『 』を売る男3
それからの店主は饒舌だった。店を構え、客に一言二言呟けばそれが売れるのだという。
まだ店をかまえて1ヶ月ですが、今では遠方からもお客が来るんですよ。何もないのにね、と店主は話す。
そうして話をしてる合間にも私の後ろに今か今かと客が並んでいるのを感じる。──非常に興味深いが商売の邪魔はしてはいけないな──話を切り上げ失礼、と移動しようとしたが店主がそれを遮った。
いいんですよ、今日はもう店じまいにします。旦那がよければもう少し話をしませんか。ああ後ろの皆さん、今日はもう終わりです。お帰り下さい。帰り道は気を付けて。
いきなりの店じまい、普通なら怒号が飛び交ってもおかしくない状況なのに客達はすんなり去っていく。客達は老若男女様々な人間がいたが、皆支柱を失った朝顔のようにふらふらとしているのも気になった。が、今はそれより大事な事がある。
それで、これには何かからくりがあるんだろう?客払いをしてまで私を引き留めたんだ、そろそろ教えてくれないか。
店主はにっこりと笑った。裏道のマーケットには似つかわしくない、ずいぶん人当たりのいい顔が少し不気味に見えた。
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