アイテム番号:SCP-■■■-JP

この世は全くの同じ事の繰り返しであって、朝起きて歯を磨いてそのついでに髪の毛を濡らして拭いて仕事着を着て玄関から出ていき電車を待ち乗って降りて職場の扉をくぐり自分の椅子の背もたれに上着をかけて袖が地面についてあ~ん汚いわと思っていると仕事は終わり、来た時と同じように職場の扉をくぐり電車を待ち乗って降りて家のポストを開けるとなにやら切符のようなものが中に入っていた。なんじゃこりゃ。

切符の表側には「新宿三丁目→新宿三丁目」と印字されている。入場券か?けど入場券は「入場券」って書かれるのだっけ。どうだったか。穴が空いているので使用済みなのだろう。裏側を見てみると磁気の黒い部分に白い文字でなにか書かれている。

「さわたね さわちゃた そちに いくね」

~~~

「なんか怖くないその切符?」

「そんなことはない。それは俺の平凡な日常を壊してくれるかもしれない魔法の切符だよ。未来デパートで3日並んで買った代物かもしれない」

「のび太の銀河超特急というか初期のドラ映画は不気味なの多いよな」

友人のヤスの家で俺はくつろぎながら取り止めのない会話をしていた。まったくこいつの家は居心地が良くてついついダラダラしてしまうので、俺は話すつもりもなかったが先日、郵便受けに入れられていた不思議な切符の話をついしてしまった。

「お前はよく平凡な日常が退屈だと言うけれどそういう日常が本当は大切だとは思わんか?シンエヴァでも言ってただろ。繰り返しの日常を大事にしろって」

「エヴァという作品の魅力は青少年の成長の中にある激しい情動だったはずなんだよ。俺は昔の庵野に共鳴していたのに、家庭を手に入れた庵野には一切共鳴出来ない。シンジ君がアスカでシコることはもう二度とないと思うと俺は悲しいよ」

「お前がシンジ君でシコればいいだろ」

「タイプじゃないんでね」

そんな事を言っていると部屋にはユウキとタクシが入ってきた。今日はこいつらと集まってカードゲームでもやりましょうかの会であるが、俺はヤスに誘われて半ば無理やり始めただけであり正直そこまで乗り気ではない。しかし俺の唯一のゲイ友と言ってもいいヤスに誘われたのであれば俺も断るという選択肢を持つのは少し躊躇し、とりあえず、対戦ゲームであれば偶数人いた方がいいでしょうという俺の気遣いによって俺はこの場にいる。
ユウキとタクシはヤスの友人であり、広義の意味で言えばこうやってカードゲームに興じる俺たちは友人と言えるのだろうが、あくまでこの2人は俺にとってはヤスの友人、つまり友人の友人であり根っからのひねくれ者である俺はこの2人のことを友人とは思っていないのだ。

しかもこの2人、タクシの方は昔ヤスと付き合っていたというし今はタクシとユウキは付き合っているらしい。ゲイという世界は案外狭いものであり、人間関係はその中でも蜘蛛の巣のように張り巡らされている。特にヤスという俺の友人は、俺なんかと仲良くなっていることからも分かる通り多くの友人関係、又は恋愛、肉体関係を持っておりヤスの相関図はキュベレイのオールレンジ攻撃もびっくりの密度になっているはずだ。

「じゃあ俺のレジギガスVMAXが攻撃して終わりだ」

「うわー、やられた。レジギガスVMAX強くない?」

「特性スロースターターだから後半から強いんだよ。笑い飯のネタと同じ」

「2007年のM1で松本人志が笑い飯を評したコメントなんて誰が分かるんだ」

俺とヤスがやいのやいのと盛り上がっている横でユウキとタクシはなんだか無言で神妙な面持ちのままカードゲームに興じている。タクシに至ってはなんだか顔面が少し青白いまである。普段はユウキが早口で下ネタを喋り、タクシがゆっくりと下ネタを喋るという面白くない会話をしている2人であるが、今日という日はまだちんぽ又はちんぽこという単語を一度も聞いていない。俺がこいつらの会話で楽しみにしているのは一体こいつらは一度の会話で何度ちんぽ又はちんぽこと言うか?とカウントすることに尽きるというのに。

「すまん、今日は帰るわ」

「俺も」

ユウキとタクシが立ち上がった。そのままそそくさと帰り支度をし、ヤスに向かって「じゃあ」と一言言って帰ってしまった。

