彼の前には屹立したちんぽがある

彼の前には屹立したちんぽがある。距離にして拳3つ分ほど、その先に艶やかにぬらぬらと光沢を放つちんぽがガチガチにそそり立ちその姿を現している。ちんぽは壁にあけられた直径15cmほどの穴からカメの首のようにぬっと突き立てられており、怒張した陰茎は持ち主の吐息に併せて細かく上下を繰り返すも突き立てた穴の先、つまりこちら側からはまるで一つの生き物のように胎動が感じられた。この場においてはそのちんぽが誰のものであるかという答えは大した意味を持たず、ただただ一つの聳え立つ仏塔としてそこに在り続ける。人間がいればそこに違いがあり、違いがあれば差があり、差があれば優劣が生まれる。人間は平等を謳う唯一の生き物であり、平等を破壊する唯一の生き物でもある。しかしここ、ビデオボックスのグロリーホールにおいては全てのちんぽは平等である。この穴を通した時点で全てのちんぽは平等を極めており、それは多くの人間が考えていないことで気づいていないことであるがそもそも全てのちんぽは平等であるという絶対の理を示してくれる。この場所のちんぽを知るものは皆同じ事を言う、平等とはちんぽのことであり平等には硬さと赤黒い色素が宿っていると。


舐めなければならない。ここに挿し込まれたちんぽは舐められることだけが目的であり、舐める側もそれに疑問を覚えることはなく手段は数多用意されている。まして平等を極めているこの場のちんぽには、どうしようもなく確実で完璧な選択肢が用意されておりそれが舐めることでしかないというのは男も分かっている。舐めにきたはずだ、そう考えた男は一度近づくのを止めた顔をもう一度平等のイコンに近づける。


彼は朝の6時に目を覚ました。ひどく神経を逆なでするiPhoneのアラーム音を耳で聞き、体を起こし枕元にある不快な音を鳴らすそれの表面を何度か指でなぞって音を止める。立ち上がりそれから頭髪だけを洗面台で濡らし本来タンスに入れてあるはずの床に無造作に置いてあったタオルで水滴を拭う。もう出尽くしましたよといった様相の歯磨き粉から涙ばかりの量をひねり出し、毛先が全ての方向を向いている歯ブラシで歯を磨く。G.Uで買ったインナーとユニクロで買ったスラックスとYシャツに着替え、家を出る。これを大体20分でこなす。
「家庭の事情があって土曜日はどうしても出れないんです。」と大きい声で叫んでいた同僚の代わりに家庭の事情が皆無の彼が休日出勤をこなす。赴いた先方でめちゃくちゃ不平不満を言われるが何も分からないままただ謝る。原因は分かりませんが...と言うだけが精一杯の仕事をこなす。事実彼は何も分からないし分かろうとしていなかった。仕事に意味を見出すことが出来ずに勤続10年が経過しようとしてた。家族も彼氏もペットもいない彼にとって仕事はただの毎日を暮らすだけの手段でしかなかった。


社会の歯車に徹していてもストレスはたまる。休日出勤を終え、ケツの穴から手を突っ込んで奥歯をガタガタ言わせた上で光に導いたろかと思う相手を数えながら帰路についていたら冒頭のビデオボックスを発見する。彼は何も考えず中に入り、そこでちんぽと対面する。確かなちんぽが確かにそこにある。ちんぽはただのちんぽであり、彼の中のなにかを解きほぐすなんてことはないと彼は分かっていた。


彼は昨日大学時代の友人と久しぶりの再会を果たしていた。仕事終わりの19時、歌舞伎町のなんとも汚い居酒屋でキャッチに誘われるまま入ったその店はチャージ料が2000円であった。ハイボールは薄すぎてただの水で焼き鳥はゴムのように固かった。しかし旧友との再会はそれすらも酒の肴になると彼は真っ当な友情の上に感じていた。久しぶりに会った友人は結婚をしており子どもが生まれていた。酒が回る前はある程度の配慮も感じられたが21時を過ぎ完全に赤いタコとなった友人は遠慮という言葉を忘れ、彼に説教と自慢を混ぜながらの優越でオナニーをし始めた。結婚は?仕事は?将来設計は?自らの生き方が高尚であるという前提のもと、彼に迫る友人。彼は顔色一つ変えずにその話題を躱し続けた。そして足取りの覚束ない友人をタクシーに乗せ自分は電車に乗りしっかりと23時に帰宅。彼は無味乾燥の日々の中でも誠実であるということを忘れたことはなかった。酒は3杯でやめ、ゴミは分別し、服はジャストサイズで揃えていた。


その19時間後、冒頭に戻る。彼の前には屹立したちんぽがある。屹立したちんぽが舐めれる位置に差し出されている。そのちんぽの有り様は昨日の友人との記憶を塗りつぶしてしまうほどの堂々とした赤黒さであった。


彼は千葉県の佐倉市に生まれ両親のもとでのびのびと育ったが、彼が9歳のある日父親が自分をかばって交通事故にあった。そのまま父親は亡くなり、母と二人になった。父を轢き殺したとされる犯人は逃走後自首したが、轢き殺した本人ではなかった。彼は事故に遭う瞬間に運転席の男の顔を見ていた。初老の男だった。しかし自首してきた犯人は中年の男であった。何かがおかしいと幼心に思った彼は母親にそれを告げたが、その後の顛末は何も変わらなかった。住所不定の中年の男が逮捕され、父親を轢いた初老の男はどこにも現れなかった。何か大きな力が働いたのだ。賢かった彼はそれに気づき、自分の胸の内にこの事をしまい込んだ。そして今から6年前に母を亡くし兄弟のいない彼は家庭のない男になった。


父の死から23年が経ち、冒頭に戻る。彼の前には屹立したちんぽがある。果てしなく平等なちんぽがあった。ちんぽに顔を近づけそれを口に含んだ。仕事も友人も過去も全ての憂いが赤黒く硬いちんぽに蹂躙されていく。誠実な彼はこれを救いと感じてはいけないと思いながらも、これは平等な救いでしかないと屹立したちんぽに感謝をしていた。

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