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せんちめんたる・なんせんす

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嘘吐きは夜の海を散歩する。嘘吐きの僕の日常のことです。
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2024年1月の記事一覧

君と別れて。

大正15年の10月、蒲團から出て君を抱き締めて居る時、僕はとても幸せだつた。外は秋風が吹いて居て、實りを收穫した後の豐かで滿たされた季節が來る豫感がして居た。新しく訪れる季節は此れから永遠に續く幸せの始まりのやうに思へた。 蒲團の中では何時だつて溶け合つて居た。凝つとして居る丈で僕は幸せで滿たされて居た。 * 昭和3年頃、彼女と別れた僕は寂しくて仕方がなかつた。 足元がばらばらと崩れる感覺。背筋が何時もがくがく震へて少し氣を緩めると寂しさで自分が壞れてしまひさうだつた。