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はじめる人の背中を押し、地域の人の楽しみを増やす。曜日がわりのシェアキッチン ナワシロスタンド|東京・世田谷区

2020年、下北沢のボーナストラックに新たに東京事務所を構えたomusubi不動産。松戸に続く第二のホームタウン・下北沢における初めてのプロジェクトとなったのがナワシロスタンドです。空き家となった約築50年の民家。新しい使い方をしたいというオーナーの意向を受けて、曜日がわりのシェアキッチンという提案をしたのが、2021年の2月のこと。そこから約半年の期間で、DIYワークショップや出店者の募集を行い8月にグランドオープンしました。少しずつまちの生活に根付いてきたナワシロスタンド。物件のオーナーである山崎さんにオープンまでのプロセスや、これから望んでいることについて伺いました。


プロジェクトのポイント

  • 松戸での経験をもとに、曜日替わり形式のシェアキッチンをご提案する

  • KiKi北千住とともに、地域の人と関わりながら設計とコミュニケーションを同時に両軸で計画する

  • お客さん、出店者、オーナーの想いが重なる場所として運営しながら、場を育てていく




お話を伺った人たち

左:ナワシロスタンドを担当しているomusubi不動産の日比野亮二
右:不動産オーナーの山崎雅丈さん


もう一つ駐車場が増えて、まちは豊かになるだろうか


───山崎さんはこちらのお生まれになるのですか?

山崎雅丈さん(以下、山崎さん) そうですね。この家でオギャーと生まれたわけではないんですが(笑)、0歳から20代中頃までこのまちに住んでいました。下北沢も近くて便利なところでして、社会人になってからもしばらく住んでいましたね。今は都内の別のまちで暮らし、都内の会社に通勤しています。

───この建物はいつごろ建てられたのでしょうか?

山崎さん 45年ほど前になりますね。私が小さい頃、父親が建て直した2階建ての家です。私が出ていった後は母が一人で住んでいました。4年ほど前に亡くなり、そこからは空き家になり、溢れる物を整理していずれ何かやろうかなと考えていたのですが、片付けが進まない進まない(笑)。それで時間が過ぎてしまっていました。

日比野 懐かしいものが出てきちゃって、気づけば時間が経っているというのはありますよね(笑)。

───売ろうとか、自分たちで住もうといった選択肢もあったのですか?

山崎さん そうですね、両方とも検討はしていました。やっぱり、地震や放火など、空き家にしておくリスクもあるので、空き家のまま放っておくのはよくないなと思っていました。とあるNPOの方から使わせて欲しいとお話をいただいたり、駐車場にする提案を受けたりもしましたが、それでも、自分が定年になったら、何かできる場所として活用したいなという想いがありましたね。

───なるほど、それでやっぱり残そうと?

山崎さん 私も20数年しか住んでいなくて、その後20年以上離れちゃっていますけど、やっぱり生まれ育ったまちですし。このあたりは、私が小さい頃は賑いのある商店街だったんです。それがスーパーができて少しずつお店も少なくなってしまって。当時の景色を思い出しながら、地元の活性化といったらおこがましいですが、ちょっとでも力になれるかたちは無いかなと思っていました。

音楽業界で働く山崎さん。いつか、音楽をを感じられるお店をやりたいとも

───そうだったのですね。そんな中で、どうやってomusubi不動産と出会ったのですか?

山崎さん 相談にのって頂いていた不動産屋さんから紹介していただいたんです。リノベーションなどに長けた面白い不動産屋さんがあるよって。それでボーナストラックの事務所にお伺いして、そこで日比野さんと初めてお会いしましたね。今年(2021年)の2月のことだったでしょうか。
日比野 そうですね。そこでお話を伺って、omusubi不動産が千葉の松戸で取り組んでいるシェアカフェの話をさせていただきました。日替わりの何かをやりたいとはその時から話に出ていたと思います。このエリアにも時間貸しのシェアキッチンはあったのですが、自分たちの実店舗を設けるまでのステップとなるような場所があれば、このエリアにお店が増えていく一助になるはずと考えました。

───その後物件を見に行かれたのですね?初めて見たときの印象はいかがでしたか?

