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談合はなぜ無くならないのか?

 経済活動の最も基本的なものが「売買」である。そして売買することで、売る人も買う人も利益を得る。100円の物を買う人はそれに100円以上の価値を認めているから買うのだし、100円で物を売る人はそれで十分利益が出るから売るのだ。売買が成立するのは、その場合に限られる。
 ところで、物の値段の決まり方には色々ある。まず「マグロの競り」と「バナナの叩き売り」を見てみよう。マグロの競りでは、値段がどんどん上がっていって、最後に値をつけた人が買い手となる。バナナの叩き売りでは、値段がどんどん下がっていって、最初に値をつけた人が買い手となる。
 そしてこの2つでは、値段の決まり方が、まるで違うのである。マグロの競りでは、最終的に買う人は「評価額の最も高い人」で、その価格は「2番目に高い評価額」ということになる。途中までは買い手が競合して値段が上がっていくが、「2番目に高い評価額」に至ったところで「評価額の最も高い人」1人を除いて他の買い手が降りるからだ。こうして、最終的に買った人も売った人も利益を上げ、また結局買わなかった人もその結果に納得することになる。
 一方、バナナの叩き売りでは、どうだろうか。それに100円の価値を認める人が、値段が99円まで下がった時点で買うかというと、そうとは限らない。彼もなるべく安く買って、多くの利益を上げたいからである。けれどもライバルの評価額を知らなければ、手を挙げるタイミングが分からない。もう少し待てば安く買えるかもしれないし、待ちすぎると他の人に買われてしまうかもしれない。こうして買い手どうしの間で、腹の探り合いが始まる。

 さて、談合はなぜ無くならないのか? 自治体が公共工事を発注する業者を決めるために競争入札する場合を考える。ここで2つのルールを示そう。

《ルール1》 最も安い金額で入札した業者に『その金額で』発注する
《ルール2》 最も安い金額で入札した業者に
               『2番目に安い入札額で』発注する

 自治体は、なるべく安い値段で発注したいと思う。その方が自治体の利益が多くなるからだ。けれども当然のことながら、多くの利益を上げたいのは業者も同じである。

 では、ここで【問題】です。《ルール1》と《ルール2》のうち、業者が他の業者の入札価格を気にせずに「引き受けられる最低の金額」を提示できるのは、どちらだろうか。反対に、自分の入札額を決めるためにライバル業者の入札額を知りたくなるのは、どちらのルールだろうか。
 言い換えると、「マグロの競り」と同じような結果になるのはどちらのルールだろうか。「バナナの叩き売り」と同じような結果になるのはどちらのルールだろうか。


 実は《ルール1》は「バナナの叩き売り」と同じような結果に、《ルール2》は「マグロの競り」と同じような結果になるのである。
 《ルール2》の元では、業者が「引き受けられる最低の金額」を提示できる。それでも受注した場合には、一定の利益が見込めるからである。
 それに対して、《ルール1》の元では「引き受けられる最低の金額」を提示したら、受注してもほとんど利益が出ないことになる。だから、利益分を上乗せして入札することになるのだが、ライバル業者の入札額が分からなければ、いくらで入札したら良いのかが分からない。
 このように考えると、《ルール1》の元で談合が無くならないのは必然だと言えるのではないだろうか。

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値段の決まり方 〜  
▷ 需要曲線 と 供給曲線      
▷ 談合はなぜ無くならないのか?
▷ ご利益 と 利益         


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