見出し画像

救世主は電話恐怖症

◯オフィス(外観)

◯同・会議室
   先輩社員と新入社員が向かい合って話している。

先輩:別に説教とか何が悪いって話じゃないんだけどさ。
新人:はい……
先輩:営業としてもったいない、ていうか。
新人:……
先輩社員:資料のクオリティも高いし、プレゼンスキルもあるし、対面のコミュニケーションは完璧じゃん。
新人:いえ、そんな……ありがとうございます。
先輩:面接の時に言ってた、なんだっけ。特殊能力で世界を救ったことがあるとか何とかなんでしょ。
新人:それはその……まあ、そうなんですけど。
先輩:ともかく、若手のエースとして期待してるんだよね。ああ、こういうとハラスメントになるのか。
新人:いえ、大丈夫です。ありがとうございます。

◯テレビの画面
女性アナウンサー:緊急速報です。東京都品川区のアパートで火災が発生しました。現在は鎮火していますが不審火に十分ご注意ください。

◯(同・テレビの画面)街頭インタビューの様子
主婦:本当にびっくりしました。ミサイルが墜ちてきたんです。

◯(現地)街頭インタビューをしている様子
男性アナウンサー:その時の様子はどのような感じでしたか。
主婦:もういきなりですよ。ひゅーん、ズドーン!て。あそこの家に。見えますかね。
男性アナウンサー:えっと、あそこの。
主婦:そうです、あの青い屋根のおうちの向かい側……あら、何でしょう。
男性アナウンサー:何かが動いて……おっと、人が見えますね。

   火災現場から人影が現れる。
   撮影クルーが近付き、テレビで生中継されている。

男性アナウンサー:火事の跡地から人が出てまいりました。生存者の方でしょうか。

   人影が少しずつ明らかになってくる。全身黒ずくめの怪しい雰囲気。

男性アナウンサー:ご無事でしょうか。ちょっとお話お伺いできればと思いまして、インタビューよろしいでしょうか。
謎の人物:我は「叡王」。すべての知を持つ存在。
男性アナウンサー:え、叡王さん……?

   謎の人物が手をかざす。近くの建物が爆発する。

男性アナウンサー:なんと!生存者と思われる方が何らかの力で近隣を破壊しております!大変危険な状況です!
謎の人物:抵抗しなければこれ以上の害は与えない。我の要求はただ一つ。
男性アナウンサー:犯人が何かを要求するようです!
謎の人物:ここに国家を成立させる。

◯ある司令室
   その映像を見ている司令官。
   深く考え込んだ後で決心した表情。

司令官「ヤツの出番か……」

◯会議室
先輩:最近はいろんなハラスメントとか恐怖症があるっていうのは理解してるからさ。別に何かを強制したりとかではないのね。
新人:……はい。
先輩:ちなみに学生時代はどうしてたの?
新人:そもそも通話自体あんまりなくて、あってもほぼ友達とか知り合いなので……
先輩:じゃ仕事始めてからなんだ。
新人:はい。取引先やお客さまに電話で詰められるっていう経験がなかったんで、ちょっとトラウマというか……
先輩:電話恐怖症っていうやつだよね。まあ、わからなくはないんだけど何とかしないと今後も……ね。
新人:……ですよね。
先輩:会社の人は百歩譲っていいとして、取引先からの電話を無視しちゃうとさ。何が起きるかわかんない、ていうか。
新人:……わかってはいるんですけど、基本的に電話は取らないようにしちゃってる節もあって。
先輩:それなあ。大事な話が電話でくることもあるだろうし。
新人:……はい。

◯廊下
   先輩と新人が会議室から出てくる。

先輩:いやまあ、少しずつ慣れるようにしてけばいいから。俺も会社もできる限りサポートはするし。
新人:ありがとうございます。
先輩:うん。うまくやってこう。じゃ、また。
新人:はい。おつかれさまです。

   先輩が去っていく。
   新人は溜息を一つ。
   会社用のスマホを取り出して画面を確認。
   特に通知はなくて安心した様子。
   同じく私物のスマホを確認すると、頭を抱え込んで悩む。
   通話ボタンを押そうにも押せず、手が震えてしまう。

スマホの画面:「防衛省 特殊災害対策司令室」の文字


<元ネタ>
5/27月:北朝鮮がミサイルを発射
5/28火:パレスチナを国家承認
5/30木:若者に広がる「電話恐怖症」
5/31金:将棋叡王戦

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?