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アニメ・アンパンマンの主題

 アンパンマン・ワールドは八百万の神の国。アンパンマンの仲間たちはみんな神なのです。日本人の心持ちからすると、そういうことになります。

アニメ・アンパンマンの主題

 アニメ・ドラえもんの主題は何か? 毎週毎週15分のテレビ番組の中で何を描いているのか?
 その問いに対して「いじめられっ子で頼りないのび太を、未来から来たネコ型ロボットのドラえもんがひみつ道具で助ける話」のように答える人が多いだろう。けれども、それは違う。それは物語の設定であって、毎回毎回それを描いているわけではない。というより、のび太が助けられてめでたしめでたしというストーリーはほとんどない。
 ズバリ言おう。ドラえもんのテレビ番組では、のび太やその友達が「ひみつ道具をへんな使い方をして失敗」ばかりしている。毎回毎回その繰り返しである。そう、これがアニメ・ドラえもんの主題である。

 では、アニメ・アンパンマンの主題は何か? 毎週毎週15分のテレビ番組の中で何を描いているのか?
 その問いに対して「アンパンマンがバイキンマンをやっつける話」と答える人が多いかもしれない。けれども、それも違う。確かに「アンパンマン、新しい顔よ!元気いっぱい、アンパンマン。アンパーンチ!バイバイキーン」という結末が多いが、毎回そうなるわけではない。バイキンマンとアンパンマンが一緒に仲良くごはんを食べながら番組が終わることもあるし、バイキンマンがオクラちゃんのお手伝いをさせられながら終わることもある。テレビ番組の終わり方は意外と様々である。
 ズバリ言おう。アンパンマンのテレビ番組で毎度毎度繰り返しているのは「キャラクターの紹介」である。アニメ・アンパンマンでは毎回違うキャラクター(アンパンマンの仲間たち)が一人ずつ登場する。10分(歌やCMを入れて30分で2話)かけて、それがどんなキャラクターでどんな性格で、アンパンマン・ワールドでどのような位置を占めているのかをエピソードを交えながら紹介するのがアニメ・アンパンマンの主題であり、真髄なのだ。
 ところで、アンパンマンの仲間たちは、日本人の心に即していえば「八百万の神々」である。その意味ではその様は、神社の入口に立てかけてある看板と同じ。看板に書かれているのは、神社の縁起やご神体の説明、ご利益など。視聴者が知りたいのは「それはどんな神様なのか」ということで、それに応えてくれるのがアンパンマンの10分番組だ。だから、おもしろいのである。

ロールパンナは三界を行き来する

 ロールパンナは、アンパンマンの仲間たちの中で特異な存在である。ジャムおじさんがまごころ草を入れてパンを焼いた。バイキンマンがこっそりバイキン草を入れた。そのために、ロールパンナはやさしい心と悪い心をあわせ持つようになった。ロールパンナの胸の赤いハートはやさしい心を、青いハートは悪い心を表わしている。
 ロールパンナはパン工場で生まれたが、しばしばバイキン城に出入りする。もともとのバイキン城の住人以外で、唯一バイキン城に出入りできるのが、ロールパンナである。
 ロールパンナは日本神話でいうとスサノオのような存在である。スサノオもまた天上界の住人でありながら地上界と冥界を自由に行き来する。両者とも強くてカッコいい。荒ぶれ姿もまた魅力的。

 ロールパンナの青いハートが動き出すと、ロールパンナはアンパンマンを攻撃する。「アンパンマンをやっつける」、これが彼女の口癖であり、目標である。アンパンマンは「ロールパンナちゃん、君とは戦えないよ」と言ってる間に、いつもやっつけられる。
 そんなアンパンマンを助けるのは、人の言葉であって、ジャムおじさんが焼く新しい顔ではない。このときばかりは「アンパンマン、新しい顔よ!」というお決まりの展開にはならない。ロールパンナの攻撃を止めるのは、メロンパンナの「ロールパンナおねえちゃーん!」という声であり、てんどん母さんの「あんたはやさしい子だよ」という言葉なのだ。そうすると、ロールパンナの赤いハートが動き出して、やさしい心を取り戻す。

 アンパンマン・ワールドに悪人はいない。バイキンマンとて、憎めないいたずらっ子であって、悪人ではない。荒ぶるロールパンナを悪と呼んではいけない。それは事態を変えたりはしない。荒ぶるロールパンナに正義の力を振りかざしてはいけない。彼女は敵ではないのだから。
 やさしい心を取り戻したロールパンナにメロンパンナが言う、「ねぇ、みんなといっしょにパン工場で暮らそっ」。ロールパンナは何も言わずに去っていく。「私にはまぶしすぎる」とつぶやきながら。ジャムおじさんが言う、「いつか必ず一緒に暮らせる日がやってくるよ」。みんなそれを信じている。

アンパンマンは日本人の心です

 トトロが動物じゃないのは確かだと思うが、じゃぁあれは何者か? まぁ鎮守の森の神様ってところだろう。じゃぁネコバスは? あれは化け猫だろうね。普通は、あんなのが出てきたら、ひたすら逃げるさ。でも、アニメの中ではどちらも子どもたちのヒーローだね。
 ゲゲゲの鬼太郎に出てくる妖怪たち。悪役と正義の味方に分かれているが、ぜぇんぶ妖怪。悪役もやさしかったり、ひょうきんだったりするし、正義の味方もマヌケだったり、気味悪かったりする。しかも、両者はどきどき入れ替わる。つまり、根っこはどれも同じなんだ。
 この感覚、日本人特有なんだと思う。あらゆるものが神で、あらゆるものがおばけ。そこに区別はない。「死んで仏になる」というが、これも日本人だけの発想。仏になるばかりじゃなくて、しばしば「たたり」にもなる。ボクらの周りには、そこらじゅうにこんなのがいる。
 日本は八百万(やおよろず)の神の国。だから日本のアニメはおもしろい。一神教世界のアニメに出てくるのは、動物と魔法使いばっかり。おもしろいわけがない。一神教がメジャーである中で、存在するものすべてに神を見るのは、いまどき日本人くらいなんじゃないかな。

 そんな日本人の感性を最もストレートに表しているのがアンパンマンだ。キャラクターが無限に出てくるあの感じ、それでいてまったく違和感がない。要するに、アンパンマンの仲間たちは、みんな神なのだ。そして、アンパンマン・ワールドは八百万の神の国そのものなのだ。
 だから、アンパンマンは日本人の心です。

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〜 アンパンマン・ワールドは八百万の神の国
▷ アンパンマンの不思議を神話で読み解く
▷ あかちゃんまんの立ち位置      
▷ アンパンマン・ワールドの経済学   
▷ アニメ・アンパンマンの主題     

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