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はしっこから、風が吹く【河田桟著 はしっこに、馬といる 読了感想】

1匹の馬と1人の人間の特別な関係。

恐らく本屋さんには売ってない、だけど素敵な本だったので、読了感想をここに書き記します。

この本に興味を持ったきっかけは、梨木果歩さんのエッセイ「やがて満ちてくる光の」での河田さんとの対談記事。その考え方に非常に興味を持ち、購入に至りました。

著者の河田さんはもともと東京で本に関わる仕事をされていたそう。とある馬と出会い、共に暮らすため与那国島に移住されました。

大型書店2店舗まわっても売っていない、ある意味レアな本でした。なんとアマゾンにも売って無い。ほう・・・。
ということで販売しているカディブックスさんからお取り寄せ。2~3日で届くかと思っていたけど、なかなか届かないなぁ…。と思い、なんとなくカディブックスさんのHP眺めていて驚きました。与那国島で小ロットで出版しているとのこと。そういうことね。

じつはこの本のタイトル「はしっこ」というのは与那国島なんですね。与那国島での馬との暮らしを、現地で本にしてくれている。なんだか素敵だなぁ…と思いつつ、のんびりと楽しみに届くのを待ちました。

そんなこんなで届いた本、こんな感じ。

カバー付きの本です。いいっすね。
カバーは海と地平線と馬。
横スタイル。シンプルイラストがゆるかわいい。紙はしっかりしてます。

ね、いいよね。
カバーの海と水平線にぽつぽつと馬。開放的にのびのび暮らしているのが一目で分かります。
本の装丁もシンプルで丁寧。ちょこちょこ差し込まれる馬の絵がかわいい。横サイズでめくっていく本ってあまり無いですよね。(絵本なんかはありますが、やはり大人になるとこういう装丁の本に触れる機会ってあまり無い気がする。)

本自体の厚みはありますが、中に使用している紙自体が厚めなのかな?とても読みやすく1日で読了できそうな感じです。もったいないからそんなことしないけど。

HP見ると分かりますが、本の作り方もこだわってらっしゃるみたい。
大量生産しないからこそのこだわりや良さを感じます。

この本は、孔版印刷という、すこしアナログな方法で印刷しています。表紙は、黒と青の版をそれぞれ作り重ねて印刷しているので、微妙にずれていることがあります。そのため、一冊ごとに、ほんのすこしずつ本の表情がちがうかもしれません。

カディブックス HPより抜粋

こういうの素敵。
HPにはもっと出版物への思いが書いてあります。きっとお仕事で関わっていた頃、思うところがあったのかもしれないな。ぜひ見て欲しい。

本の内容


ざっくり言いますと、河田さんと共に暮らしている1匹の馬「カディ」との関係が、とてもやさしい文体で書かれています。
動物と暮らすというのは基本的に主従関係のような、人間が上で動物が下みたいな、力関係のような認識が心のどこかであるかと思います。しかし2人はそうではありません。お互い信頼しあって、ただ傍にいる、寄り添う存在。その関係性が、読んでいて非常に心地良いです。

いわゆる馬の取扱説明書、みたいな本ではありません。「力」で関係性を作っていくことに抵抗があった著者が、どういう経緯でカディとの関係を築いていったのか。その考え方がとても素敵で、例えば私たちの日々の生活の中でも、そのように考えられたらなぁ。なんて思わせてくれます。


人のこころはチグハグ

我々人間は社会に馴染むために、例えば表面上笑っていても内心逆の感情を抱いているような、チグハグな状態の時がありますよね。そしてそれを無意識的に、ナチュラルにこなす生き物です。
対して馬は感情に敏感な生き物らしく、それも表面の感情ではなく内面の感情を察知するそう。要は人間の本心バレバレ、ということです 。(なんなら本人が気づいていない本心を見抜かれることがあるかも。)
馬とフラットな関係になるということは、きっと長年染みついたこのチグハグを一度捨て去ることが大事なんだと思いました。そしてそれは恐らく難しい。でもそれが出来たとき、きっと心がふわっと軽くなるのだろうと思います。だってそれは、自分に正直でいるということだから。

ウマ語の話

ひひーんって話しかけるとかそういうことではなく、馬の時間や距離間に合わせる、ということ。それが信頼に繋がり、フラットな関係が築かれる。これ、馬だけではなく人に対しても言えるんじゃない?
もちろん、自己犠牲的になっていけないのは前提として。そのためにはこちらも嫌なことはアピールが必要かもしれません。著者は作中に「半分」の関係を書かれています。(詳細はあえて書きません。これは読んで欲しい。)
そうやって馬と関係を築く様子が書かれています。誰しも力づくでペースを乱されるのは不快でしょ?人間関係においても、大切なことだと思うんです。

賢い

この本を読むと分かるのですが、馬ってすごく賢い。先に書いた感情察知能力ももちろんですが、「変化していく能力」に長けています。要は環境に応じて適応していくんですよね。主従関係が前提の場所では人間の言うことを聞いて動く受動的な馬になりますし、河田さんのように接してあげれば安心して自主性を出してくる。きっと馬の輪の中でも上下関係があって、その関係性に日々変化があるからでしょうけど、このあたり人間とさして変わらないのがまた面白い。


カディと著者の関係性や、その考え方を読み進めると、ふわっと心地いい風が吹き抜けるような感覚になります。
そこには、人と人の関係性ではきっと辿り着けない生き物どうしの本心の触れ合いと、優しく温かな意思の尊重が記されていると思いました。

爽やかで優しく、心地いい本っていうの、多少伝わったかな?
この記事を読んでくれた人にも、優しさを感じて欲しい。

おむ


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