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ままならない日々も、直感を信じて歩き続ける。 | ”おみせ”の人びと

自分のお店が欲しかった。

いや、”お店”というと少し違うかもしれない。自分が好きなものに囲まれて、好きなことができて、人を招き入れられる。そんな場所が作れたらいいなあと妄想したことが、私には多々ある。

しかしある程度の年数を生きてくると、それは容易なことではないようだと気づいた。
そしてそれを叶えた人たちを、日々、羨望と尊敬のまなざしで見つめている。

でもそんな人たちも、皆同じ人間同士。悩みもあれば、転機になったこと、続けている理由がそれぞれにある。

お店は難しいかもしれないけれど、「場」をもつことは引き続き興味があるし、挑戦してみたい。
日々取り組んでいる方々に、「どんな思いで毎日を過ごしているのですか」と聞いてみたい。

そんな思いから、omusubi不動産が扱う物件の入居者の皆さんにインタビューするシリーズ「”おみせ”の人びと」がスタートした。

今回お話を伺うのは、みのり台で野菜を楽しむレストラン「亀吉農園 別館」を営む大場友さんと、松戸で隠れ家的なイタリアン「porta verde」を営む阿部淳一さん。

お二人は同年代、そしてほぼ同じ時期にお店をはじめた。それぞれコロナ禍も経験し、苦楽に日々向き合い続けている。

飲食店”のような”お店

大場さんは、農薬や化学肥料に頼らない野菜作りをしている。営んでいるお店「亀吉農園 別館」では、育てた野菜を使った食事が楽しめるほか、野菜やスコーンなども購入できる。

大場さん:元々、飲食店の”ような”お店というコンセプトでつくりました。食事を提供するだけでなく、野菜を売ったり、時には物産展のようなものをしてみたり。近所のお年寄りやベビーカーを引いた家族連れなど、色々な人が立ち寄れる場所にしたかったんです。

亀吉農園 別館 店主の大場友さん

お子さんが生まれたことをきっかけに家庭菜園を始め、徐々にその面白さにのめり込んでいった。奥さんのご実家がある長野・木島平に畑があったことも後押しとなり、サラリーマンを辞めて農業の道へ。その一方で、omusubi不動産が運営する古民家レンタルスペース「隠居屋」で、お店の原型となる野菜を使ったランチ営業をスタートさせる。

大場さん:僕は生粋の料理人というわけではないんです。かといって農業も新規就農なので「何者でもない」という感覚があるんですよね。
隠居屋でお店を始める時も、メニューを絞りこんで、要素を掛け合わせてみたら勝負できるんじゃないかという思いがあって。それで、古民家とパスタと野菜を組み合わせてみたんです。

大場さんの思惑は見事に当たった。コロナ禍の突入と共にオープンした時期こそまばらだったお客さんも、SNSなどの効果もあり徐々に増え、テレビ出演を果たすほどに。そして隠居屋での営業を始めて約1年半後、今のお店となる物件に出会った。

大場さん:本当はもう少ししてから店舗を持つつもりだったんですけど、たまたまomusubiさんに紹介してもらった物件がすごく良くて。二つ返事で「借ります」って言いました。
そこをどんなお店にしようかと考えた時、最初に「いわゆる飲食店ではないな」と思ったんです。飲食店というか、食事だけを提供する、レストラン的な形態。それだけのお店にするイメージはあまり湧かなかった。
なので隠居屋の時のように、色々なものを組み合わせてみようと思いました。食事だけでなく、野菜を買ったり、物販もある。イメージとしては「道の駅」みたいな感じですね。

オープン当初はメディアの影響もあり、食事を楽しむ人がほとんどだったが、最近は少しずつ落ち着いてきて、思い描いていたイメージに近い形になってきたという。

大場さん:もし今後、しっかりとレストランとしてお店をやるなら畑の隣や真ん中に作りたいなと思っていて。その時は「本館」と付けようと思っているので、先に「別館」ができました。(笑)今はまずここで、考えていたイメージをより具体化していけたらと思っていますね。

