人間リアリティショー「どっちが狂ってるでSHOW」

「こんにちは~」

ナイモンを開くとこんなメッセージが入っていた。送り主は21歳のいかにもガチムチといった風貌の子だった。この段階ではなにも期待せずとりあえずのメッセージを返す。

「こんにちは!メッセージありがとうございます~」

当たり障りが無さ過ぎて掴みどころすらない返答をうって返す。けど別にこれでいいのだ。俺ももう30歳。自ら積極的に動くのは会社の中だけで十分で、突然訪れた若い子との会話チャンスに舞い上がったりもしない。世の中に期待する方が負けを見るというのはこれまで負け犬人生で身に染みるほど分かっている。仕事をしていても半分の業務は「お前がやれよ」という内容であってしかし他人に振っても思い通りの結果になったことはないし、上司の期待は推進力としての翼ではなくもはや鈍い頭痛に似た足枷として機能している。これでいい。別にこれでいんです。メッセージの果てにある状況を想像する。やり取りを数度交わして軽くご飯に行ってその先にあるのはなんだろう。SEXか。SEX以外ないだろ。SEX以外だったとしてもワンチャンでシコってくれればそれでいい。ケツを使うのはめんどくさいので相互でシコりませんか?と続けて送ろうと思ったが、流石に最初から飛ばし過ぎだなと思いバックスペースを連打して相手の反応を待つことにした。

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「こんにちは!メッセージありがとうございます~」

30歳、東京ダイナマイトのハチミツ二郎を若干スマートにした顔の男から返信が来た。挨拶返し後の具体的な続きがうたれるのを待ったが一向にこの文言以降なにか送られてくる気配はない。相手の出方を見る待ちの姿勢だ。30歳にもなってコミュニケーションを相手任せにするなよ、死になさい、と思いながらもこの当たり障りのない挨拶の応酬からどう抜け出そうかを考える。俺はこの思考を巡らせること自体を楽しんでいる感がある。適当な男にメッセージを送り相手が反応を示せばアンロックなどの手技を繰り出しながらご飯に誘う。そこで如何に美味い飯を奢ってもらえるかが俺の中のゴールになっている。魚を一本釣りしているイメージが頭に浮かぶが実際はそんな快活なものではなく、泥の中に手を突っ込み金貨を探っている感覚に近い。実際にご飯を食べに行っても奢ってくれない人、あまつさえ奢らせようとしてくる人、とにかく体を目的にしている人、その手の輩がごろごろといる。人間としてどう?と言いたくなる連中も多い中で他者を金づるとしか見ていない自分も同じようなものだなと一応の反省をしながらもこの遊びはやめられない。こんなことを続けていると徐々に精神を蝕まれる感覚を覚えるが別にそれに自己嫌悪を感じることも無くやっている行動のクズさと反比例して他人に奢られるたびに俺は清らかな気分になっていくのだった。

「どちらにお住みなんですか?良かったら今度ご飯いきましょ~」

とりあえずのジャブを打つ。これで食事の流れになればゴールに近づくし、まずは少しお話してから...などという生娘のような警戒心を持つ人間相手でもそれを判別することが出来る。焦らずにゆっくりとやっていこう。21歳でこのガチムチの身体画像を貼っていれば比較的話も進めやすいはずだ。本当は25歳だしこの画像も高校時代のものだが、別に大した違いはないだろう。嘘は良くないがこれらは全然嘘とかではなく、ただ年齢の更新を忘れているだけだし身体画像も昔勝ち得たものではあるのだから嘘ではない。盛っている。そう、盛っているだけである。今は大SNS時代、インターネットの普及により自分を演出してアピールすることが求められ、ネットにおけるキャラクターの創出、個人情報防衛、その他諸々の観点から嘘をつくことがよりライトに、カジュアルにこのくらい誰でもやってるでしょという意識が蔓延している。少なくともこんな出会い系というものをやっていて自分を一切脚色しない、裸一貫で勝負している人がいるのなら教えて欲しい。趣味がゲームしかないからって映画鑑賞とか書くのも広義では嘘であり脚色である。この時代、ステゴロで戦う方が間違っており誰しもがそれぞれの武器を持つべきなのだ。

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「どちらにお住みなんですか?良かったら今度ご飯行きましょ~」

