見出し画像

歩いても 歩いても 是枝裕和

2008年6月28日に公開された日本映画。夏の終わりに、15年前に亡くなった兄の命日に妻ゆかりと息子あつしを連れて実家へ帰る良多は父との折り合いが悪く日帰りでの帰省を望んでいた。再婚のゆかりは未亡人として自分の息子であるあつし(良多との子供では無い)を連れて行き良多の両親との距離を縮め結婚を理解してもらいたい考えがあった。姉一家も合流し、それは所謂子供が実家に自分の子供を連れて帰省するといった日本でよくある風景である。一見たのしげに見えるが各々の感情が溢れ、家の中の空気感を複雑に醸成させる。お互いの距離感が絶妙に描かれている作品である。概要は上記の通り、そして私の感想を述べさせてもらいます。

最初は良多の母親としこ (樹木希林)と姉ちなみ(YOU)の料理シーンから始まるが手際が良くそのテンポも観ていても気持ち良かった。全体的に風景や街中を撮影した映像が多かったがそれは秀逸だった。どこでもありそうな懐かの匂いがする情景がとても整っていてまた美しく感じた。映画の内容はストーリー云々というよりも登場人物のアイデンティティやコンテクストにフォーカスしているヒューマンドラマだった。みんなそれぞれ願望や希望や夢があったが年を重ねるごとにそれが叶わないという現実を目の前にする。私はそれを観ていてただ夢の途中ではあったが、それはそれで素晴らしく幸せな人生ではないかという気持ちになった。安岡正篤が言っていた”人生は創作であり一遍の詩である。人生に於ける起承転結はむずかしい”という言葉を思い出した。確かに完璧な人生なんて無いし、完璧な人生なんて何の意味があるのだろうとすら思う。やはり生きていく上て幸せを感じる要諦は自分自身の欲望に対して足るを知るという事だ。それをこの作品は思い出させてくれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?