作りたかったのは、仲間が集まる場所

一方の阿部さんが営むお店は、「肉とイタリアン」と銘打つ。その名の通り、ステーキなどの肉料理をはじめ、前菜やパスタなど様々なメニューをカジュアルに楽しむことができる。

しかし、阿部さんも料理の道から始まったわけではなかったという。

阿部さん:高校生のとき野球部に入っていて、皆すごく仲がよかったんですね。それで将来仲間たちが集まれる場所、ペンションを作りたいと思ったんです。ペンションだったら、年を重ねても集まれるだろうと。そう考えて、まずホテルの専門学校に進みました。

porta verde 店主の阿部淳一さん

卒業後はホテルに就職。その後ペンションで修行を積むも、経営の難しさを痛感。そこから料理の道に入った。激務の日々を送ったが、周りの人には恵まれたという。

阿部さん:最初の頃に出会ったシェフが面倒見のいい方で。店をやりたいならこれじゃダメだぞって、経験のなかった自分にも丁寧に教えてくれました。その後も他の業種を経験したくて転職しようとしたら、会社が配属先を変えてくれたり、個人店に入りたいと思っていたら、知り合いが紹介してくれたんです。
ただ色々経験して、他の人のお店のためにこんなに必死にやるんだったら、自分のお店を持ちたいという気持ちが強くなりました。

物件を探すなかomusubi不動産に行き当たり、1日店長ができる場所を紹介され、自分の活動をスタート。とんとん拍子に物件も見つかり、念願の実店舗をオープンした。
なんとか1年目が終わった頃、コロナ禍に突入する。

阿部さん:休業したらお店のことを忘れられてしまうと思って、テイクアウトをやったり、とにかく試行錯誤しました。でも何をやるにも全部一人で。孤独感がすごくあったんですよね。

ちょうどその頃、omusubi不動産が管理するbulingCの1階が空くことを耳にする。bulingCにはカフェやネイルサロン、建築事務所などが入居し、阿部さんの知り合いも多かった。

阿部さん:ここが空くって聞いた時、もうドキドキが止まらなくて。bulingCでのイベントにも出させてもらって、もうとにかくここでやりたい!って思ったんです。

その後募集に手を上げ、移転が決定。立ち上げメンバーも決まり、新しい場所での営業をスタートさせた。そして、この夏で移転して2年を迎える。

阿部さん:移転前は不安もあって、色々な人に「ここで俺がお店をやるのってどうですか」って聞いたんです。その時「その場所に別の新しいお店ができてお客さんが入ってるのを見たら、どう感じると思いますか?」って言った人がいて。想像したら、後悔するなと。今でも日々葛藤はしてますけど、本当によくここまできたなって思います。

日々はままならないことばかり、でも

色々なことと向き合いながらお店を続けている二人。今回のインタビュー中にも様々なテーマが上がった。例えば、人を雇うということ。

阿部さん:店の規模が大きくなり、お金の流れやサービスなど、1人だとシンプルだったことが徐々に複雑になって。特に、スタッフのことは大きなポイントですね。週末は忙しいからと多く入ってもらっても、その分必ずお客さんが来るというわけではないですし。シフトの調整も悩みの一つですね。

大場さん:どのくらい任せられるかということも大事ですよね。

阿部さん:そうなんです。料理をつくるのは自分しかいないので、それ以外のことは可能な範囲で任せたい。今は少しずつできることを増やしてもらっています。自分がやるところ、任せられるところを分担してお店が回るシステムを早く整えたいですね。

二人とも向き合っているのはお店だけではない。特に家族の時間とのバランスは、試行錯誤を続けているという。

大場さん:これまで個人の飲食店は、家族とのバランスを多少無視してやってきたんじゃないかと思うんです。だけど今はそういう世の中じゃない。男性だって子どもの成長をみたいし、家事もやりたいんですよね。
お店を開いてお金を稼いだ方がいいのか、家族の時間があった方がいいのか。そういう話し合いは常にしています。

阿部さん:何のために働いているのかというと、家族で楽しく過ごすためなんですよね。でもお店の時間を増やすと、家族と過ごす時間が減ってしまう。
そのために、テイクアウトを増やしたり、お弁当を卸したり、お店を通常営業する以外で売上を作る方法をずっと考えています。

