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乳酸とは!

糖の代謝に付随して乳酸についてまとめていきたいと思います。

「乳酸は疲労物質ではない」

というのはよく聞かれると思いますが、じゃあなんなのか説明しろといわれると少し難しいという方、多いのではないでしょうか。

ここでは整理して頭に入れていただけるように、簡略化しつつ解説していきたいと思います。

①乳酸って何?

乳酸とは、一言でいうと

グルコースがピルビン酸まで分解される段階でできるもの」です。

ピルビン酸とは?という方、ぜひ糖とは!④をご覧ください。

グルコースがピルビン酸に分解されるのは解糖系の代謝経路です。

この代謝経路には特徴が3つありました。

1つはグルコースからピルビン酸に酸化的分解されること。

2つ目はATPが2つとH₂Oができること。

そして3つ目はNADが還元されNADH+Hになること。でした。

乳酸ができるために、この3つ目の特徴が深く関わってきます。


②乳酸の作られ方

解糖系で最終的に残った2つのATPとH₂O、NADH+H。

ATPは前述のとおり、骨格筋収縮のエネルギーとなります。

では、NADH+Hは?

これらはもともと解糖系の代謝の過程でNADから分解されてできたものでしたね。解糖系によるエネルギーを供給し続けるためには、NADが必要です。そのため、分解されたNADH+Hを元のNADに戻す必要があります。

この時、酸素があるかないかによって反応が分かれます

酸素がある場合(好気的条件といいます)、すなあち呼吸により取り込んだ酸素が到達する余裕がある場合です。中~低強度の運動いわゆる有酸素運動が該当します。

酸素(O₂)が自ら酸化剤となり、ミトコンドリア内でNADに戻します。単純ですね。その時ピルビン酸はアセチルCOA酸となり、TCA回路という代謝回路に入れられます。そこでさらに多くのATPを作ることができます。


乳酸ができるのは酸素がない場合(嫌気的条件)。厳密にいうと骨格筋においてはグルコースの分解に酸素の供給が追い付かない場合です。

ちなみに陸上で考えると400m走は300mくらいまでは嫌気的条件のためATP-PCr系と解糖系を利用しますが、ラスト100mまでは持たず多少なりとも酸素を利用して代謝すると言われています。最後の直線に入るとき、急に身体が動かない感覚・腕が痺れてくる感覚経験ありませんか。あの時身体の中では必死に解糖系回してくれてたんですね。笑

話を戻します。

酸素がない場合にNADH+HをNADに戻してくれるのは

乳酸脱水素酵素(LDH)です!!!!!

この酵素の働きによりNADが再合成され解糖系に利用できます。そして副産物として、乳酸ができるのです


③乳酸の行方は?

解糖系を回すためにできた産物、乳酸。

この行方は、大きく分けて3つと言われています。³

1つは、骨格筋での酸化、もしくは再灌流。

細胞内にある乳酸は、MCT4(モノカルボン酸トランスポーター)によって細胞外に運ばれます。

今度はMCT1の働きによりミトコンドリアに入り、アセチルCOA酸となりTCA回路によって酸化されATPを産生します。

つまり、先ほど登場した好気的条件のピルビル酸の代謝経路と同じです!


ミトコンドリアは遅筋繊維に多いと言われています。それに対し、解糖系を利用するような高強度運動はハムストリングスのような速筋群が主に使われますよね。そのことから考えると、乳酸は主に速筋繊維で産生され、MCTの働きによって遅筋繊維のミトコンドリアに運ばれエネルギーとして代謝されるということになります。

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また2つ目は血中を移動し心筋での利用、3つ目は次回で登場する糖新生の前駆体として利用されます。

まとめるとこんな。

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④なぜ乳酸が疲労物質といわれるのか

ここまで見て、冒頭でもあった”乳酸は疲労物質じゃない、じゃあ何?”が少し紐解けたのではないでしょうか。

乳酸はエネルギー基質となり得る上に、糖新生を助けるという立派な役割を持ちます。

疲労物質だと研究されていた20世紀は、このこと(Lactate threshold(LT )といいます)が認知されていませんでした。

たしかに乳酸が産生されている状況は、解糖系によりグルコースの分解が高まっています。ATPの再合成やグルコースの取り込みが需要に追い付かなければ筋収縮に利用できるエネルギーも不足してしまう。それによって筋疲労を感じるという事実が、乳酸の産生と同タイミングで起こっているという認識だとここまで説明したことが納得できるのではないでしょうか。

ここで筋疲労という言葉を使いましたが、じゃあ疲労というのは何なのかというのは実はまだわかっていないようです。ヒントは参考文献1にたくさん書かれています。おもしろいので興味あればぜひ。

⑤ちなみに、、、

乳酸菌摂取すると乳酸溜まりにくいの?とよく聞かれたことがあります。

乳酸菌は腸内にいらっしゃるので、骨格筋の乳酸の処理とは関係しないと考えられます。

ただ、乳酸菌の持つ整腸作用や免疫の賦活の能力を考えると、アスリートが採ることにはポジティブな効果ばかりです。

ぜひ、このご時世なんで乳酸菌で免疫高めましょう。


参考文献

①下光輝一,八田光雄 運動と疲労の科学―疲労を理解する新たな視点―, 大修館書店, 2018

②坂本順司, イラスト基礎からわかる生化学, 裳華房, 2012

③Michael Ivan Lindinger, Lactic acid accumulation is an advantage/disadvantage during muscle activity
https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00213.2006

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