前の人生を思い出したと云う友人の話(1)
「僕の產まれる前の人生は、明治生まれの男で閒違ひないやうだ」
さう言つた幾野君は手に持つた白いマグカップに口を付けた。
「小さな弟たちが居たり姉が居たりとそんな夢を見る事がある。皆んな着物を着て居たよ」
「突然呼び出したと思つたらそんな話かい?」
僕は首を些か右に傾けて、彼に向かつて歎息とも笑ひともつかない聲を溢す。
「否、それだけでは無いんだけどね。ここ最近、生まれてこの方體驗した筈が無い事を思ひ出し續けてしまひ、氣持ちを持て餘して居るんだ。けれど此樣な事を誰彼構はず話した