「あいつら大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ」

「そうか?タクシ君に至ってはなんか顔面蒼白って感じだったぞ」

「昨日夜更かししたって言ってたから。大丈夫、大丈夫。それよりなんか食べてく?」

「いや今日はいいや。寄るとこあるし」

俺はカードを片付け忘れ物がないか辺りを見回す。すると床に財布が落ちていた。位置的にタクシの尻ポケットから落ちたものだろうか。俺は財布を拾い上げ身分証を探す。そういえばタクシの本名ってなんと言うのだろうか。タクシのSNSの名前は「TK」 であり、そして本人がタクシと名乗ったのだから俺はタクシと呼んでいるがほんとにタクシなのか。瑣末な興味心であるが目の前にすぐ確かめれるものがあるとつい手が伸びてしまう。お、免許証だ。うわー、写真写り悪いなあいつ。本名は、「高橋 高橋」。高橋 高橋?HUNTER×HUNTERかよ。

「財布を高橋くんに返しておいてくれたまえ」とヤスに頼み、俺は家に帰るには少し遠回りになるが新宿三丁目駅に足を伸ばす。新宿三丁目駅の券売機で入場券を購入してみようと思うと、そもそも券売機には入場券の文字がない。その場で携帯で調べてみると東京メトロには入場券というものははなから存在せず、トイレなどで入りたいだけなら駅員さんに一言いえば済むらしい。そして「新宿三丁目→新宿三丁目」という切符はありえるか?とも検索してみるが、そんな切符は調べた感じ存在しないようだった。
うーむ、不思議だ。そう思いながら振り返ると、背後に影のように真っ黒な人間が立っていた。

真っ黒な人間は俺と同じくらいの背格好で、顔と思われる部分も塗り潰されたように真っ黒でパーツを判別できる部分がない。
すると真っ黒な人間は俺に向かって拳を振り上げてきた。俺は咄嗟に腕でガードをしようとしたが、ガードよりも早く真っ黒人間の拳が俺の顔に当たった。当たる!と思った瞬間目をつぶり衝撃に備えたが、いつまで経っても拳のぶつかる衝撃は来なかった。あれ?
恐る恐る目を開けると真っ黒人間の拳は俺の身体に当たった瞬間に消えてなくなっているようだった。まるで水に入れた綿飴みたいに俺に当たる瞬間にシュワッと拳が消える。それを何度か繰り返した後、真っ黒人間はやがて諦めたように後ろを向くと、トボトボと歩き出した。その足の先にあるのは道の壁にいつのまにあった扉であり、表には「関係者以外立ち入り禁止」とプレートが貼ってある。

いよいよもっておかしな状況になってきたが、俺という人間はこの状況においても冷静だった。学生の頃テロリスト集団に学校を占拠される妄想を何度も繰り返していたからだろうか、明らかな危機的状況にあっても脳は落ち着きを見せている。なんだこれシンエヴァラストのシンジ君か?というほどの落ち着き。
俺は真っ黒人間を追いかけることに決めた。あの扉に俺も入ってみよう。そうして一歩を踏み出した途端、俺の上からなにか落ちてきて、なんでしょう、なんか大きな手?大きな手の平が俺の上に落ちてきて俺はそれにグシャッと潰されてしまった。

〜〜〜

目を開けると同時に身体を起き上げる。いつの間にか俺は寝ていて、体の上にはタオルケットがかかっている。

周りは見慣れた場所でここはヤスの家。俺が寝ているリビングの先のキッチンからはトントンと包丁で食材を切るようなベタな音がしている。ヤスが料理でもしているのだろう。

「なぁ、俺っていつから寝てた?」

「起きたのか。タクシの免許証見て「エンドリケエンドリケかよwww」って爆笑してからすぐ寝たぞ」

「マジ?全然覚えてないわ」

「ちょうどよく飯もできたぞ。食べてけよ」

そういってヤスはナポリタンをダイニングテーブルに置いた。いつも見るあのベーコンを使ったナポリタンだ。俺は全面的にヤスのことは信頼しているが、ナポリタンにベーコンを使うことだけはいけ好かないと思っている。ナポリタンにはウインナーだろう。

「お前よくナポリタン作るよな」

「得意料理なんだよ」

いただきますと言って食べ始めると、なんだかナポリタンのパスタが固いのがあったり柔らかいのがあったりで歯あたりがとてもよろしくない。しかしそれはそれとして美味しくヤスの得意料理を頂いた。

