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せんちめんたる・なんせんす

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嘘吐きは夜の海を散歩する。嘘吐きの僕の日常のことです。
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#プロポーズ

前の人生を思い出したと云う友人の話(1)

「僕の產まれる前の人生は、明治生まれの男で閒違ひないやうだ」 さう言つた幾野君は手に持つた白いマグカップに口を付けた。 「小さな弟たちが居たり姉が居たりとそんな夢を見る事がある。皆んな着物を着て居たよ」 「突然呼び出したと思つたらそんな話かい?」 僕は首を些か右に傾けて、彼に向かつて歎息とも笑ひともつかない聲を溢す。 「否、それだけでは無いんだけどね。ここ最近、生まれてこの方體驗した筈が無い事を思ひ出し續けてしまひ、氣持ちを持て餘して居るんだ。けれど此樣な事を誰彼構はず話した

君にプロポーズをした日

昭和に入ってからのことだっただろうか。 或る晩に僕は恋人にプロポーズをした。僕より年下の[恋人] 、当時数えで17歳だったと思う。 劇場か何かわからないけど、僕は彼女の仕事が終わって出て來るのを、煌々とした光を放つ白くて四角い大きな建物の前でまっていた。辺りはその建物以外は特に何もないようで、その路地は真っ暗だった。 僕はいつも彼女を迎えに来ているようだったけど、今日はプロポーズをすると心に決めており、すごくドキドキした心持ちで彼女が出てくるのをその建物の前で待っていた。