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数学屋が売れる時代になってきた

 数学についての一般的な認識は次のようなものではないでしょうか。…数学は抽象的で現実離れしていて、他の科学分野であれば現実社会に応用できても、純粋数学には難しい。数学屋は趣味人みたいな存在で、現実社会にはあまり役に立ちそうにない…そういう認識が多いかもしれません。高校・大学レベルの数学については特にそうでしょう。
 確かに一昔前まではその傾向がありました。けれども今、急激に変わりつつあります。数学の理論が現実社会で使える時代になってきたのです。ということは、数学屋が売れる時代になってきたのです。
 一昔前であれば、理屈と現実には大きな開きがありました。たとえばロケットを打ち上げる場合、どちらの方向にどれだけの力で発射すればいいかは計算によって出ますが、実際にはそれではきっとロケットは飛びません。なぜなら、現実には風も吹くし、気圧の変化もあるからです。数学屋が計算だけしても、ロケットをまっすぐ飛ばすことだってできないでしょう。ロケット本体の強度が耐えられるかどうかも実験を繰り返さなければわかりません。そこでは理屈屋よりも技術者の方が大事だったわけです。
 ところが最近の技術はそうじゃない。なぜかというと、デジタルで処理する部分が大きくなってきたからです。もちろんこれからも技術で解決しなければならない問題も残りますが、デジタルの世界では、メイン・フレームすなわち考え方の部分で数学の理論がそのまま使えるのです。
 車の自動運転の制御、ネット検索の仕組み、暗号化の技術、金融商品の開発、なるべく少ない手順で目的のところに行き着く探索法などなど、大学レベルの数学が役に立っている事例はいくらでもあります。高校レベルのちょっと先くらいの数学が、実は現代社会のいろんなところで役に立っているのです。
 これまでの科学者のイメージは、何度も何度も実験を繰り返して、たった一つのことを発見する、そんなものだったでしょう。けれども、今は違います。数学の理論をポンと当てはめて、完成です。実験もへったくれもない。理屈が通れば、それでOKです。それができるのが、デジタル社会です。その際に必要なのは、執念ではなくて、アイデアです。良いアイデアはすぐに実装されます。
 世界のIT産業を引っ張っているのはシリコンバレー、世界の金融産業を引っ張っているのはウォール街と言われますが、彼らの強みは何かというと、数学だといっても過言ではありません。でも、一流の数学者というわけでもない。天才でなきゃならないというわけでもない。要は、問題を解決するために「数学を使ってみよう」という視点なのだと私は思います。
 現実離れしていて役に立たない数学は、もう過去のものです。趣味人・変人のための数学は、一部には残っていいと思いますが、むしろ今の数学は、いろんなところに応用できそうな宝の山なのです。
 無味乾燥だから数学は嫌い、というのは過去の話にしましょう。将来どこで使えるかわからないから数学はやらない、というのは大きな勘違いです。そんな風に思わせてしまったのは、これまでの数学の授業の中で「数学がどんなふうに使えるか」にあまり触れずに、それよりも大学入試の過去問演習ばかりをやっていた影響が大きかったからだと思いますが、高校の数学にこそ、世の中を変えるヒントがたくさん詰まっているのかもしれませんよ。(2016年春)

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私の数学教育論
▷ 結論を言わない証明問題 + 解答編
▷ 数学屋が売れる時代になってきた  
▷ 「3」のマジック         

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