ご飯か。めんどくさいな。と俺は思う。もうご飯に行こうとかいう建前はいいだろ、どうせSEXだろ?体中から淫靡な光線を発射しまくっている画像をプロフィールに設定しているくせに、ここにきてご飯?SEXSEX、あーSEX。相手からのメッセージを待ってる間に俺の意識は一人で育ちこの若い子への印象は全てSEXになってしまったようだ。こいつをすり潰して粉状にし鼻から吸引したい。相当淫乱な気分になるだろう。あーSEXSEご飯ご飯。...お腹空いたな。とりあえず返信は一旦置いておいて近くのスーパーに買い物に行く。刺身のパックを見てイカで空いたとこを埋めるんじゃないよ、大特価!というPOPを見てもいつもこの値段だろうがと悪態をつきたくなる。ご飯は炊いてるのでなにかおかず。おかずおかず。今日はなにでシコろうか。仕事のこと以外は常にこんなことしか考えていない。捌け口のない性欲への葛藤と毎日同じもの食べているなという無意味な焦り、世の中への小さな不平不満だけが今の俺を構成する全てであり今もレジで前のおばあちゃんがバッグからセカンドバッグを取り出し、セカンドバッグから巾着を取り出し、巾着から財布を取り出し、財布から一枚一枚小銭を取り出すマトリョーシカを披露している。早くしてくれ。しかし別に怒ったりはしない。思うだけで誰にも何も言わない。怒ることは他人に期待することで俺は他人に期待しないからだ。

「中野区に住んでます!ぜひご飯行きましょう!」

スーパーの帰り道に脳を何も使わずに返信する。甘いものも欲しいなと思い道中のコンビニに寄り道。10分悩んだのち結局いつも買うモナ王を購入。いつもいる店員にクイックペイでと伝えるも毎回PayPayを用意される。すいません、クイックペイです...と俺が悪いわけでもないのに謝ってしまう。袋の有無はいつも聞かれないけど聞くだけ聞いて欲しい。別に要らないけどさ。同じ道に同じ店、同じ店員に同じアイス、なにか自分を変えてくれるものを望んでいるがそれに対して動くことも無い。もう30歳だし。若くないし。郵便受けを開けるだけで明日を劇的に変えるものが入ってないかしら、と思うくらいだ。けど期待はしない。期待するのは良くないから。そんなことをTwitterの万バズツイートでもよく見る。ただ、それだけなのだけど。

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「中野区に住んでます!ぜひご飯行きましょう!」

この男はAと返したらAとしか返してこない。BでもなくA'すらない。オウム返しという言葉が浮かぶがオウムの方が可愛げがあるのでオウム以下であることはすでに確定してしまっている。この手の輩は結局相手に話を進ませて貰えるものだけ貰っておこうというハイエナ根性に溢れた輩である。いやハイエナもよく見ると可愛い。ハイエナでもないな。人間は動物の愛くるしさには勝てない。なにが大型犬ホモだ。大型犬の可愛さを舐めるな。犬猫の番組は犬猫たちにセリフを当てるのをやめろ。犬猫はワンとかニャーとか鳴くのが可愛いのだ。動物を飼いたいと呟いたときに動物の寿命の短さを指摘して正しいことを言った気になるな。お前が10年で死んだ方がいいでしょう。とにかくこのメッセージ相手は自ら発信する気はないようだ。うんちだな。この男の体のどこかにはうんちがついてるに違いない。全く嫌になる。

「住んでるとこ近いですね!今度の土曜日はどうですか?」

要点をまとめて簡潔に返信をする。YES or NOで返せる文ならばどちらか言うだろう。全くなぜ俺がこんなことまで気を遣わねばならないのか、と思わないでもないが奢られることを目的に据えてる以上多少の負い目があるのでこういうとこでその罪悪感を逃がしてやることは必要だ。相手からしたら知ったこっちゃないという話ではあるのは承知の上だが、俺は他人の金で飯を食うということはどういうことか十分理解しているつもりである。軽く奢られようとは更々思っておらず、奢られるという立場への責任は果たそうと思っている。その為の年齢詐称でもあるし、いざとなれば体を供することにも躊躇はない。年齢詐称はもちろん学生身分を主張できる年齢である方が奢られやすいということもあるのだが、それと同時に単純に奢るなら若い子の方が向こうも奢りやすいだろという打算もある。年齢など所詮記号ではあるのだが、やはり若さというのはなににも代え難い武器でもある。いかに奢りやすい空間を演出するか、それが俺の責任でありこの遊びにハマっている理由でもある。