二人からは、日々のあれこれがとめどなく出てくる。思わず「お二人がお店を続けられている理由ってなんでしょう」という言葉がぽろっと口をついてしまった。

二人とも、うーん、と最初は唸り声。阿部さんが、絞り出すようにして言う。

阿部さん:たぶん他の人から見たお店のイメージと、自分のお店のイメージって全然違うと思うんですよ。だから、”続けられている”と言っていいのかどうかも、正直自分にはわからないんです。

大場さん:みんなそうですよね、きっとね。

阿部さん:わからないながら、模索しつつなんとかやっているという感じですかね。

大場さん:でも阿部さんのお話をきいていると、いつもターニングポイントで助けてくれる人が現れるから、これからもきっとそういう人が出てきてくれそうですよね。

そうですかねえ、と笑う阿部さん。大場さんはどうですか?と聞いてみる。

大場さん:こういうお店があった方がいいと思うからでしょうか。自分が住んでいる街に、野菜が美味しく食べられて、買えるところがあったとしたら、それってすごく良くない?って。自分が作っている野菜や提供しているものには自信を持っているから、皆に味わって欲しいし、楽しんでほしい。お客さんが少ない日は、スタッフと「こんなに美味しいもの作ったのに、食べないなんてもったいないよねえ」なんて話したりしてますよ。(笑)

直感を信じて、動き続ける

最後に、二人がこれからやっていきたいことを聞いてみた。

阿部さん:せっかく松戸にいるので、他のお店や人と関わりながらやっていきたいですね。以前働いてくれていた人が、今度コーヒースタンドを始めたんですよ。そういう繋がりがあるところに卸させてもらったり、同じ経営者目線で色々相談したりもしたい。もっと広がりを作って、お互いに補い合っていけたらいいなと思っています。

大場さん:うちで働いているスタッフで、お店を持つことに興味を持っている人がいるんです。そういう好きなものがある人、やりたいことがある人のお店づくりをサポートをしてみたいなと思っています。

あとは畑のワークショップ。参加している人たちがすごく楽しそうなんです。週1回、平日の朝早くからやって、終わった後は参加者同士のLINEグループが「収穫した野菜、美味しかった!」って大盛り上がりしてるんです。

それを見て、もうこういう時代なんだなって思ったんですよね。お店や僕たちに関わることで、お客さんがどういう体験ができるかということ。参加者の皆さんの良い表情を見ると、僕ももっとやりたいなって思うんです。

もちろんお金のこととかも頭をよぎりますよ。でも、お客さんが楽しんでいるイメージがしっかり描けてやりたいと思ったら、あとは行くしかないっしょ、っていう感じですね。

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自分のお店をやり、メディアにも取り上げられ、移転をして。
私からすれば、二人はやりたかったことを実現している「すごい人」。

でも、やりたいことを軽やかに実現しているように見える二人も、人との関係性や家族など、私と共通するような悩みを持っていた。
ただ、悩んでも、立ち止まらない。直感を信じ、その方向に一歩、また一歩と踏み出し続けていく。

日々はままならないことばかり。
けれどもどんな道だって、歩き続けることをやめなければ、その先に自分のお店ややりたかったことが待っているかもしれない。
そう思ったら、一歩踏み出すことに、前よりもっとワクワクできる気がした。

(文章:原田恵、写真:原田恵、一部写真提供:亀吉農園別館)


【各店情報】

・亀吉農園 別館
住所 〒270-2231 千葉県松戸市稔台1-21-1 あかぎハイツ107
営業時間 9:00-17:00(火曜のみ12:00-17:00)
定休日 :不定休(インスタグラムにてご確認ください)
インスタグラム https://www.instagram.com/farm_kamekichi/

・porta verde
住所 〒271-0091 千葉県松戸市本町5-3 buildingC 1階
営業時間 
ランチ 11:30-14:30、ディナー17:30-23:00 
定休日 :日、月曜日
インスタグラム https://www.instagram.com/porta_verde11/

※状況により、営業時間等が変更になる場合があります。詳細は各店舗のインスタグラム等をご確認ください。


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