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スポンジと綿

 こんばんは。ハヌマーンの『アパルトの中の恋人たち』の話をします。前にもしたことがあるかもしれなくて、繰り返しになるかもしれないけどします。しようという気になったので。

 この曲を初めて知って、それから繰り返し聴いたのは2020年の夏くらいだったと思います。今からちょうど一年くらい前ですね、でも、どういう生活をしていたのか鮮明には思い出せません。それとなく夏っぽいことをしてそこそこ楽しんでいたはずなのですが、なんかもったいない気がしてきました。記憶は不安定ですね。あと話の本筋もすぐにどこかにいく。

 最初に聴いたときからこの歌はずっと好きです。好きになってから、真夜中に突然聴きたくなることがあります。最高の夜の一幕が描かれているからでしょうか。

 一番はきっと、ある男の話です。彼女が眠ったあとも眠ることができず、ベランダに出て夜の世界を眺めています。そうして漠然と、戦争が起きたらなんて夢みたいなことを考えながら月を見上げるのです。意味もなく色を変える信号に自分を重ねながら、名前も知らない形の月を見ています。くしゃくしゃの箱から煙草を取り出すしぐさなんかも目に浮かびますね。そうして煙と一緒に夜を吸い込んで、吐いた息を夜の空気に溶かしています。

 二番は、眠っていた彼女の話です。夜中にふと目を覚ますと一緒に寝ていた彼が部屋にはいなくって。暗い部屋で、古い人形と二人になっている。そうしてベッドに横になったまま考えるのは、浴槽のお湯のことや明日の朝ごはんのことで、これから具体的にどうしようかってことが頭の中を埋めている。彼の考えとは反対ですね。

 このあたりの歌詞が本当に天才的で大好きです。

守られるか無視される以外には用途のない夜の信号

 みたいな不憫な女子にはなりたくない。自分でなんにもできないような人には。だから、現実的なことをやっていけているのかもしれません。

星屑の点を線で繋ぐように あなたとの日々も意味を持つかな

 ここも本当に好き。いくつかの無為な光を繋いで星座とするように、点々と続く日々が意味を持つといいという祈り。でも自分で意味づけられるほど自信はなくて、不安を振り切るために祈っているのかもしれない。そんな彼女は月の名前も知っていて、窓からその月と彼の姿とを見ている。彼が戻って来そうなのが分かったら、寝たふりをする。

 彼が部屋に帰ると彼女はまだ眠っている。本当は寝たふりなんだろうけど、気づいてないんだと思う。目についたのは古い人形で、だけどそれだって彼女の涙をぬぐいとることくらいはできることに気付く。そして、自分もそうなりたいと思う。中身はただのスポンジと綿で、すごいなんてことは全然ないけれど、それでも涙を受け止めることはできる。それだけはできたらいいと思う。

 そんな感じの曲です。(全然違うかもしれないけど)

 彼と彼女との対比や歌詞のうつくしさが本当に好きです。こういう世界を描いて人生を終えたい。いや、終えたくない。生き汚い感じでいく。スポンジと綿みたいな中身しかなくてもやっていきたい。それが誰かの涙を拭けるのかもしれないので。

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