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連載記事(2017後)

寿命の平均値と中央値と最頻値

(2017年9月 105号)

 2016年の日本人の平均寿命(0歳児の平均余命)は女性が87.14才で、男性が80.98才です。
 ところで平均寿命とは、各年齢ごとの死亡率から算出します。詳しいデータは厚生労働省のサイト(→ http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life16/index.html )からダウンロードできます。値が男女で異なりますので、ここでは「女性」の値を元に平均寿命の計算法を説明しましょう。
 まず100,000人が生まれたとします。この数に0歳の死亡率を掛けると198人、これだけの人が0歳で亡くなることになります。残り99,802人が1歳の誕生日を迎えて、その数に1歳での死亡率を掛けて、29人が1歳の間に亡くなって、99,773人が2歳になります。この計算の繰り返しです。
 高齢になるとじわりじわりと死亡率が高くなっていきます。例えば100歳での死亡率は約29%です。なお、表では105歳以上はひとくくりになっていますが、105歳以上での死亡率は(当然のことながら)100%です。
 こうして出来上がった各年齢ごとの死亡数、それは当初の100,000人のそれぞれの人が生きた年数ですが、その平均値が平均寿命です。一応申し上げますと、厚生労働省の資料では「死亡」という言葉を極力使わずに説明したり計算したりしているものですから無駄にややこしいのですが、結局のところ上の計算法と同じ結果になります。
 ここまでくると平均寿命を求めるのはもうすぐですね。平均値だけでなく、寿命の中央値や最頻値も求められます。結果だけ示すと、次のようになります。

 平均値は男81才・女87才ですが、若くして死ぬ人が一定数いる一方で、120才を超えて生きる人はまずいませんから、グラフは左方向(若い方)に長く伸びて、右方向(高齢側)は急激に0になります。ですから「平均値<中央値<最頻値」となるんですね。ここでは表やグラフを示すことはできませんので、よろしければこちら(→ https://note.com/omori55/n/naf929b2c93b0 )をご覧ください。
 ちなみに「家計の収入や貯蓄」は逆の傾向になります。すなわちグラフの左側の人数が多くて、右方向は長く伸びて、「平均値>中央値>最頻値」となります。これについてはメルマガ103号(2017年7月発行)に書きました。
 ところで今生きている人にとって重要な指標は平均寿命より平均余命の方です。そしてこれもまた余命の平均値だけでなく、中央値や最頻値を求めてみるとまた違った見方ができるかもしれません。お試しあれ。

海苔の栄養価

(2017年10月 106号)

 この問題、家族の栄養を考えながら毎日スーパーで買い物している人には簡単なんでしょうけれど、私の勤務校(男子校)の生徒たちにはなかなかそうはいかないようでした。
 第一段落と第二段落はどこも間違っていません。どちらも正しいです。けれども、そこから第三段落が言えるかというと、実はそうは言えません。
 ポイントは単位です。第一段落は「100グラム当たり」で、第二段落は「一食当たり」。つまり、単位(もしくは分母)が違うんですね。要するに「100グラム当たりで、栄養豊富」で「一食当たりで、安い」からといって、この2つから「安くて、栄養豊富」と言えるとは限らないのです。
 考えてみてください。100グラムの海苔を食べれば確かに栄養豊富ですが、海苔100グラムってかなりの量ですよ。普通そんなに食べませんね。それに海苔100グラムのお値段は全然安くないですよ。むしろかなりお高い。
 逆に、一食当たりの海苔は安い(例えば、おにぎりに海苔1枚)ですが、その量が少ないから安いんですね。量が少ないということは、栄養も少ないということ。それだけで栄養たっぷりというわけにはいかないのです。

 でも、どうでしょうか。先ほどの文章、第三段落まで読むと「ふむふむ、なるほど」と納得してしまうのではないでしょうか。「間違いを指摘しろ」と言われて初めて、違和感を覚えるんじゃないでしょうか。実際そんな書き方(よくある間違い、もしくは騙しのテクニック?)を時々見かけます。気をつけましょう。単位、大事です。

人工知能(AI)の多種多様

(2017年11月 107号)

