通り、俄然、色彩が豊かになり、暖かな希望の兆しも感じられて、読書のスピードが快調に上がる。この部の序盤に、ブッシュとケリーの一年前の大統領選のポスターが云々、という記述があり、劇中時間は2005年だと知れた。

第二部、読了。ざっと見てこの本の半分は大きく超えている。うん、確かにミステリーというより人間ドラマの要素が大きい。それぞれの部のラストで事件は起きているが‥。専らの関心はダッチェスとロビンの姉弟の今後の人生だ。

第一部、第二部で積み重ねられたドラマの重みを感じる。この長さ、文章量。長すぎるとは思わないが、もしこれを映画化するなら、第一部は15分、第二部は45分の尺にするかな、などと考えてみる。

この物語はこの先どうなるのか。第三部で展開が加速した。それでも、これまでの重厚感から考えて、人間の業のようなものを静かに描いて幕を閉じるのだろう、と思って読んでいった。ところが。なんとびっくりの進展が矢継ぎ早に現れ、目が離せなくなる。謎が謎としてミステリーの顔を持ち始めた。と、ここまで書いて残り80ページ。

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読了。やはり第三部の驚きが鮮烈だった。期待に応えてくれるエンタメ感。伏線回収の構図が露わになり、ラストまで一気読みだった。謎解き部分について後から考えてみれば、勘違いや早とちりの発端が多いかな、とか、人間関係の矢印が直線的で、キリスト教文化圏っぽいな、などとも思った。

エピローグ的な第四部は、予想を超えた明瞭なフィナーレで、殊にダッチェスの居場所に関しては、そうできるならもう少し早くやれなかったのかとも思ったが、辛い別れがあり、いろいろあった上でようやく、ということなのでしょう。

読み返せば印象は変わるのだろうが、初めて歩く道は長く険しく感じるものだ。この道のりを、読者も作者もよく歩いた。満足だ。


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