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うなぎ養殖の現場で未来を想う

 屋久島から宮崎県に回って、新富町のうなぎ養殖場を訪ねた。(中村養鰻場 → https://unagihouse-ajiman.com/
 養殖場の社長さんが案内しながら、説明してくれた。養殖池の水温を常に 30℃ に保っているために、ビニールハウスの中はムッとするように蒸し暑い。質問に答えていただいたことを交えて、まとめてみよう。

 うなぎの稚魚(シラスウナギ)を業者から買う。1kg あたり約 5,000 匹の稚魚がいる。つまり、1匹の稚魚の重さはわずか 0.2 g。稚魚を6ヶ月ほど育てて、出荷する頃には体重が 1,000 倍くらいになる。(単純計算で、成魚うなぎ1匹あたりの重さは 200 g)
 その養殖場では年間 200 kgの稚魚を仕入れる。(単純計算で、稚魚の総数は 100 万匹で、成魚うなぎの出荷量は 200 トンになる)
 餌は魚粉が中心で、重量比で与えた餌の 80 %が成魚うなぎの体になる。(驚きの効率!だ。もちろん、人が食べるのは、うなぎの体の一部だが)
 なお、稚魚(シラスウナギ)の値段はかつては1kg あたり 30 万円ほどだったが、最近では値上がりして 300 万円になったときもある。(単純計算すると、稚魚の仕入れ値は1匹あたり 60〜600 円)

 養殖池で使っている水は、すぐ近くを流れる一ツ瀬川の伏流水を汲み上げたもの。その水温を 30℃ に保つために、ビニールハウスで覆い、足りない分は重油を燃やしている。
 養殖池で常に水車を回しているのは、酸素を送り込んで微生物や細菌の動きを活性化させるため。うなぎのフンを分解するためにも必要なことだ。

 日本のあちこちの漁港で漁獲量が減っている。おそらくは気候変動も影響しているのだろう、魚が棲息する海域が変わってきていると言う。シラスウナギ漁も例外ではないようで、その養殖場でも「危機感を持っている」と話してくれた。

 さて、私が思ったこと、考えたこと。高級食材と言われているうなぎだが、生産工程を見る限り、現実のうなぎの値段が高いとは思わなかった。
 むしろ私は、こう考えた。他の魚が(もしくは他の食材が)安すぎるのではないか?と。
 魚の単価が安いと、多く獲ろうとする。これは乱獲につながる。あるいは農産物であれば、収穫量を増やすために、化学肥料や農薬を多用しようとする。それでも利益が出ないと、人件費を減らしたり、もしくは廃業したり。いずれも全く持続可能でない。衰退もしくは破滅に至る道である。
 そんなことを考えて、生意気にも私は社長さんに訴えた。

 うなぎが他の食材のモデルになるべきだ。他の魚も、そして米も野菜も肉も、うなぎ並みの値段(「重量あたり」とは限らない)で売っていい。
 いや、放っておいてもだんだんそうなっていくでしょうね。気候変動に伴う食糧危機(もしくは食料不足)も、そう遠い話だとは私は思わない。国際的な紛争に伴う流通網の変化も、すでに出ている。
 かつては給料も物価も高かった日本だが、今では外国に比べてむしろ安い国になっている。そう、今や日本は安すぎる国なのです。そうだとすれば、まずは食材価格が上がって、そこから波及して日本人全体の賃金が上がっていくのが自然な流れだと私は思う。

 途中に、冷凍真空パックした白焼・蒲焼うなぎの温め方・食べ方をいろんなパターンでやってみて、どれが美味しいか、簡単でお薦めかを「モニターしてくれ」と言われて、結局はうなぎをご馳走になった。
 私が美味しいと思ったのは、白焼では「湯煎のみ」で温めたもの。うなぎの味がストレートにシンプルに味わえる。
 蒲焼では「凍ったまま切って、アルミホイルを敷いて、オーブントースターで焼いた」もの。食べるまでが簡単で、後始末も簡単で、とても香ばしいうなぎが味わえる。皮がパリパリ、身がジューシー。

 最後に、社長さんが提案して、ぜひやって欲しいと私が思ったのは、隣の田んぼで「うなぎのつかみ捕り」体験。耕して水を張った田んぼに足を踏み入れると、柔らかい土がヌルヌルと足の指の間をすり抜けていく。農家生まれの私は一応知っているけれども、あの感触を子供にも大人にも味わって欲しい。
 そして、私はやったことが無いから分からないけれども、ヌルヌル滑ってすごく捕まえにくいであろううなぎの肌触りを私も味わいたい。もし本当にやっていただけるなら、孫と一緒にぜひ参加したい。


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