 ドラえもんには人工知能が搭載されているのでしょうか? のび太くんとのやりとりを見る限り、かなり高度な人工知能が搭載されているのは間違いなさそうです。でも、それほどの高度な人工知能は今はまだ世の中にはありません。そういえばドラえもんの誕生日は2112年ということですから、その頃(今年生まれた人が95歳になる頃)には実現しているかもしれませんが、いま現在は見通しすら立っていないと言えるでしょう。
 それはそうと、一方で最近では家電製品でも「人工知能搭載」をうたったものが売られています。それらはドラえもんほど高性能ではないにせよ、その意味では人工知能はすでに実用化していると言えます。そしてこれからますます進んでいくのでしょう。
 一言で「人工知能・AI」と言いますが、それは非常に曖昧で、かつ幅の広い概念です。レベルも様々、出来ることも様々ですが、現実には多くの場合「機械学習」するものを「人工知能」と呼んでいるようです。機械学習とはコンピュータが自動で学習することで、例えば「音声認識(最新の車にも搭載されています)」や「ウェブ広告最適化(ウェブサイトを利用するユーザーごとに違った広告を表示する仕組み)」あるいは「データの可視化(企業が持っているビッグデータから特徴や傾向などを見つけ出す)」などで、これらはすでにある程度実用化されています。
 それらを実現するためのアルゴリズムも様々です。人がたくさんのデータとそのラベルを合わせて与えることで学習させる仕組みを「教師あり学習」と言います。ラベルを与えずにデータだけを与えて機械に分類させたり特徴を見出させたりする仕組みを「教師なし学習」と言います。機械の応答に対して得点を与えることで機械が自ら高得点を取るようになる仕組みを「強化学習」と言います。

 私自身がネットで調べるなど少々勉強して、そこでの説明などを参考にして作問してみました。
 人工知能は現在進行形の技術であり、これからさらに進化していくものです。また、この先どうなるかは誰にもわかりません。ですから、人工知能について完全な答えがあるはずもありません。それに私は人工知能の研究者でもなければ、技術者でもありません。ですから、詳しいことはわかりません。けれども、わからないなりにわかろうとする姿勢は大事です。中途半端でも、ある程度のイメージを持つことは、確かに力になります。大人でも子供でも同じです。
 また「音声認識・ウェブ広告最適化・データの可視化」も「教師あり学習、教師なし学習、強化学習」のどれか1つのアルゴリズムだけで成しているとは限りません。現実には複合的に使っていたりするでしょう。ですから、上の問題に「ただ1つの答え」があるとは私自身も思っていません。それでも考えてみれば、人工知能についてなにがしかのイメージをつかんでいただけるのではないでしょうか。
 一応、私なりの答えは用意しています(→ https://note.com/omori55/n/n9b547690ae7f )。テスト問題として適当かどうかはわかりませんが、授業中にワークショップ形式で話し合うと良いかもしれません。

地球の裏側に最も速く行き着く方法

(2017年12月 108号)

 これまでの科学のイメージは、何度も試行錯誤を繰り返して、たった一つのことを発見する、そんなものだったでしょう。ロケットを飛ばすにも、理屈や計算だけではまともに飛ばない。だから何度も実験を繰り返す。
 けれども、今は違います。なぜかというと、デジタルで処理する部分が大きくなってきたからです。デジタルの世界では、メイン・フレームすなわち考え方の部分で科学・数学の理論がそのまま使えるのです。実験もへったくれもない。理屈が通ればOKです。その際に必要なのは、アイデアです。良いアイデアはすぐに実装されます。
 さて、そんな時代にどういう態度で科学・数学を学べばいいか。「どこでどのように使われているかを意識しながら、他に使える場所はないかとイメージを膨らませながら、間違ってもいいから何はともあれ当てはめてみる」、そんな態度が望ましいのではないかと私は考えています。そこで、一つ【問題】を作ってみました。

 理科の先生に怒られそうな問題かもしれませんが、高校レベルで計算するには上の方法が精一杯ですし、正確ではないにせよおおよその時間は分かるはずです。せっかく物理の時間に習ったのですから、試してみるのも悪くはないでしょう。
 何はともあれやってみましょう。公式に数値を当てはめると「6,400,000=10×(時間tの2乗)÷2」となり、これを解くと「t=800√2≒1131秒≒19分」。つまり、約19分で地球の中心に到達します。
 その先は重力が反対向きになって減速し、ちょうど速度がゼロになったときに地球の裏側に到着します。よって、地球の裏側に到着するのに要する時間は、これを2倍して、答えは「38分」です。はやっ。
 ちなみに、このときの最高速度は「v=gt」を使って「10×1,131=秒速11,310m≒時速40,000㎞」。はやっ。
 念のため申しますと、実は私、もうちょっと精度の高い計算もしてみた(→ https://note.com/omori55/n/nc8e05541ce7f )のですが、どうやっても40数分以内で地球の裏側に到達します。ですから、上の「38分」という値はそこそこの精度なのです。
 ついでながら申しますと、穴を真空にして(そもそも物理の計算でも真空状態などの理想状態で計算しますからね)そこに飛び込むと「38分間の無重力体験」ができるんですね。そんな風に考えると、楽しくなってきませんか。
 以上、高校生にもできる、ちょっと雑な思考実験でした。(こんな姿勢が実は大事なんじゃないかと、私は本気で考えているんですが)

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