2021/09/03

近くのジムに通っているのだが、そこで仲良くなったお兄さんがいて、この人がなんと俺に筋トレの方法を教えてくれると言うのだ。
確かにそのお兄さんの筋肉はかなり引き締まっており、その筋肉美はミケランジェロの彫刻のようであり最早一定の厳かさを備えるほどだ。
そんなお兄さんがこんなイベリコ豚のプレートのような身体をしている俺に指導をつけてくれるのだから、こんな良い話はない。

とりあえず「腕の筋肉つけたいです」という俺の言葉通りに、なんかあの上からケーブルについた重いの引いて鍛える奴隷作業みたいなマシンの前に立つ。
「顎は軽く引いてね、足は肩幅、そして真っ直ぐ下ろす、効いてる筋肉を意識して」
などと、熱心に教えてくれ俺もそれを実践する。
うん、効いてる。効いてる感じする。

そうは言うものの、実は俺は筋トレに対して"ここの筋肉が効いてる"などと思ったことは一度もなく、ただ漫然と「腕が辛い」とか「脚が辛い」というのを思うのみなのである。筋肉の名称をつらつらと並べながら、どこそこに負荷がかかっているなどと語る、言わば筋肉芸は未だに理解出来ていない。

そんな事を言っても折角ミケランジェロが筋トレを教えてくれているのだから、気の利いた事でも言おうと思い「うわぁ、効いてます。上腕二頭筋が悦びの声をあげてます…」と一丁前に唸ってみせた。
「二頭じゃなくて三頭の筋トレなんだけど…」
違ったみたいだ。どうやら二頭じゃなくて三頭らしい。一頭多い。別に一頭多くても良いだろ。羊飼いか、お前は。お菊の皿じゃないんだから、一つ多くても問題ないだろ。

ずばりと知ったかを指摘された俺は「あ、ああ、なるほど。指導が良かったのか二の方にも効いたみたいです。良かったな、二。ニも良かった言うてます。な?ニ。」
ニ「うん!!!!!!!!!!!!!」
と意味の分からないフォローをかましてしまう。

いや、違うんです。ほんとに二の方もいってたんです。もしかしたら一の方もいってましたね。というか全部いってません?1〜10までいってません?腕全体がいってます。もはやあのトレーニングだけでドーピングコンソメスープ飲んだみたいになってます。ドーピングコンソメスーパーになってます、ドーピングコンソメスーペストです、俺は。

知ったかを指摘されると異常にあたふたするのが俺の短所であり、上記のような言葉が一瞬で脳裏に浮かんだが、そこは言わずに飲み込んだ。言っていたら無言で肩パンされてた可能性がある。

とりあえず、気を取り直し、次は脚の筋トレに向かう。
なんかあの脚で重いのを押し返す奴隷作業みたいなマシンの前に立つ。
「足の裏全体を使って、上半身は出来るだけ固定して」
…効いてる。どこかは分からんがなんか脚全体が効いてる気がする。というか、これは本当に脚全体に効くやつじゃない?と思って、次こそはと思い筋肉の名称をペラペラと喋りだす。
「効いてますわぁ。脚のあの腿の裏、オスグッドあたりが嬉しい悲鳴をあげてますわぁ…」

「オスグッドは膝の痛みじゃない?」
なに?オスグッドってなに?あの腿の裏あたりの筋肉そんなカタカナの名前じゃなかった?
「ハムストリング?」
それです。ハムです。俺のハムちゃんがチューチュー言うてます。チューチューピーチュー言うてます。な?ハム?
ハム「うん!!!!!!!!!!!」

ここからもうイキったコメントを言うとバカの墓穴を掘ることを自覚し、あくまで抽象的に効いてるという事実だけ伝えることにした。

「効いてますねぇ」「いやぁ、俺の筋肉が喜んでますよ」

「なんて効く筋トレなんだ」「超絶効いてる」「効きすぎてますね」「なんか効きすぎてゲロ吐きそうです」

「ほら見てください、筋肉が隆起してます」「これがパンプってやつですか」「パンプパンプし過ぎてて鳥肌立ちます、パンプオブチキンってこう言う事ですか?」

「これは凄い」「もうこれ特許取りましょう」「ドーピングしてます?」「肩にちっちゃいジープ乗せてんのかい?」

「ああ、先生、もうダメです。俺、効きすぎておかしくなっちゃうかも…」「もうこれラジオ体操に取り入れましょう」「最早"筋肉に効く"という結果だけを残す魔帝7ツ道具ですか?」

「効きすぎてなんかもう歩けません」「あれ?脚の感覚がもうないです。これヤバイです?」

「もう効きすぎて五感を全て失いました。けど良いんです。今ではこれも良いんだって思えます。五感全てを失っても筋トレは出来ますから。効いてますよ…大胸筋ですね…大胸筋がもう張りに張ってますわ。俺の大胸筋が熟れた果実のようです。え?これ広背筋ですか?そうですか。失礼しました。」

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