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「崖っぷちの女」/さわきさん×すまスパ!企画(#火サスどうでしょう)

強く吹きすさぶ風。周囲の草木も、むろん私の髪も、その風に煽られ海へ海へとなびいている。遠く眼下には、岩に打ち付ける波濤。

これでいい。準備万端、それらしき舞台は整った。あとは彼らの到着を待つばかりだ。

「いやー、探しましたよ」

タイミングよく背後から男の声。組織力では公安の方が手強いかと思っていたが、いち早くたどり着いたのは「クセ者」の県警・五十嵐刑事だったか。老刑事・五十嵐はコートの裾を風に翻しながら歩み寄る。この男は現場検証や、事情聴取などで何度も通ってきたので、もう顔なじみのようになってしまった。

「おめでとうございます。五十嵐さんが一番乗りですよ」

「刑事のカンで、といいたいところですがアナタの車の方に昔ながらの発信機を仕込ませていただいたもので」

「ああ、それで・・・」

スマホに位置情報の隠しアプリを仕込んだ公安よりは早かったということか。アナログな仕掛けは逆に見落としやすかったようだ。

「私はね、アナタが国家機密のデータをどこに隠したか、なんてことはどうでもいいんです。公設秘書のアナタが佐川議員を毒殺した。こっちのほうの容疑でアナタを逮捕せにゃならんのです」

じりじりと距離を詰めながら、五十嵐は右手を腰に回し、手錠に触れる。とその時、五十嵐の背後からスーツ姿の男たち数人が姿を現した。どうやら役者が揃ったようだ。私は彼らに気づかれぬように右手をポケットに入れると、そっとボタンを押した。

「もう逃げられんぞ!観念しろ姫川!」

一気に駆け寄ろうとする男たちの前に、老刑事が両手を広げて立ちふさがった。

「お待ちください。県警が殺人容疑で逮捕します。公安はその後で」

「バカを言うな、ことは国家機密だぞ!姫川、取引だ。データのありかさえ吐けば、殺人容疑は問わない」

「聞き捨てなりませんな。毒殺の物的証拠は揃っているし、なにより佐川議員は私の幼馴染。闇に葬るわけにはいきませんよ!」

「では私からの提案です」

私を除け者にしてつかみ合いを始めようという二者に対して言い放つ。

「正直、私はこのまま身を投げてもいいんです。ですが、せっかくお集まりいただいたのですから、ひとつ余興を。私の知りたいことを答えていただいた方の言うことを聞く。この条件ではいかがでしょう」

スーツの男たちの中の一人が前に出る。

「公安外事4課の高木だ。知りたいこととはなんだ」

「それを聞いたら、自動的に条件を呑むことになりますよ」

高木は表情を変えず、威圧するような目で私を見つめる。

「質問を言え。答えるかどうかは内容による」

「・・・総理の」

と私はひときわ大きな声を上げる。

「不祥事が関係各国に漏れ出た場合、外交が不利になりませんかね!」

「私はね!」

と今度が五十嵐刑事が声を張り上げた。

「総理が変わろうが、政権が変わろうが知ったこっちゃない。目の前の殺人事件を解決するのがデカの矜持ってもんだ」

「国家の安寧に比べれば、事件の一つや二つなど些末な事象だ。おい、押さえておけ」

高木の指示で、部下が五十嵐刑事の両腕を取って脇を固める。

「姫川、お前の聞きたいこととやらは、国家の安寧と天秤にかけられるものなのか?聞かせてみろ」

いいだろう。所詮、彼らは私の手の上で踊る人形に過ぎない。

「私の愛する人を殺したのは誰?誰が何のためにそうしたのか。これが私の聞きたいことよ」

真昼の太陽が輝く、晩秋の灯台。その下の岬には、しばしの静寂が漂っていた。


※後編は・・・運が良ければ、さわきさんに!そうでなければ後日書きます。お膳立てはしましたが、解決編はまだノーアイデア(^^;)

抽選にはずれ、後編はやむなくこちらとなりました!お暇な方はお付き合いをw


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