人間とは記憶
昔自分が好きだった人が
個展をひらくのだそうだ。
昔から言葉を紡ぐのが好きで
深く色々と考えるのが好きな人だった。
落ち込むことも多いようだったけれど、
きっとそれが彼を彼たらしめていた。
高校生なのに、他の男の子とは違う、落ち着きと心の中にある深く青いものに魅力を感じて
自分は好きだったんだろう。
時は流れて、話さなくなって、しばらくしてから2.3回会った。
彼はより彼らしくなって、わたしはより学生らしくなった。
前ほど魅力を感じなくなった。
好きだったけれど、好きではなくなった。
そうやって変化しても、わたしは
昔の自分が好きだったものを愛おしく思う。
たしかにあの時、あの瞬間はそれを好きだと
愛おしいと思っていたのだ。
過去に囚われているわけではない。
今は今で好きな人、好きなことがたくさんあって、今を楽しむために生きている。
それでもやっぱり今のこの自分を形成してくれた過去に関わった人たちを愛することもやめられない。
あの頃の自分も今の自分の中に存在しているけれど、奥の奥の方にあって、その上に何重にも新しい本が、物語が積み上げられている。
その物語こそがわたしであって、彼には彼の物語があって、その中にわたしたちの交わった物語がある。
人間とは記憶だ。
人と交わった物語に生きた証が残っている。
確かにあの時、存在していた。
わたしの中にはまだ彼が生きている。
記憶を大切に生きている。
今でも彼の紡ぐ言葉はとても好きだ。
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