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名盤紹介#1 宮本浩次「ROMANCE」

突然ですが、自分がいいなと思ったアルバムをみなさんにも知ってもらいたいと思い、これから自由にアルバムのレビューというより紹介をしていきたいと思います。

記念すべき第1回目は、宮本浩次「ROMANCE」です。これは全曲がカバーのアルバムですが、2020年を代表する名盤であることは間違いありません。

1 カバーアルバムに対する本音

今までカバーアルバムというものにあまり興味がありませんでした。というか、「なぜわざわざ他人の曲を歌うのだろう。自分のオリジナル曲こそ自分が一番うまく歌えるのだからそれを大切に歌い続ければいいのに。」という、他人の曲をプロの歌手が歌うことに対する一種の偏見すら持っていました。いくら歌がうまい人でも、結局他人の曲を歌ったところで超えられないと思っていました。

それに、カバー曲となるとヴォーカルをメインに聴かせたいという目的からか、曲のアレンジがアコースティックになって変に落ち着いてしまったり、逆に原曲の雰囲気を損なうほどにガラッと変わったりしているものが多く、それらもカバーアルバムを受け付けない原因になっていました。全く同じにしてもカラオケみたいになってしまうので、多少はアレンジしないといけないのだろうとは思いますが。

なので、最初はこのアルバムも全く聴く気になりませんでした。しかし、ふとこのアルバムの曲(後で紹介します)を耳にしたら、先程説明した偏見が見当違いのように思えました。そしてすぐにこのアルバムを手に取っていたわけです。

2 宮本浩次というヴォーカリスト

さて、宮本浩次さんといえば、かの有名なロックバンド、エレファントカシマシのヴォーカルです。私はCDも持っていますし、ワンマンライブに行ったこともあり、そこそこのファンだと自負しています。

宮本さんの魅力はビブラートを使わず、ただひたすらまっすぐに力強く歌い上げる声、そしてその歌のうまさだと思います。

そして、それらが「悲しみの果て」や「俺たちの明日」「風に吹かれて」といったエレファントカシマシのメッセージ性のある曲にぴったりで、私たちを勇気づけてくれるのです。宮本さんに「さあ頑張ろうぜ」と言われたら、不思議と頑張れるような気がするのです。

3 異邦人

今回のアルバム「ROMANCE」は全曲が女性歌手の曲です。ストレートで泥臭く男らしいヴォーカルが宮本浩次さんの真骨頂でありますが、女性歌手の曲を歌ったらどのようになるのでしょうか。

それではとにかく、アルバムの3曲目、「異邦人」を聴いてください。

どうでしょうか。私はこれで度肝を抜かれました。衝撃でした。こんなカバー曲があるのかと思いました。

この曲のなにがすごいかというと、まずとにかく、歌がうまい。この一言に尽きます。

いつもの宮本さんのまっすぐで力強いヴォーカルに加え、ファルセットを多用し繊細さを持ち合わせた歌い方になっています。

宮本さんがこんなにファルセットを多用する曲は聴いたことがありません。多分このくらいの高音域なら宮本さんは地声で出せると思いますが、なぜ今までファルセットを使ってこなかったんだろうと思うくらい綺麗な声で、ヴォーカリストとしての表現の幅の広さを感じます。

アレンジも本当に素敵です。原曲の異国感溢れる怪しげな雰囲気はそのままにロックアレンジされており、それがうまく宮本さんの声とマッチしています。

さらにはMVにも注目です。火の粉が舞う古代ローマのような街を絶望の眼差しで見つめ、グランドピアノだけがある誰もいないエントランスをさまよい、そしてバンドメンバーの待ち受ける廃墟と化したホールへとたどり着く宮本さんは、まさに異邦人そのものです。また、これはあくまで推測ですが、今のコロナ禍におけるミュージシャンの混乱や悲しみを表現しているような気がしてなりません。

「異邦人」(久保田早紀)はこれまでいろいろな方にカバーされてきており、何曲か聴いていますが、このカバーが最も好きです。正直に言うと、原曲より好きになったかもしれません。それくらい衝撃的でした。

4 もっとほかの曲も聴いてほしい

私が最も好きなのが「異邦人」ですが、ほかの収録曲も名曲揃いです。もちろん、原曲自体が名曲ということもありますが。

アルバムの1曲目の「あなた」(小坂明子)です。原曲の持つ物悲しさも相まってついつい泣きそうになってしまいます。この曲でもファルセットを多用しており、曲の繊細さを際立たせています。

MVでは自動演奏のグランドピアノ(「異邦人」のMVで出てきたピアノ)があるだけで、バンドメンバーは出てきません。「いとしいあなたは今どこに」と思い、「わたしの横にはあなたがいてほしい」と願う主人公のように、宮本さんはひとりで歌っています。


気になった方は全曲聴いてください。どれもおすすめです。

個人的には、#5「ロマンス」(岩崎宏美)、#6「赤いスイートピー」(松田聖子)、#7「木綿のハンカチーフ -ROMANCE mix-」(太田裕美)、初回限定盤#1「September」(竹内まりや)が好きです。結局、どれもおすすめです(2回目)。

5 まとめ

私がカバーアルバムに持っていた、他人の曲をプロの歌手が歌うことに対する偏見、他人の歌をカバーしたところで超えられないという偏見は見当違いのように思えました(ただ、このアルバムが違うだけで、ほかのアルバムはどうなのかという疑問は残っていますが…)。

宮本さんが子どもの頃から聴いてきた歌謡曲というルーツ、あえて女性歌手の曲を歌うというチャレンジ、曲にかける思い、原曲に劣らずむしろ勝るようなクオリティの高さ、そういったものがこのアルバムには詰まっています。

そして、このアルバムはオリコンウィークリーチャートで1位を獲得しました!グッズやイベント参加券等の特典が無いとCDが売れないような時代において、純粋に歌の上手さ、曲の良さが評価されてCDの売り上げが1位になるということは、ファンとしてとてもうれしいです。

このアルバムを聴いていると、今後また、エレファントカシマシでも、ソロでも、私たちを勇気づけ、感動させてくれるような曲を発表してくれるんだろうという期待しかありません。

天性の歌声を持った、まさに歌うために生まれてきた男、宮本浩次に今後も注目です!

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