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理由を3つ挙げる

 ここでは「理由」を挙げる練習に専念します。設問を3つ用意しました。リラックスして、楽しんで考えていただければと思います。
 ウチの学校でやるときは、タイプ練習を兼ねて、ワープロ(MSワード)に入力させます。そうすれば字数もきっちり数えられますし、書き直すのも簡単です。実際に文章にしてみることで、論がクリアになっているかどうかも分かるでしょう。なお、理由1つにつき各1行で書いてください。それがこの章の実習でのお約束です。

(問い1)パソコンで日本語を入力する場合、「ローマ字入力」の方が「かな入力」よりも有効だと考えられる点を3つ挙げてください。

 この実習はタイプ練習を兼ねています。おそらく多くの人もそうだと思いますが、ウチの学校では「かな入力」ではなく、「ローマ字入力」をさせています。そこで、実際にローマ字入力しながら、(問い1)を考えてほしいわけです。「どうして今、ローマ字入力しているんだろう?」と。もちろん、3つ。

(問い2)マンホールの蓋はなぜ丸いのか? その理由を3つ挙げてください。

 どの問いも、想像力を働かせて、多くの人が「なるほど、確かにそうだ」と思うようなものを考えてください。「多くの人」というのは、そうですね、「8割以上の人」としましょう。というのは、世の中には変わった人がいますから、全員が納得するものだけを答えとすると、答えが何も無いということになりかねないからです。でも「半数以上」では客観性が乏しいと思わざるをえないので、「8割以上」。いい線だと思いますが、いかがでしょう。
 ところで、これをウチの学校の授業でやったところ、(問い2)で次のように答えた生徒がいました。

問い:マンホールの蓋はなぜ丸いのか? → 答え:マンホールが丸いから。

 この答えについて、クラスのほとんどの生徒が「そりゃそうだ」ということになって、圧倒的多数で楽々と8割を超えて、これを「正解!」と認めたことがありました。そうそう、楽しんでくれればいいんです。でも、他の理由と合わせて、全部で3つ挙げてくださいね。

(問い3)アメリカとインドの間では、かなり以前からインターネットを使ったビジネス(企業間の電子商取引)が行われていました。初期の頃には、アメリカ企業の事務作業をインド企業が代行する形がその典型でした。現在では、インドはコンピュータソフトの先進国になっています。
 さて、下線部のようになった理由として、インド特有の要因がいくつか考えられます。それを3つ挙げてください。

 インドがIT先進国になっているという話をみなさんも聞いたことがあると思います。でも、インドは他の産業では発展途上国ですよね。「どうしてITだけが?」という疑問を感じませんか。(問い3)は、その理由を考えてもらおうということです。その理由の1つくらいは、地理や歴史の授業であるいはテレビで聞いたことがあるのではないでしょうか。聞いたことが無ければ想像力を働かせて、頑張って3つ挙げてみてください。
 といいつつ、ものによっては3つ挙げるのが難しいものもあるかもしれません。それはそれでしょうがないので2つでもかまいませんし、反対に4つ目、5つ目が挙がるならどんどん挙げてみてください。これはいわばトレーニングですから、いろいろあれこれ考えればそれで目標達成でもあるわけです。

 ではそろそろ、解答例。まず(問い1)「ローマ字入力のメリット」について。

◇ 日本語入力・英文入力の両方に対応できる。
 (和文・英文混在の文章も違和感なく打てる)
◇ 使うキーの種類が少ないので、覚えやすい。
 (AIUEOさえ覚えればなんとかなる)
◇ 外国製のキーボードでも使える。
 (海外旅行先のインターネットカフェが使える)
◇ テンキーが無いキーボードでも数字を打ちやすい。
 (かな入力の場合はちょっと面倒)
◇ ・・・

 2つ目はちょっと要注意です。ローマ字入力はかな入力に比べて「使うキーの種類」は少ないですが、「打つキーの回数」は多いですね。そこのところが誤解のない文章になっているでしょうか。「キーの数が少ない」みたいな書き方じゃ、意味分かりませんよ。

 続いて(問い2)「マンホールの蓋が丸いわけ」について。

◇ 蓋がどの向きになっても、穴に落ちない。
 (他の形だと、向きによって落ちてしまう)
◇ 重いけど、転がせば一人でも運べる。
◇ 蓋を閉めるときに、向きを考えなくてよい。
◇ 力が均等に分散するので、壊れにくい(強度がある)。
◇ 角がないので、躓いてケガをする心配が少ない。
◇ ・・・

 たぶん1つ目の理由が大きいんじゃないかと思いますが、他にもいろいろ考えてみました。5つ目に挙げたものはちょっと苦しいでしょうか。やっぱり「マンホールが丸いから」を挙げるべきでしょうか。

 続いて、(問い3)「インドがIT先進国なった理由」あるいは「初期段階でアメリカ企業がインド企業を選んだ理由」について。

◇ インドはイギリスの植民地だったから、英語が通じる。
 (現在でも準公用語)
◇ 地球の裏側にあるから、アメリカ人が寝ている間にインドで事務処理が済む。
◇ インドは0(ゼロ)を発見した国。伝統的に数学の教育水準が高い。
◇ 貧富の差が大きく、金持ちはアメリカに留学し、庶民の賃金水準は低い。
◇ 伝統的なカースト制度の縛りの無いIT産業に、優秀な人材が集まりやすい。
◇ ・・・