~~~

さぁて今日も仕事に行きますかと玄関を開けるとその先にユウキが立っていた。

「あれ。なにか用か?」

「おはよう。いや、なにもないけど元気かなと思ってさ。ほら、温かい飲み物も買ってきた」

「ありがとう。元気だよ。ユウキ君って俺の家の場所知ってたっけ?」

「ヤスにいつかのタイミングで聞いてさ。覚えてたんだよ」

「そうか。けどほんとに何の用なの?まさか俺が元気かどうか確認して温かい飲み物渡すだけに待ってたの?」

「別にそれだけが理由でもいいだろ。俺は友人が元気か途端に聞きたくなる癖があるんだよ。ほら、お前も思ったりしないか?昔SEXしたけどそれきりで会わなくなっちゃった人は同じ空の下、今どこでなにをしているのだろう、って無性に気になっちゃったりしちゃうこととかさ」

「俺にはそういう人いないからよく分かんないな。それにユウキ君とそういうことになった訳でもないし」

「そういう類の話ってだけだ。まぁ元気ならよかったよ。じゃ!」

ユウキは勢いよく踵を返しそのまま道の向こうに消えてしまった。なんだったんだ。顔だけを見にわざわざこんなに朝早くから何時に家を出るかも分からない俺を待つわけが無いのでユウキにもなにか事情があるのだろう。しかしそれは俺に知られたらマズい、若しくは俺が知らなくてもいいことなのだろう。
この世は俺が知らなくてもいいことだらけで、俺はいつだって他人にとって蚊帳の外だった。俺にとって他人とは勝手にゴロゴロと落ちていく鉄球みたいなものでその落ち方に美しさは感じるがそれは俺にとってまるで意味はない。他人の鉄球の動きに巻き込まれたことなど一度もなく、俺は俺の世界に完結していて俺の日常はいつも変わらないものであり、だからこそ俺は何か日常を変えてくれるものがないか探し続けるのだろう。

