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連載記事(2018前)

赤ちゃんの男女比のばらつきについて

(2018年1月 109号)

 私は情報科の時間にエクセルを使って統計の授業を行っています。その際に「サイコロを何回も振って、1〜6の目が何回出るか」を数える実習を入れています。エクセルの乱数(RND関数)を使い、集計(COUNTIF関数)して、グラフ化するところまで。この実習をやってみればすぐに分かることなのですが、100回くらいサイコロを振っても1〜6の目が出る回数はだいぶバラツキます。ほとんどの場合、グラフはボコボコです。でも1000回やればだいぶフラットになって、10000回もやればグラフは真っ直ぐに見えます。
 この感覚、大事です。テレビでしばしば見かける「100人に聞きました」系のアンケートにどれほどの信頼性があるのか、「10人のうち○人が△△に成功しました」系の実験結果がいかに当てにならないか、そんなことを生徒たちは実感を伴って分かってくれることでしょう。
 授業でそういうことをやった後の定期試験で出した【問題】です。サンプル数が多いときと少ないときでバラツキがどのように変わるか、ピンとくるでしょうか。


 ある町に2つの病院があって、大病院では毎日約30人、小病院では毎日約10人の赤ん坊が生まれます。女の子と男の子の比率は日によって変わりますが、全体でみればほぼ半々です。
問1.1年間を通してみると、女の子と男の子が同数だったという日の数は、大病院と小病院とではどちらが多いか。
問2.1年間を通してみると、女の子が60%より多かったという日の数は、大病院と小病院とではどちらが多いか。

[選択肢]   ア.大病院
        イ.小病院
        ウ.どちらもほぼ同じ


 ここで、イメージしやすくするために、毎日数千人が生まれる1つの国と、毎日数人程度が生まれる1つの町で考えてみましょう。問1は、言うなれば、
  ◇ 1万人のうち女の子がちょうど5千人である確率 …(A)
  ◇ 6人のうち女の子がちょうど3人である確率   …(B)
ではどちらが大きいか、というのと同じです。問2は、言うなれば
  ◇ 1万人のうち女の子が6千人以上である確率   …(C)
  ◇ 5人のうち女の子が3人以上である確率     …(D)
ではどちらが大きいか、というのと同じです。
 B と D はどちらも現実によくありそうなことです。それに対して A は滅多に起こらなくて、C は現実にはまず起こりえない。
 コインを投げても同じことですね。「6回投げて表が3回」や「5回投げて表が3回以上」はしばしば起きます。それに比べて「1万回投げて表がぴったり5千回」は滅多に起きない。「1万回投げて表が6千回以上」はあり得ない。こんな説明で納得いただけるでしょうか。
 というわけで、(1) , (2) とも答えは「イ.小病院」です。

水の不思議

(2018年2月 110号)

 普通の物質は、固体のときが一番密度が大きくて、液体になると密度が小さくなります。また同じ液体の状態でも、温度が低いほど重く(密度が大きく)、温度が高いほど軽く(密度が小さく)なります。
 しかし、水だけは例外です。水が冷えて固体の氷になると、液体の水より軽くなって水に浮きます。また液体でも、0℃の水より4℃の水の方が重い。固体・液体・気体を通して、4℃の水が最も重いのです。
 もし仮に水が、温度が下がるほど重くなるとしたらどうなるでしょうか。その場合、氷点下の気温がしばらく続けば、湖は底まで凍りつくことになります。水の表面の温度が下がれば、表面の水は下に沈み、下の方の水が上にあがって、やがて水全体が0℃になります。続いて表面が凍って、氷が沈み、水が上にあがる。つまり、湖は底から凍り始め、やがて湖全体が凍りつくことになります。
 でも実際には、こうはなりません。水の表面温度が4℃に下がるまでは、表面で冷やされた水は下に沈みます。けれども、表面が4℃を下回った時点で、表面で冷やされた水は下に沈まなくなる。4℃の水の方が重いからです。やがて表面温度が0℃を下回って凍りついても、氷は水に沈みません。氷は水より軽いからです。やがて表面が氷に覆われると、湖は蓋をされたようになります。
 また、水は他の物質と比べて、比熱と凝固熱が大きい。すなわち、冷えにくくて、凍りにくい。だから氷の蓋ができると、氷の下はますます冷えにくくなります。そして、湖の底の方の水温は4℃に保たれます。だから、お魚が生きていけるのです。氷に穴を開ければ、釣りができます。真冬の北極海でも、氷の下は比較的暖かい。氷の上に比べれば、水の中はぬくぬくなのです。

 ここまでは、水の融点(0℃)付近の話でした。次に、水の沸点付近の話です。
  (1) 地表で温められて気体となった水蒸気が、
    上空で冷やされて液体に戻って、地表に降り注ぐのが雨です。
  (2) 1気圧の場合、水の沸点は100℃です。
  (3) 沸点の温度以上では、物体は気体(水蒸気)になります。
  (4) 沸点の温度以下では、物体は液体(水)になります。

 さて、(1)〜(4)から必然的に次のことが帰結します。
  (5) そう、99℃の雨が降る・・・???

 でも (5) は変ですよね。そんな経験、したことないですから。
 では、ここで【問題】です。(1)〜(4) のどれが間違いなのでしょうか?