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「住んでるとこ近いですね!今度の土曜日はどうですか?」

今度の土曜か。暇です。暇ではあるのだが、こう当事者意識もないまま予定を入れられるとなんだか実感が沸いてこず、快諾することに若干の躊躇が生まれる。人と遊びに行ってああやはり家にいれば良かったと思うことはこれまでの人生でも多々あり、自宅でソファに寝そべりながら警察密着24時を見ているのが俺の最大幸福である。人が警察にしょっぴかれるシーンは俺の人生には決してない刺激であり、警察の前で下手な嘘をついているシーンを見ていると自然と口角が上がる。あーでも、土曜か。暇だしいいか。3日はシコらず行こう。どうせこの若い男は他の若い男同様に精液泥棒であり性獣・ドラゴン・オナホ・マンホールであるのだ。少しは謙虚さを持てよ、若い男は。性の発露も度が過ぎればこの業界では干されることもまだ知らないのだろう。いや、果たして干されるのだろうか。確かに性の発露があからさまな人間は煙たがれるが、それはあくまで表側の話であり表層的には嫌っていても裏では連絡を取り合いセクースの祭り、両者Win-Winで干されるどころか精液タンクは潤っているのではないだろうか。分からない。俺はいわゆるゲイ社会の中でのカーストは高い方ではないし、自ら積極的に動かない性格のせいでイベントごとでは常に後手に回ってきた。それにより染み付いた負け犬根性が俺の人生をさらに惨めにしている。こんな事実は分かりきっているのだが、今更どうしようという気も起きない。俺は俺がおかしくならないように制御するので日々が精一杯なのだ。他人の精液タンクの心配をしている場合ではない。

「大丈夫です!では土曜日でお願いします!」

年下の若造に律儀に敬語を使うのも可笑しな話だが、実際の俺の手は敬語を滑らかにうって返す。他者を見下す自分と社会に向き合う自分は全く別人であり、他者を見下す自分など最初からいなかった様に振る舞う。これが正解で、俺は常にこの姿勢を強く意識している。世の中を見回すと、Twitterなどで全く関係ない他人の生活や仕事にケチをつけている方、落語でもやってんのかと言いたいくらい長い時間JR北浦和駅みどりの窓口で何かを訴えている方、コールセンターの一回線を3時間ほど占有してあることないことお叱りの電話をする方、全く実害を受けている感じはしないが私はストーカー被害を受けていると毎朝長文メールでヒステリックを披露してくる我が社の経理の方、よくよく思い返してみると現代日本にはイカれたメンバーと呼んで差し支えない人間で溢れている。しかし俺がそうならない保証などどこにもなく、もしや既に俺もこのメンバーの仲間に入っているのかもしれない。『山月記』にて虎になった李徴はその才能により社会から孤立していったが、世の中は才能のない虎で溢れており既に人間の心を無くしているので李徴のように現状に苦悩を覚えることもない。俺はどうなのだろうか。既に醜い虎になっているのだろうか。俺は俺の立ち位置を自覚している。常に自分が狂っているのではないかと自問している。省みるだけで俺はおかしくないと思える気がする。しかしそれだけである。それだけが俺は狂っていないと理由づける唯一のよすがである。寝て起きたら全く別の自分になってやしないか。そんなありえない事を少し考えながら眠りについた。

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場所は新宿のある居酒屋。もうお腹いっぱいです、と少し笑いながら言った若い男はそのままお手洗いに立った。俺は呑気にスマートフォンをいじりながら、この後はどこのホテルに行こうかと考えていた。ちらと時刻を見ると22時丁度だ。ふむ、SEXまであと2時間弱といったところか。外を見ると少しだが雨も降り始めているらしい、ふん、SEXレインというわけか。SEXレインにSEXホテル、もはやここもSEX居酒屋である。などと考えて暇を潰しているが、若い男は一向にトイレから戻ってくる気配がない。5分、いや10分は経っているだろう。シコってるのか?

しかしここで一つの考えがよぎる。これってお会計をする間なのか?確かに今日連れ立っているのは年下の男であり、彼は学生らしい。確かにこういう場は年長者で社会人である自分が出すべきだが、いまいちそういう気にならないのは彼が一杯800円ほどの日本酒を7杯以上飲んでおり、ドリンク料金だけで言えば俺の倍以上を費やしている。これ全部俺持ち?2000円くらい貰ってもいいんじゃない?しかし果たして先にお会計を済ませた俺は後から彼にお代の一部を請求出来るだろうか?いや、出来ない。後になるとなんか言えない。ていうか本当に遅くない?大丈夫?助けに行った方がいい?