日比野 はじめて中を見させていただいて、1階と2階との関連性をうまく持たせられたら面白いなと感じました。比較的コンパクトな建物なこともあり、水回りの場所や客席のゾーニングなど、だいたいの間取りのイメージも浮かびました。立地としては、駅から遠かったり、そこまで通行者が多い場所ではないので、普通に考えたらハードルは高いわけです。でも、何かにチャレンジしようという人たちと一緒に盛り上げていければ、ライバルとなるお店も多くないため、成立すると感じました。

山崎さん この周辺にはもうご飯を食べられるお店もあまり残ってないんですよ。駐車場ばかりになっても風景としては寂しいですし、こういう古い民家でも上手に使うことができれば、地域にとってのいい事例になるんじゃないかと。

日比野 山崎さんと私たちの想いも重なり、山崎さんを紹介いただいた不動産屋さんを介して、私たちが建物をお借りして、出店者から利用料をいただく形態で事業の設計もしていきました。

数字には表れない立地の個性を見極めるのは、不動産屋の大きな役割だ

設計ユニットと組んで進めた改修とブランディング


───シェアキッチンに改修することがスムーズに決まって。思い入れのあるご実家を、DIYで改修することに抵抗はなかったですか?

山崎さん いや、全然なかったですね(笑)。とても楽しみでした。ただ、壁を塗るワークショップというものに本当に人が集まるのか、不安というか半信半疑でした。それでも募集してみたら1週間ほどで20人集まって、omusubiさんのSNSの使い方や、潜在的に興味を持たれている方々へのアプローチがとても印象的でした。

日比野 すごい勢いで集まりましたよね。SNSだけでなく、ご近所にポスティングもさせていただきまして。斜め向かいにお住まいの方もそれを見て顔を出してくださり、とても嬉しかったです。オープン前に徐々に地域との関わりをつくることを大切にしていました。

───設計はどのように進めていったのでしょうか?

山崎さん やっぱり素人なので、実際かたちにならないとイメージが湧かない部分もあり、omusubiさんにお任せでしたね(笑)。

日比野 だいぶ信頼いただき、ご提案をさせていただきました。設計はKiKi北千住さんというご夫婦のユニットにお願いしました。松戸に私たちが運営させていただいている古民家のイベントスペースがあるのですが、KiKiさんはそこで結婚式をされた方でして。ご自身たちも古民家をDIYで改修して北千住でお店を営まれていて感覚も近いし、旦那さんは設計、奥様はデザインができるということで、ブランディングも含めてご一緒いただきました。ワークショップのインストラクターもやっていただきましたね。

山崎さん いくつも驚いたことはあるのですが、この2階の一部を吹き抜けにするのなんて、すごいアイデアだと思いましたね。自分では思いつかないなと。民家をお店にするときに、どうやって家っぽさをなくすかが一つポイントかなと思ったのですが、この吹き抜けによりとても印象が変わって。それでいて、ちゃんと家の物語を残していただいているので、とても気に入っています。

2階は客席に。3面から光が入り、吹き抜けが空間をより開放的にする

───ナワシロスタンドという名前やコンセプトはどのように決まっていったのですか?

日比野 ネーミングもKiKiさんのアイデアでして。私たちは千葉で田んぼの運営もしているのですが、KiKiさんが田植えイベントに遊びに来てくださったんです。そのときに、苗代(なわしろ)というアイデアが浮かんだと言っていました。稲の苗を育てる場所という意味なんですが、omusubi不動産は社名も田んぼが由来ですし、自分のお店を持つ人が育っていく場所としても、ぴったりだなと思いました。あと、ここの住所が代田という町名で、それも田んぼが由来の地名なんですよね。

山崎さん 初めてその意味を聞いた時、すごくしっくりきました。人が集まる場所になる予感がしましたね。ここで週に一度お店をやって、卒業した人が後輩に紹介して、その方がまた週に一度お店をやって。そんな循環が生まれていくといいなと思っています。

───オープンしたのが今年(2021年)8月1日でしたが、少し経ってみていかがですか?

