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サンドイッチ法

A:しかしお前は本当にあれだよな。
B:へ。
A:ワードのチョイスも。間も。キャラも。ぜんぶ最高だよな。
B:へ。
A:ボケとして稀有なポテンシャルというかケイパビリティというか。ほんとおもしろいやつだと思うわ。
B:ケイパ……?よくわからんけど。んま、ありがとう。
A:でもさ。
B:でもさ……?
A:遅刻グセはどうにかならんもんかね。
B:あー、ごめんなさい。でもまあ、そんな大遅刻ってことはないしね。
A:そういう問題じゃないだろ。
B:そですね。ごめんなさい。
A:今日もね、入り時間、打ち合わせ時間、出演時間ぜんぶちょっと遅れてるからな。
B:あいやー、まあ、そうでしたっけ。
A:人の時間を横奪して迷惑をかけている自覚がないんか。
B:ごめんなさい、それは本当に。
A:画一的な社会規範から逸脱することで新たな笑いの価値観を創りだそうとしている気持ちはわかるよ。
B:いや別にそういう難しいあれではなくて。
A:でも人がしていないことをあえてするという、意図的にマイノリティを選んでる時点でさ、むしろあなた自身の本質を見失っていることになるわけよ。そこを私は大いな危惧と嫌悪を抱いているのです。
B:いやごめんて。
A:現代に生きる人間として最低限のルールというかさ。人と人の間で人間なわけ。
B:もう何を言ってるかわかんねえよ。
A:人としてゴミクソだってこと。
B:きつ。え、何そんな急に全部言わなくてもさ。
A:でもさ。
B:でもさ……?
A:やっぱりこれからの時代、新しいものを生みだそうとする姿勢は素晴らしいと思うわけ。
B:なに今度は。え、こわ。
A:冷ややかな目で見られたり、あることないこと囁かれたり、後ろ指さされたり。世間の蔑視に屈せず我が道を行くことも大事だよな。
B:どゆこと。やめてもう。
A:サンドイッチ法。
B:へ。
A:相手に何かを指摘する時は、良いことで挟むっていう。
B:どゆこと。
A:まず褒める。で、ダメ出しする。でもまたちゃんと褒める。良いコメントでサンドイッチするとコミュニケーションがうまくいくんだって。
B:嘘だろ。ダメージでかかったぜ。
A:やってみ。
B:おまえ……ほんと……最高のツッコミだよな。
A:おう。
B:でもさ。
A:みじか。
B:てめえこのツッコミとしてワードの切れ味を求めるのは良いけどよ、底辺芸人のくせにおもしろさより頭の良さを求めてる感じすんだよね。
A:ええ、どゆこと。
B:素直にキャッチーでファニーな言葉を出しゃいいのに、なんか小難しいこと言って頭良く思われたがっているというか。
A:いや、そんなことないて。
B:さっきもなに、わけのわからんマイノリティがレスポンシブでサステナビリティみたいなこと言ってたでしょ。
A:言ってねえわ。
B:別に学歴とか実績とかバックグラウンドに頭の良さがあるわけじゃないだろ。それなのにわかりにくいし、癪に障るだけなんだよ。貴様はどこぞのエリートビジネスマン気取りですか、そりゃめでたいですな、ていう。
A:ええ……
B:あんま調子乗んなよこのゴミクソ。
A:そこまでいうかな。
B:でもさ。
A:でもさ……?
B:おまえ……ほんと……最高のツッコミだよな。
A:うっす。バランスわりーな。ちゃんと褒めと褒めでサンドイッチしろって。パンの部分薄すぎて中身の味しかしねえじゃん。
B:うれしいじゃねえか。
A:それもそうか。
B:むず。
A:とにかく練習してくれよ。これでお互い言いたいこと言いやすくなればウィンウィンだろ。
B:またビジネス用語。
A:褒めろ褒めろの『ホメロス』『イリアス』『オデュッセイア』だっつーの。
B:そういうとこだよ。ムダに頭良い感じを出そうとヘンなこと言ってスベるというね。
A:インテリゲンチアにはなれないかあ。
B:うるせえわ。インテリでいいだろ。なんだろゲンチアって。
A:まあ、とにかくサンドイッチ法ならうまくいくって話。
B:そうかなあ。このやり口を知ってしまった以上、すべてを疑ってしまう気がするよ。
A:何がさ。
B:自分が褒められてんのか、このあと怒られるフリなのかわからないというか。
A:大丈夫だよ。お前は強い人間なんだからさ。
B:おう。
A:でもさ。
B:それだよ。その「でもさ」が怖ええんだって。
A:人の意見を素直に受け入れないというか自分のルールに固執するあまり視野が狭いというか。もっとおもしろいことや笑いのタネが転がってるのに見逃しがちというか。
B:いやいや、それを言うならお前もツッコミとして自分は一歩引いてというか前出ないスタイルにしてるけど、もっとパッションというかお前らしさが見えてこないと愛嬌が生まれないんだよ。
A:ええ……
B:でもさ。
A:でもさ。
B:お前は最高だよ。
A:……ありがとうな。
B:おお。これからも何かあったら本音でぶつかりあっていこうぜ。
A:暑苦しいな。
B:うい。
A:まあ、腹割って話すのは大事だしね。
B:そういうこと。でも何でこのサンドイッチ法を取り入れようと思ったん。
A:部下とか後輩に対するマネジメントの本読んでたら書いてあったのよ。
B:おまえ俺のことマネジメントしようとしてんのかよ。相変わらず鼻につくゴミクソだな。
A:でもさ。
B:うるせえ。でもさもクソもねえよ。
A:いや違う。さっきから俺らの罵倒の言葉で最強なのが「ゴミクソ」ばっかでしょうもねえなと思って。
B:うるせえ……コンプライアンスとか炎上対策で使える言葉少ねえだろ。
A:マジメだな。

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