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かなり時間に余裕を持たせてトイレから帰ることにする。これだけ間を持たせれば並の男ならば既に察してお会計しているだろう。これも一つの奢られテクニックだ。席に戻ると年上の男は呑気にスマートフォンを見ながら待っているようだった。トイレから戻ってすぐ、では行きましょうか。と退店を促す。そうすると年上の男は言った。はい、ではお会計に。2000円だけ貰っていいですか?と。
俺はうっすらと笑みを浮かべながら今日はビタ一文払うものかと覚悟を決めた。

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年上「2000円だけもらってもいいですか?」

年下「……と言いますと?」

年上「え、いや、多めに払うから少し払って欲しいなと思ったんですど。」

年下「年下で学生の身分の俺がですか?」

年上「いや、そうですけど。なんか開き直ってます?」

年下「開き直っているつもりはありませんが。」

年上の男は嫌な予感がして尋ねる。

年上「…あのトイレの長い間ってなんですか?正直に言ってください。」

年下「正直にですか?じゃあ言いますけど、あれは俺がトイレしている間に会計済ませとけよ、の間です。」

この瞬間に2人の間で社会性という薄い壁が壊れ、戦いのゴングが鳴った。

年上「え?じゃあ今日は最初から払う気などなくアホみたいに日本酒飲みまくってたわけですか?」

年下「そうですけど?奢ってでももらわないとそもそも飲みにこないですよ。そうじゃなきゃ土曜の夜は志村どうぶつ園見てます。失礼、今はみんなの動物園ですね。」

年上「そりゃ年下で学生だから奢られやすいかもしれませんけど、最初から奢られる気満々ってのはどうなんですか?ていうか、ずっと言おうと思ってましたけどあなた本当に21ですか?写真となんか雰囲気も違うし。今何歳ですか?」

年下「25歳です。ちなみにプロフィール写真も5年前のもので身体画像は高校生時代のものなんでそりゃあ違いますよ。学生じゃなくてバリバリ働いてますしね。」

もはや取り繕うものもなしと年下の男は勢いよく答える。

年上「は?じゃあ全然奢られる筋合いないじゃないですか。どおりでなんか体つきとかも写真と違うと思いましたよ。今はただのデブって感じですし。」

年下「容姿に言及するなんて最低ですね。そんなに筋肉がいいんですか?それならアメリカ人とお付き合いされては?体がデカいやつが勝つならアメリカの勝ちですよ。それにあくまで筋肉が凄いのであって筋肉をつけた人間が偉いわけでありません。その体がデカい人信仰やめた方がいいですよ。」

年上「んぐ…!」

年下「それにそっちも食事だけの名目で来てるはずなのにこの後SEXする気満々で会話するのやめてもらえます?5分に一回はこの後どうします?って聞いてましたよ。下心が見え見えです。」

年上「うぐぐ…」

年下「もういいです。ここは俺が払いますよ。カードで払います。それでいいですか?」

年上「いや、待ってくださいよ。払うとか払わないとかじゃなくて一言謝って下さいよ。嘘ついてたんですから。」

年下「何に対して謝るんですか。年齢詐称は明らかになりました、ここは俺が払います、何に対しての謝罪ですか?早く帰ってみんなの動物園の録画見たいんですけど。」

年上「ぬぐぐ…」

明らかに年上の男が劣勢である。

年下「ぬぐぐ、頂きました。ではこれ以上お話しすることもありません。ではさようなら。」

年上「ええもういいですよ。まさかこんなに狂ってる人だとは思いませんでした。」

年下「狂ってる?確かに俺は狂ってるかもしれませんが、あなたも狂ってますよ。コミュニケーションを相手に任せきりでそれでいて性欲だけは人一倍。どうせ今日も頭の中で卑猥なことばかり考えていたんでしょうよ。」

年上「そんなことは…!」

年下「考えてましたよね?」

年上「考えてました。」

年下「自分は何もしないのに相手にだけ何か期待するのどうなんですか。それに自分は狂ってないと驕ることも。俺から見たらあなたも十分狂ってます。」

年上「そんな…」

年下「ではこれで失礼します。」

席を立った年下の男。

しかしこの後衝撃の展開が…

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山里亮太「いやー面白くなってきたねぇ!」

YOU「ていうかどっちもヤバいよねぇ(笑)」

トリンドル玲奈「ねー!ほんとですよ(笑)」

徳井義実「これからどうなるでしょうね!」

人間リアリティショー『どっちが狂ってるでSHOW』CMの後も続く!!



おわり

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