見出し画像

いろいろ(2021前)

電車広告にあふれる「条件付き確率」について

(2021年1月 145号)

 12月中旬、採点が終わった答案と2学期の成績を持って学校に向かう途中でのことです。電車の中で次のような広告を見かけました。

        成婚率 業界 No.1

 結婚相談所の広告です。こういうのを見ると私はいつも思うのです。「分母はなに?」と。
 しばらく考えて、わかりました。その企業が事業展開しているエリア、得意な年齢層などに絞れば、この手のことは大抵言えてしまいます。いや、極端に言えば、成功した事例が1つあれば、非常に限られた範囲で「成功率100%」が成り立ちます。こうなれば、他社がどうであろうと、間違いなく「No.1」ですね。「同率1位」であっても、確かに「No.1」に違いありません。
 例えて言うなら、こういうことです。定期試験で ◯ が1つあれば、「その問題に限れば、自分の正答率は100%」なわけですから、確実に「学年トップ」なのですよ。同率の人がたくさんいても、自分の「正答率が学年で1位!」であることは確かです。
 というわけで、電車の中の「成婚率 業界 No.1」みたいなことは必ず言えてしまいます。つまりウソではありません。
 そして情報科のテストにおいても、(自分が ◯ をとった問題について)「私が正答率 学年トップだ!」と言えます。そう言っても間違いではありません。おめでとう!


 テストの模範解答のプリントの隙間に上の文章を貼り込んで生徒たちに配りました。模範解答だけ印刷してもつまらないので、こうして何かしら付け加える。毎度のことです。
 ところで、成婚率であれ正答率であれ、それも「確率」には違いないですし、しかも分母によって値が変わるという意味で、これは「条件付き確率」の話です。そして条件付き確率こそが、統計を攻略する鍵だと思うんですよ。上の文章からその感覚、つかめるでしょうか。

「が」と「は」の違い

(2021年2月 146号)

 日本語で主語(主格)の後につく助詞の「が」と「は」の違いについて、学校でちゃんと教わった記憶はありますか? 私は「どっちでもいい」とか「適当に使い分けろ」とか教わったような(?)気もしますが。
 ところで、その2つを私たちは無意識のうちに厳密に使い分けているようです。たとえば、次の文の空欄に「が」や「は」を入れて読んでみてください。

(a) 犯人[ ]誰だ?
(b) 誰[ ]犯人か?

 空欄に入れるべきものはどちらかに決まりますよね。この2つはほぼ同じ意味ですが、「が」と「は」を入れ替えたら俄然おかしいですよね。
 それに続くシチュエーションで、次の例はどうでしょうか?

(c) 私[ ]やりました。
(d) 私[ ]やってない。

 どちらの例も「が」と「は」を入れ替えたら、かなり変な日本語でしょう。

(e) 入れ替えた文[ ]日本人[ ]しゃべる文ではない

ですよね。
 では、ここで【問題】です。

(1) 上の6カ所の空欄に「が」または「は」のどちらかを入れて、自然な文にしてください。

(2) それらの例から「が」と「は」の使い分けのルールを説明してください。
  日本語がかなり上手だけれど時々間違える外国人がいたとして、わかりやすく簡潔に説明してあげてください。


 (1) は簡単ですね。でも (2) は難しい。つまり、私たちは「が」と「は」の使い分けについて、よーく分かっているんだけれども、うまく説明できない。そういうことなのでしょうか。
 さて先日、外国人に日本語を教えている先生(日本人)からこんな話を聞きました。外国人に教えるとき「大事なものが前にあるときは『が』を使い、大事なものが後にあるときは『は』を使う」と説明する、と。つまり(A>B)なら「A が B」となり、(A<B)なら「A は B」となる、ということです。
 この説明に沿って、もう一度上の文を見てみましょう。(a) , (b) の文で大事なのは「誰?」という部分ですね。「犯人」という言葉はすでに前の文脈で出ているはずですから、この時点ではそれほど大事な要素ではありません。
 (犯人<誰)だから (a)「犯人 は 誰だ?」となり、(誰>犯人)だから (b)「誰 が 犯人か?」となる・・・確かにぴったりですね。
 また、(c) の文では「誰?」に答えて「私だ」というのだから、(私>やった)ですね。だから「私 が やりました」となる。
 (d) の文では「お前か?」と疑いをかけられて「違う!」というのだから、(私<やってない)ですね。だから「私 は やってない」となる・・・ばっちりだと思います。