 4択問題です。私としては「間違っているのは (4) だ」と言いくるめたいところなのですが、そう言えるような選択肢になっているでしょうか。
 要するに、沸点以下であっても一部は気体として存在しているわけでありまして、液体と気体の間で平衡状態を保っているんですね。温度によってその割合が変わるから、水が蒸発したり雨が降ったりするわけです。
 それでは沸点とは何かと言うと「すべてが気体になる温度」です。つまり、100℃を超えたらもう液体ではいられない。ですから (3) は合っています。こんな説明でおおよそ良いんだと思いますが、その辺のところを考えられるような【問題】になっているでしょうか。

「鳩の巣原理」で考えてみよう

(2018年3月 111号)

【問】1辺の長さが2の正三角形の周上または内部にいくつかの点を置く。
   ただし、どの2点間の距離も1より大きくなるようにする。
   最大で点をいくつ置けるか?


 ところで、答えを「n 個」と言うためには、
   (1) n 個でうまくいく例を示す
   (2) n+1 個では不可能なことを示す
必要があります。
 なお、上の文にあるように、2点間の距離を「1より大きく」してくださいね。「ちょうど1はダメ」ですよ。

 ここで「鳩の巣原理」という考えを紹介しましょう。これは別名「部屋割り論法」とも言われます。
  ○ n 個の巣に n+1 羽の鳩が入る場合、どれかの巣には2羽以上の鳩が入る
  ○ n 個の部屋に n+1 人の人が入る場合、どれかの部屋には2人以上の人が入る
という原理です。いかにも当たり前のことを言っているわけですが、上の【問】に答えるには、その考え方が効果的に使えます。と言うより、それを使わずに答えるのは困難です。

 では、考えてみましょう。まず、4点は置けます。たとえば、正三角形の頂点に3つ、4つ目を正三角形の重心の位置に置けば、条件を満たします。このとき2点間の距離は 2 か 2/√3 ですから「どの2点間の距離も1より大きい」ですね。
 けれども、5点を置こうとすると、なかなか置けないでしょう。点をどう動かしても、どれか2点の距離が1以下になってしまうでしょう。というわけで、答えは「4点」となりそうです。
 では、どうすれば「5点は置けない」ことをきちんと示せるでしょうか。はい、ここで登場するのが「鳩の巣原理」です。元の「1辺の長さが2の正三角形」を「1辺の長さが1の4つの正三角形」に分けて考えましょう。5つの点を置くと、必ずどこかの小三角形の周上または内部に2点置くことになります。その2点の距離は必ず1以下になりますから、「5点は置けない」と分かるのです。
 図で示せば一目瞭然なのですが、ここでは図を示ませんので、よろしければこちら(→ https://note.com/omori55/n/n4a18e41cbbe7 )をご覧ください。
     △
    △▽△
 この考え方が「鳩の巣原理」です。4つに分けた小さい三角形が「巣」にあたります。5つの点が「鳩」です。2点間の距離を1より大きくするには、点(鳩)を別々の小三角形(別々の巣)の中に入れなければならないのですが、5点(5羽の鳩)を別々の4つの小三角形(4つの巣)の中に入れるのは無理ですね。
 当たり前すぎて、わざわざ名前をつけるほどのことでもないように思える「鳩の巣原理」。でも、この問題で「5点は置けない」ことを示すのに、他のやり方が見つからないのです。地味だけど、すごい威力とでも言いましょうか。

エクセルであみだくじを作る

(2018年4月 112号)

【問】エクセルの乱数を使って、あみだくじを作ってみましょう。手順は次の通りです。
◇ A 列で乱数を使って 1 と 2 を均等にランダムに発生させる。
◇ B 列, C 列, D 列に罫線文字「┣」,「┫」,「┃」のいずれかの文字を1文字ずつ表示させて、下表のように A 列の値が 1 のときは B 列と C 列をつないでいるように見せ、A 列の値が 2 のときは C 列と D 列をつないでいるように見せる。

 (行)
  ↓  A B C D  ←(列)
  1  1 ┣ ┫ ┃
  2  2 ┃ ┣ ┫
  3  2 ┃ ┣ ┫
  4  1 ┣ ┫ ┃
  5  :  : : :

(1) セル A1 に入る式を書きなさい。

(2) 次の空欄 ア ~ カ に「┣」,「┫」,「┃」のいずれかを入れなさい。
  セル B1 に入る式は = IF (A1=1 , " ア " , " イ " ) で、
  セル C1 に入る式は = IF (A1=1 , " ウ " , " エ " ) で、
  セル D1 に入る式は = IF (A1=1 , " オ " , " カ " ) である。


 さっそく《解答》といきましょう。

(1) = IF (RAND ( )<0.5 , 1 , 2)
  または  = ROUND (RAND ( ) , 0) + 1  など
(2)  ア ┣   イ ┃
   ウ ┫   エ ┣
   オ ┃   カ ┫

 セルA1,B1,C1,D1の関数式を上のようにして、それぞれ下方向にコピーすればあみだくじの完成です。
 さらにアレンジすれば、
  ◇ 選択肢(縦線)の数を増やす
  ◇ 1つを選んだとき、当たり か ハズレ を表示する
  ◇ 1つを選んだとき、道順を表示する
ようなものを作れそうですね。

 ところで、なぜこれを「あみだくじ」と呼ぶか。あみだとは阿弥陀さまですね。一説によると、今のあみだくじは上から下に辿りますが、昔のあみだくじは真ん中から外に向かって放射状に広がっていたようで、その形が阿弥陀像のご光背と似ていることから名付けられたようです。
 そして円形あみだくじには大きなメリットがあります。それは公平性。長方形あみだくじは、端の方と中程があって、どうしても均一になりにくいんですね。その点では円形あみだくじの方が均一に散らばります。その意味で、結果を読みにくい。さすが阿弥陀さまは、あまねく平等に照らしてくださるようです。
 とはいえ、円形のあみだくじをエクセルで作るのは難しそうですから、今どきのあみだくじは長方形で良かったな、と。

◇      ◇      ◇

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