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他者に触れること

アンメットの最終回を観て、大きいあめ玉を口のなかでじんわりところがすように味わいながら、ずっと切なくてずっと幸せな気持ちになっているこの数日間。
このドラマをきっかけに、他者に「触れる」ということについて何日も考えている。

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さっそく話は飛ぶが、先日、再放送の日曜美術館を観ていて「芸術作品は見る人の記憶に触れるかどうかが大切で、わたしの代わりに書いてくれた!って多くのひとが感じるということが、普遍的ということなんじゃないか」というような言葉があった。(かなりあいまい)
その言葉に、「まさにそれ!!!」と感動したわけですが、まさにまさに、アンメットは、わたしの記憶に触れて、自分の人生のなかで愛する人や、猫や、そういう大切な他者を眼前にして触れずにいられない気持ちや、自然と撫でたり、手を取り合ったり、抱きしめたりしたときの、じんわりと伝わる熱や呼吸までをもブワワッと想起させてくれる、珍しいテレビドラマだったように思う。「ああ、わたしの代わりに、あの瞬間を映像にしてくれた!」と思うようなドラマだった。

今までも、写真を見て同じような気持ちになったことは多かったけれど、うまく言葉にできていなかった。
たまたま、先月も旅行先で夫にそういう気持ちについて、ぼんやりと話したけどうまくまとまらなかった。
(学生時代は日記を書くようにフィルムカメラで時間を、空間を、モノを、ヒトを、写真を撮りまくっていたけれど、今は近所で、旅先で、美しいと思った瞬間脳内でシャッターを切ることはあっても、スマホでは後からそれを想起させる写真がなかなか撮れないし、技術もないし、誰もが写真を撮りまくっているし、なんだかそのこと自体に興味がなくなってしまったのだよ云々)

植本一子さんや、幡野広志さんの写真を見て常々感じていあの感覚は、「私の代わりに撮ってくれた!」だったんだな、と先日の日曜美術館で気づいて、これは日常的によくあった感情なんだよなあとしみじみ思っていたところだった。言葉にしてもらって腑に落ちた。

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話は戻るがアンメット。
いやあ、最終回も最高だったですよ。
わたしは、少なくともテレビドラマで、寝息を聞いたのは初めてだったし、女優さん(あえていうけど、女優さん)のそばかすやこまかなシミが画面に映っているのも初めて見た。
若葉さんはもともと、声量も発声も大好きだったけれど、まさかあのままの声量と発声でテレビドラマに出てくれるとは。
杉咲花ちゃんも同じく声量も発声も絶品なお芝居なので、静かに深く、美しい世界だった。
なんという贅沢。制作についての色々なお話を読むにつけ、それはそれはものすごい熱量と愛情で作られた作品なのだということが伝わるし、そういう目に見えないものが、結果的に目に見えるもので伝わることの素晴らしさよ。受け手を信用していないとできないことをたくさんしているともいえる。震えるぜ。

レースのカーテンが揺れる中、すやすやとかわいらしい顔で眠る若葉竜也を、見つめて、撫でて、髪の毛のくりくりとなぞって。
涙があふれて止まらない杉咲花の芝居よ!!
隣で眠るひとを、起こさぬように泣いたことがあるひとは、きっとわかるあの息継ぎ。
あの、呼吸。ああ。俳優さんて本当に素晴らしい仕事だなあ。そしてそれを細部にわたってみる人に届けてくれた各専門分野のプロの仕事たるや!!!素人には想像もできぬが、本当にありがとう!!

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こんな風に、他者に触れたときの温度や、湿度。
くっきりとした体と体の境界線が実感として浮かび上がる瞬間や、呼吸を感じること。
そういうことを、無意識に画面から感じとったことはそれまでにもあったと思うけれど、特に印象的に覚えているのは「カモンカモン」をだったなあ。愛情や親しみが、身体を通して伝わること。
お互いにその心地よさを感じているということ。
それが、大きなスクリーンの中で、白黒の映像からふわっと立ち上ってきて、じんわりと涙が出たことを覚えている。

あの時も、色んな人や物に触れてきた瞬間を思い出させられたんだけど、アンメットもまたしかり。

最終回の夜、いつものように夫に触りながら眠りについたら、夢とのはざまで、祖母に最後に会った日を思い出していた。
もう意識もなく死の淵へ静かに静かに向かっている、小さくてかわいいおばあちゃんの髪の毛をなでながら「大好きだよ、ありがとう」と言い続けたことを思い出して、泣いていた。
それから大好きだった猫、みーちゃんのわき腹の触り心地と、彼女の寝息。わたしはあの子の、それまで規則的だった寝息が、一回だけランダムになって呼吸を整える瞬間が大好きだったんだよなあ、とか。

奥底にある記憶を、ふんわりと優しく浮き上がらせてくれたあのドラマのことを、わたしはずっと忘れないと思う。

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日常的に、我が家は相当触れ合うことが多い夫婦だと思う。
なんというか猫同士がわざわざ狭い箱のなかで柔らかく重なり合って眠るような、あるいはゴールデンレトリーバーに子供がもたれかかって眠るような、そういう感じのなのですが。お互いに体のどこかが触れていることがけっこう好きな人種なのです。それがすごく嫌いな人もいるし、手をつなぐことも嫌い!という友人もいるし、人それぞれだなあと思うけど、我が家はたまたまお互い同じくらいでラッキーだった。(真逆同士だと、お互いつらいだろうな)

思春期をむかえ、初めて男の子と付き思合うとか、そういう時、わたしは「人の体温やばいな!!」と衝撃を受けたことを結構鮮やかに覚えている。多分昔から他者と親密にかかわるとき、わたしにとって物理的に「温かい」ということはかなり重要な要素だったんだと思う。
なれなれしく触ってくるひとは、もちろんノーセンキューだし、距離感バグってるひとは苦手。
恋人に限らず、大切な友人の中でも身体に触れる型コミュニケーションをとる相手もいれば、長い間仲良しでものすごく大切だけど、触れたことがない、体温をしらない友人もいる。不思議なものだ。

こんなことまで、頭の中でぐるぐると考えるきっかけになった「アンメット」
若葉竜也を、杉咲花を、岡山天音を、野呂佳代を、そしてノーマークだった千葉雄大を!!!毎週、神々の技術が結集した素晴らしいドラマを見せてもらった贅沢な日々に感謝。

そして日曜美術館にもらったヒントで、視界がクリアになった。
これからも、「私の代わりに撮ってくれた!!書いてくれた!!」という色んな作品にいそがしく出会っていきたいし、それを言葉にしておきたいなと思いました。まる。

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