ドラマみたいだなと思った瞬間の話

ドラマチックな、ロマンチックな事という意味ではない。

私は今から20年以上前に、鬱病を患っていた兄を自死により亡くしている。その当時時々会っていた男友達が複数人いたのだが、
兄の体調の事などは話してなかったし、
私に兄がいるという話をしたかどうかさえ覚えていないような間柄、
と言えばどういう関係か想像がつくだろうか。
兄が亡くなった時の話なのだが、
私の中でこれは笑い話の部類に入るので気楽に読んでほしい。

兄が亡くなってわりとすぐ、
そのうちの一人が、家に遊びに来ていた時に
私が台所でコップを洗っていると
「そう言えばお兄さん元気？」と言ったのだ。
私は手からコップを落とした。
兄の事は話していないはずだと思っていたから非常に驚いた。
誰かに何かを言われて驚きで物を落とす、という経験がなかった私は
（ドラマみたいなことって本当にあるんだな）とその瞬間思った。

また別の男性。
兄が亡くなった後、さすがに私の様子がおかしいと思ったのか
色々聞かれたから兄が亡くなった事をサラッと話した。
その彼に車で送ってもらった別れ際に
「兄ちゃん死んだからってお前死ぬなよ」と言われた。
私は（ドラマみたいなセリフ言う人って本当にいるんだな）と
その瞬間思った。
兄が死んだからって私も死のうなんて微塵も思っていなかったから、
そういうことを言われて驚いたし、優しい人なのだな、とも思った。
いや、それを言った自分カッコいい、とか思って
自分に酔っていたのかもしれないが。

20年ぶりに読んだこの頃の日記には「彼氏は作れない」と書いてあった。
そう思っていた事をすっかり忘れていたからこれにも驚いた。
重い物を抱えた女だと思われるのが嫌で
男性と真面目に向き合っていなかったと思われる、
とても若い頃の出来事だ。