俺はあることが気になってヤスにLINEをしてみた。

「なぁ、この前の不思議な切符の話なんだけどさ」

「あの不気味な切符?あれ怖くてあんまり話したくないな」

「無理にとは言わないよ。そういえば、俺の家の場所って誰かに教えたりした?」

「そんなプライバシーないことしないよ」

~~~

数日後、俺はまたヤスの家に来ていた。ヤスの表情はいつもと変わりなかった。俺はまずそのことだけが気になっていた。

「なぁ、この前俺が話した切符の話なんだけどさ」

「またその話?あれはもういいじゃん。なんか不気味だし怖いし。お前はああいうのが好きなのかもしれんが。そういうのが苦手な人だっているんだよ」

「これは独りよがりでヤスにとっては都合の悪い話かもしれんが聞いてくれよ。あの切符についてお前はなにか知ってることがあると俺は思っているんだよ」

「都合が悪いってなんだよ。俺は都合が悪いなんて一言も言ってないだろ。不気味だから嫌だって言ってるんだ。そうやって一人で早合点して自分本位に話すのはお前の悪い癖だ。やめてくれ」

「なにをそんなに焦ってるんだよ。別にお前にとっては他人で関係ない俺が拾ったただの変な紙の話だろ?都合が悪いと言ったのは確かに俺の早合点かもしれないな。ごめん。けど俺だってある程度の確証を持って言ってるんだ。これが最近噂されてるお前とユウキとタクシがこの家でよく3Pしてるって話なら俺もここまでお前を追いつめて聞いたりしないよ。ああ俺はまた蚊帳の外なのかと自分と関係ないことで自分の中で早合点して傷つくだけだから、それはお前に関係ないことだから聞いたりしないよ」

「今日は妙につっかかってくるな。お前は時々そうやってこの世の事象は俺にはなにも関係ありませんでしたと自嘲しながら他人を見下すのが好きなようだが、お前だって人間だしSEXしてんだろうが。性欲だらけの人間に囲まれて自分は違うって言いたいんだろうが、お前のその八方美人の優しさだって結局は誰にでも優しくしておかないと回りまわって自分がモテなくなるという性欲由来の優しさでしかないだろうよ。切符の件で確証があるなら言ってみてくれよ。お前の脳内妄想を聞かせてくれ」

「あの切符を俺の郵便受けに入れたのお前だろ」

「なんでそう思うんだよ」

「切符を入れたのはお前かもしくはユウキかタクシか。どちらにせよお前の指示で入れたんだ。お前たちは二丁目かで飲んだ後新宿三丁目駅であの切符を拾ってしまったんだ。俺もあそこで変なものを見た。あの駅には確かに何かあるんだよ。そしてお前らのうち誰かがその切符のヤバさに気づいたんだ。持ち続けるのもヤバい、捨てるのもヤバい、なら誰かにこすりつけるしかない。そこで俺だよ。お前たちの中で一番良心が咎めないのが俺だったんだろうな。俺は友達もお前くらいしかいないし、派手に行動してないからこの話が広まる可能性も低いと思ったんだろ」

「荒唐無稽すぎないか?それこそお前の被害妄想だろう」

「ユウキが俺の家に来てたんだよ。あいつ俺の家知らないのに。俺の家の場所知ってるのはお前くらいなのに。お前が教えたか切符を俺の家の郵便受けに入れるときにユウキもついてきたんだろ。お前は誰にも教えてないと言っていたが、ユウキはヤスに聞いたと言ってた。あいつは優しかったんだろうな、あの時のユウキは俺に謝りに来たか本当に心配で様子を見に来てくれたんだよ」

「根拠が弱すぎるしそれに発想の飛躍もある。俺がユウキにお前に黙ってお前の家の場所を教えたとしてそれが切符の話に繋がるのはおかしいだろ」

「ユウキとタクシ、今連絡つくか?」

「つかないよ」

「なんでだよ」

「知らないよ。ほんとにつかないんだよ。2日前からあの二人とは連絡ついてないんだよ」

「…お前もヤバいんじゃないか?」

「また早合点しているな。俺を不安がらせるなよ。それに、お前はなにがしたいんだ。仮にお前の話が真実だったとして、俺に何して欲しんだよ。3Pに混ぜて欲しいのか?なら混ぜてやるよ。ほんとにやってるからな。それで満足か?」

「満足か?なんて寂しい言い方するなよ。俺たち友達だろ。今日はお前とアマプラでシン・ウルトラマン観る為に来たんだったよ。この話は一旦終わりにして観ようぜ」

「…分かった。とりあえず飯食うか?」

「うん」

そうしてヤスはまたナポリタンを作ってくれた。相変わらずベーコン入りのナポリタンだったが、今回のパスタの湯で加減はとても歯あたりの良いナイスアルデンテのパスタであった。

~~~

ヤスの家から帰ってきて郵便受けを開けると見覚えのない黒い封筒が入っていた。上部をハサミで切りとり、中身を取り出すと「スカウトのお知らせ」とあった。以下内容。

スカウトのお知らせ
あなたはSCP-■■■-JP及び超常現象記録-JPの確保に成功しました。つきましてはあなたをSCP財団Dクラス職員に任命します。

A4の真っ白な紙の真ん中あたりにこれだけの文字。最近郵便受けに謎の物が入っているの多いな。切符との関連性もなくはなかったが、俺は唯一の友人を俺のつまらない好奇心で失ってしまったかもしれないという焦燥感でこの封筒のことを気にする余裕はなく、とりあえず寝てまた明日も仕事だと考えまた一人でに落ち込んだ。代わり映えのしない日常が明日からも続いていくのだろう。

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