日比野 7月のプレオープンのとき、最初にポップアップを中心に中華屋さんを営まれていたご夫婦に入っていただきました。もともとはボーナストラックのキッチンで出店もされていた方なので、お客さんにナワシロスタンドのことを告知いただいたり、設備に関するフィードバックをいただきました。現在(2022年7月時点)は2組3曜日の営業を行っています。

山崎さん 飲食店をオープンするタイミングとしては、コロナの状況が落ち着かない限り、かなりハードルの高い時期だと思いますので、まずここで初期投資をかけずに徐々に始めていくのはいいのではないかと思います。バーの営業していない昼間を借りて、カレー屋さんをやるお店なんかも増えていますよね。

日比野 お客さんも近所の方に多く来ていただいています。特に、近隣の会社勤めの方には日常的に使っていただいていますね。内装の雰囲気もできるだけ幅広い層の方が入りやすいようにKiKiさんとは話し合っていました。やっぱり、一番のお客さんは地元の方だということは忘れないようにしたいなと。

1階はキッチンとカウンター、テーブル席。
幅広い料理家さんが使えるようにミニマムに設計されている

チャレンジする人たちにとっての、はじまりの場所でありたい


───これからナワシロスタンドをどんなかたちに育てていきたいですか?

日比野 食べるだけでなく、いろいろな楽しみ方ができたらいいなと思っています。はじめてこの建物を見た時から、楽しく密度の濃い空間にできたらと考えていて。例えば2階を作家さんが展示場として使ってくださったりとか、人の感情にアプローチできることをたくさんできたらいいなと思っています。

山崎さん 営業を重ねていくうちに、近所の方や常連さんからリクエストが来るかも知れませんしね。夏はかき氷が食べたいとか(笑)。

日比野 そういったライブなコミュニケーションは大切にしたいですね。

山崎さん ナワシロスタンドでお店を始めて、それから独立していった人が、ここを実家というか、育った場所として想ってくれたらうれしいです。一期生、二期生みたいに呼び合うような。何年もやったあとにこの場所の価値が蓄積されていくことを楽しみにしています。卒業生が全国でお店を開いたら、各地を訪れることが私の老後の楽しみになるかもしれません。オーナー面しちゃったりしてね(笑)。

お客さんだけでなく、出店者、オーナーさんが楽しんでくれる場所をデザインすることがすべてのはじまりになる

───山崎さんはどうしてそんなに寛容なんですか?(笑)。オーナーさんのあり方として、使う人をすごくやる気にさせてくれるような気がします。

山崎さん 駐車場にしようなんてことも考えていたくらいなので、究極なくなっても仕方ないと思っているんです(笑)。だったら思い切って活用いただいて、好きなようにしていただくのがいいかなと。それだけはやめて!なんてことも特にないんですよ。

日比野 生まれ育った実家ですからね。もうちょっと保守的になって当然とも思うのですが(笑)。

山崎さん 何も生み出してなかった空き家がいろいろなプラスを生み出してくれて、本当に感謝しているんです。草が生えたり、敷地にゴミが捨てられちゃったり。メンテナンスも大変だし、人が出入りしないと家も痛みますからね。いろいろな意味で助かっています。若い方に使っていただくことができて、本当に嬉しいですよ。

日比野 私たちとしてはこの建物のポテンシャルを最大限活かしながら、地域のみなさんに喜んでいただける場づくりをがんばっていきます。これからの盛り上がりを楽しみにしていてください。


山崎雅丈
1967年生まれ、地元の花見堂小学校出身。
音楽エンタテインメント企業勤務。
ここ数年は同じ好みを持つ人が集まるコミュニティ作り、幸せを感じる空間作りをライフワークにしようという思いが高まっている。

日比野亮二
omusubi不動産 不動産企画開発
主にオーナーさまよりご相談を頂き、都内各地の不動産活用の事業企画から利用者の誘致、その後の利用・運用の立ち上げまでを行う。


Photo=Hajime Kato
Text=Takehiko Yanase



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