『 』を売る男6
あれから1ヶ月が経った。あの奇妙な店主との話を誰かに話そうかと思ったが、それこそ店主の思い通りになった気がして誰にも打ち明けずにいた。
この1ヶ月、マーケットでは大きな騒ぎになっていた。
あの奇妙な店はあれきり開かれる事はなく、代わりにあちこちに同じような店が乱立したのだ。
華やかな通りの大きなスペースに"第2の成功者"がいかにも金持ちのように振る舞いnullを売った。すると彼らに続けと似た店が産まれ、仕舞いにはマーケットの半分を占めるくらいのnullを売る店が並ぶようになった。
買って下さい!私も買ってお勧めだと思ったから売っているんです!どうか、どうかnullを買って下さい!小さい子供もいるんです!
先月子供を使いつまらない品物を売っていたあの店主は、今はnullを売っている。相変わらず同情とセットで。
あの○○さんが買った~、人生逆転のチャンス~など、様々な売り文句でnullが売られていた。
今までも世の中の流行りに合わせてマーケットが様変わりしたことはあった。しかし、今回は単なるブームと明確な違いがある。
ひと通り回ってみても、どこにも客がついているようには見えなかったのだ。
更に1ヶ月経つと、今までnullを売っていた店に変化が現れはじめた。
"nullを売る方法"を売り始めたのだ。
店主は老若男女様々だが、みんな判を押したように売り文句が同じだった。
『私はnullでこんなに成功しました!そのノウハウを売っています!』
店主達はほつれたスーツ、伸ばしっぱなしの髪をそのままに一生懸命『成功者』を演じようとしていた。
そしてマーケットだけではなく、テレビでもちょっとした話題になりnullの知名度はどんどん広まっていった、が──
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