 「人口が多い」とか「賃金が安い」とかいうのは説得力が弱いと思います。人口なら中国の方が多いし、IT産業のために何億人もの人が要るわけではありませんから。また、賃金が安い国なら他にもいっぱいありますし、賃金が安いことは特にIT産業が発達する理由になりませんから。
 楽しんでいただけたでしょうか。「1行で書く」シリーズ、まだまだ続きます。

 「理由を3つ挙げる」練習をもうちょっと続けましょう。ここでは、人によって意見が分かれるようなテーマを取り上げます。

 ところで、ここで考えるテーマは何でもいいといえば、何でもいいんです。そのときに話題になっていること、ふと疑問に思ったこと、など。たとえば、

◇ 財政問題(消費税・年金・国債)
◇ 環境問題・エネルギー問題
◇ 領土問題

などは、高校の授業で扱う内容と関連がありますし、マスコミ等でも定期的に(周期的に?)話題になりますから、生徒たちにとっては考えやすいようです。あるいは、

◇ 修学旅行の行先、国内か、海外か
 (ウチの学校では京都・奈良に行ってます)
◇ ゆとり(教育が望ましい)か、競争(詰め込みとは言わずとも、みんなで競ってやる)か
◇ 大学入学の時期は春か、秋か(現に話題になっています)

などは高校生活と関連があって、彼らが自然と考えていたりすることでもあるでしょう。
 実際に授業でやるときは、テーマだけ与えて結論を各自に自由に作らせたり、対立する2つの見解のどちらかを選ばせたり(あるいは、両側から書かせたり)、そんなふうにやっています。
 ところで、次のような言い方もお勧めです。

◇ 理由は3つある。
  1つは ○○、
  2つ目は △△、
  そして ◇◇だ。

 まず初めに結論を述べたら、なにはともあれ「理由は3つある」と言ってしまう。そして、1つ目をしゃべりながら2つ目を考えて、2つ目をしゃべりながら3つ目を考える。3つ目あたりで詰まってしまうこともありそうですが、それでも最初に「理由は3つある」と宣言してしまう。たとえば、

◇ 私は消費税率アップに反対である。理由は3つある。・・・

とか、あるいは反対に、

◇ 消費税率を上げるべきだと私は考える。理由は3つある。・・・

のように。理由3つを即座に挙げることが目標なのではありませんが、理由を3つ挙げるためには、いろんな立場で、いろんな視点で考えることになるでしょう。その心意気が大事なんだろうと私は思います。
 対立する2つの見解で争う必要はありません。相手の論の欠点をあげつらう必要もありません。ただただ自分の論を支える根拠・理由・考え方を3つ挙げてみてください。1つ目、2つ目は簡単に出てきても、3つ目はなかなか出てこないかもしれませんが、そこでじっくり考えることになるでしょう。いろんな立場から、いろんな視点で考えてみてください。そしてできることなら、本心はどうであれ、同じテーマで2つか3つ、この論法で作文してみれば、問題の本質が見えてくるんじゃないでしょうか。
 なお、1行目の結論と3つの理由は、やっぱりそれぞれ1行で書いてください。それがこの章でのお約束です。文章例は以下をご覧ください。

◇      ◇      ◇

○ (実習2)消費税率アップ、賛成か反対か
<文章例1>
私は消費税率アップに反対である。理由は3つある。
1つは、景気がますます悪くなる。税率をアップすれば、税収はむしろ減るだろう。
2つ目は、貧乏人の生活がますます苦しくなる。貧富の差がますます広がる。
そして、今の政府には税金をうまく使う能力が無い。税金の無駄遣い必至である。
<文章例2>
消費税率を上げるべきだと私は考える。理由は3つある。
まず、税収を増やして、年金制度を安定させ、国債を償還することが急務である。
次に、日本の現行の消費税率は他の先進国に比べて低い。 国際標準にするべきだ。
さらに、消費税は他の税に比べてごまかしにくい。つまり、簡単・確実に徴収できる。

○ (実習2)修学旅行の行き先、国内か海外か
<文章例1>
ウチの学校の修学旅行は国内で実施するべきだ。理由は3つある。
1つは、真の国際人になるためにはまず日本のことをよく知ることこそが重要である。
2つ目は、現代日本人にとっては、外国より京都・奈良の方がエキゾチックで面白い。
そして、ウチの学校の教員に生徒を海外に引率できるだけの能力があるとは思えない。
<文章例2>
高校の修学旅行は海外に行くべきだ。理由は3つある。
まず、海外に行けば、日本では経験できないことをたくさん経験する。貴重な経験だ。
次に、英語の実践的な勉強になる、もしくは英語を勉強しようという動機付けになる。
さらに、国内は「青春18切符」を買って自分だけでも行けるが、海外だとそうはいかない。

◇      ◇      ◇

自分の考えの作り方 〜 
▷ 2つの視点で語る ┐      
▷ 理由を3つあげる ┤      
▷ 反論する     ┴ ▷ 4段論法

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