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流動的な動きはなぜ横移動に限られるのか。縦方向の流動性に欠ける日本サッカーの問題

 一般的に観戦チケットの値段が一番高いのはメインスタンド。次にバックスタンド、そしてゴール裏の順となる。メインとバックはスタンドの傾斜角、ピッチまでの距離が同じであれば、見やすさにおいて大きな差はない。バックにはメインスタンド前で行われるセレモニーが見にくかったり、午後、逆光になりやすかったり、屋根のないスタジアムでは雨に濡れやすかったりという難もあるが、値段を分けるポイントはその程度に限られる。

 視覚的に大差があるのはゴール裏だ。メインとバックが105mというピッチの縦の距離感を実感しやすいのに対し、目の前に68mの横幅が広がるゴール裏はそれができない。横幅の中で起きた出来事は実感しやすいが、縦幅の中で起きたことは実感しにくい。

 さらに、正面スタンド、あるいはバックスタンドは、その高い位置から俯瞰すれば、弱みである横幅のイメージもなんとか描くことができる。観戦のベストポイントと言いたくなる所以だ。それはともかく、前置きが長くなったが、このピッチを巡る縦と横の関係。サッカーを語る際にも意識する必要があると思う。

 たとえばスピード感、躍動感は、ゴール裏席より、メインとバックの方が、実感しやすい。流動性もそうであるはずだが、日本のサッカー界でよく使われるこの言葉はなぜか、縦ではなく横へ移動する場合に使用される。具体的には、ウイングやサイドハーフが真ん中に入る動きを流動的な動きと称している。実際にその流動性を実感することはできにくいはずだが、そう呼ばれている。一目でわかりやすいはずの縦の流動性について、言及する人はほとんどない。流動性と言えば横と相場が決まっている。

 その影響が、森保ジャパンにも現れている。顕著なのは南野拓実が真ん中に移動する動きで、後方の選手が前方の選手とポジションを入れ替える動き、すなわち追い越して行く動きが不足している。

 一番わかりやすい例は、両サイドバック(SB)のオーバーラップだ。前方で構えるウイングにボールを預けながら、前方へ抜けだし、深い位置に進出したところでリターンを受けるコンビネーションプレー。

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