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故郷に就ひて

浦添には生まれてから7年いて、自分の礎や心の原風景を作ってくれたところだけど浦添は遠くずっと行ってなくて今どうなってるのかもあまりよく知らない。土地の者ではなくなってしまった。

岐阜のことはよく知っていてぼくを大人にして育ててくれたところではあるけど自分の文化を否定されたことも多く到底此処は魂の故郷になんてなれない。実母との思い出の品を「みすぼらしいね」と蔑まれて捨てられるような、そんな体験を何度もした。お世話になった養母のイメージ。

馴染めない養母の元を出て、けれど今更実母の元へ戻る気にもなれず本当に自分の好きな街へ出た。東京、中野、その後下北沢。何処が自分の故郷かわからない。何処にも故郷がない。他の人のような故郷はない。最高って言える地元もない。 そういう感覚を知る人は多くはないのかも知れない。

僕の愛して止まない小説家の渡辺温が「海で生まれた」と嘯いていたという話を思い出し、自分の身の上のことに思い至ったのであった。
彼もまた生まれたところ、幼少期を過ごしたところ、中高を過ごした場所、青年以降を過ごした場所が違う人である。
僕の境遇に近いものがあった。
何処を故郷としていいのか分からない僕の気持ちが、出生地がどこの陸地にも属していないと言いたくなるその気持ちと重なったように感じたのだった。
この境遇を知らないと感じ得ないものがあるのかもしれない。


おしまい。


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