 このルールに例外はあるのでしょうか? 私には思いつきません。「入れ替えた文 は 日本人 が しゃべる文ではない」の例にも符合しますね。そして例外なく通用するルールなら、日本語の文法として日本人向けの学校でも教えていいんじゃないでしょうか。

投票のパラドックス

(2021年3月 147号)

 投票によって何がしかを決める場合、多数決が唯一の方法ではありません。他にもいろんな決め方があります。ここでは2例あげましょう。1つは「決選投票」、もう1つは「順位評点法」です。
 評価者の第1順位の票数が最も多いものを選ぶ方法が「多数決」ですが、死票が多くなるきらいがあります。第1順位の票数の上位2者で決選投票を行うやり方が「決選投票」で、この方式では最後に過半数の支持を得て当選します。1位に3点、2位に2点、3位に1点を与えてその合計点の最も多いものを選ぶ方法が「順位評点法」(ボルダ・ルールという呼び方もあります)です。
 いまA,B,Cの3案に対して、評価者9人の優先順位が次のようだとします。

  人数│ 4  3  2
  ──┼─────────
  1位│ A  B  C
  2位│ C  C  B
  3位│ B  A  A

 この場合、(1) 多数決、(2) 決選投票、(3) 順位評価法ではそれぞれA,B,Cのどれが選ばれるでしょうか。


 (1)「多数決」では第1順位の最も多いAが選ばれます。
 (2)「決選投票」では、初めに第1順位の上位2者としてAとBが選ばれて、AとBで決選投票を行うと「第1順位にCを選んだ2人がB支持に回ります」から、A4票に対してBは5票を得て、最終的にBが選ばれます。
 (3)「順位評価法」ではA:3点×4人+1点×5人=17点、B:3点×3人+2点×2人+1点×4人=17点、C:3点×2人+2点×7人=20点となって、最多得点のCが選ばれます。
 結局のところ、投票による決め方に「全員が納得するような絶対的な公平さ」というものは無いんですね。これを「アローの不可能性定理」と言います。

 ところで、この例よりもっと強烈なバージョンが慶應大学・総合政策学部2018年度入試の「小論文」に出ています。その問題では立候補者が5人いて、5種類の選考方法があって、5種類それぞれで当選者が異なるだけでなく、いずれの方法においても5人の順位がきちんと決まるという凝り様です。興味のある方は、こちら(→ https://omori55.blogspot.com/2019/05/blog-post_89.html )をご覧ください。

天使か悪魔か妖精か

(2021年4月 148号)

 天使はいつも本当のことを言う。悪魔はいつもウソをつく。妖精は気まぐれで、本当のことを言うこともあれば、ウソをつくこともある。

 授業中に「場合分け」の練習のつもりで出しました。
【1】 目の前に天使か悪魔か妖精がいる。彼が「私は天使ではありません」と言った。彼は何者か?

 その発展形を定期試験に出しました。
【2】 A,B,Cの3人のうち、1人は天使で、1人は悪魔で、1人は妖精である。A,B,Cが次のように言った。
  A:「私は天使です」
  B:「私は悪魔です」
  C:「私は妖精です」
 さて、A,B,Cはそれぞれ何者か?

 自分のことでなく、他人のことを言い始めると俄然わかりにくくなります。
【3】 A,B,Cの発言が次のようだったら、どうだろうか。
  A:「Bは天使ではありません」
  B:「Cは悪魔ではありません」
  C:「Aは妖精ではありません」
 この場合、A,B,Cはそれぞれ何者か?

 続いて復習として宿題にも出しました。
【4】 Aさんが歩いていくと、道が左右に二股に分かれていた。片方は天国に通じる道で、もう片方は地獄に通じる道である。どちらが天国に通じる道で、どちらが地獄に通じる道かは分からない。
 分かれ道に何かがいる。天使なのか悪魔なのかは分からないが、天使か悪魔かのどちらかである。
 Aさんはその者に1つだけ質問できる。さて、この状況で、天国に至る道を確実に知るには、どんな質問をしたらよいだろうか?
<ヒント:裏の裏は表である。ウソのウソはホントになる!?>

【1】から【4】に向けて段々と難しくなります。楽しんでくれれば、それでOKです。
《解説・解答》はこちら(→ https://note.com/omori55/n/nc3a34e3e90e5 )をどうぞ。

◇      ◇      ◇

〜 いろいろ(2021年)
いろいろ(2021前)
いろいろ(2021中)
いろいろ(2021後)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?