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せんちめんたる・なんせんす

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嘘吐きは夜の海を散歩する。嘘吐きの僕の日常のことです。
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#前世

前の人生を思い出したと云う友人の話(1)

「僕の產まれる前の人生は、明治生まれの男で閒違ひないやうだ」 さう言つた幾野君は手に持つた白いマグカップに口を付けた。 「小さな弟たちが居たり姉が居たりとそんな夢を見る事がある。皆んな着物を着て居たよ」 「突然呼び出したと思つたらそんな話かい?」 僕は首を些か右に傾けて、彼に向かつて歎息とも笑ひともつかない聲を溢す。 「否、それだけでは無いんだけどね。ここ最近、生まれてこの方體驗した筈が無い事を思ひ出し續けてしまひ、氣持ちを持て餘して居るんだ。けれど此樣な事を誰彼構はず話した

行きずりの女の子とした話。

何時のことだろうか。 彼女とはもうとっくに分かれて居た頃だった。 僕は誰のものでもなかった。 ある夜に一人の女の子と話が盛り上がった。 曰く「私、割り切った身体の関係平気だよ。そういうの楽しめる方」 と云うことだったので、「成程、僕もそうだよ」と意気投合した僕たちは、一度きりの割り切った関係として身体を重ねることにした。 彼女はパーマをかけて居たかどうか……とにかく割と派手なヘアメイクをしており、顔にはそばかすがあったかな。目は小さめで、サバサバして良い意味で女を感じさせな

昭和5年の中に残してきたネコのこと。

確証は無いけれど前世の感覚の話。 久世山という地名を意識してから、あの鷺坂を登って久世山の方を歩いてから僕は久世山のおうちに猫を残してきてしまったような気がしてならない。 前の人生、昭和初期。多分昭和5年頃。 僕はあの家で猫を飼っていた。とはいっても令和の時代のように家の中に閉じこめる感じじゃなく、放し飼いで猫も自由に家を出入りしている感じだった。 サバトラの猫だったような気がする。灰色の印象がある猫。 そのことを思い出すと涙が出てきて仕様がなかった。 あの猫はどうした