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大宮見取図#11 ドラマチックに変わっていく大宮で、120年間「自然体」を貫く油屋さん。


●大宮製油 
  逸見 裕一(へんみ ゆういち)さん

 いかにも年季が入ったその建物は、レトロ建築好きの方々にはなかなかの知名度を誇るという。
そこの1階で営まれているのが、今回ご紹介する「大宮製油」という油屋さんです!
 
1906年(明治39年)創業の超がつくほどの老舗で、ずっと大宮の地で商売を続けてきたそう。
 
100年を軽々超える年数を続けてこられた油屋さんに、どんな歴史があるのか。
そして大宮のどんな歴史を見てきたのか。
大宮製油合名会社代表の逸見さんに、たっぷりお話をうかがってきました!


 身近なもので、無理なく。

お店に入ると、外観にも負けないほどレトロで魅力的な内装が現れると同時に、ごま油のやさしい香りがふわりと鼻に届きます。
 
もともとは製油工場を運営していましたが、現在はオリジナル油の製造を自社で行っていません。
ただ、昔ながらの「量り売り」は継続中で、今でも空き瓶やペットボトルを持参して油を買いに来る常連さんは多いのだとか。
 
 
油に対するこだわりは相当なものであろうと少々身構えながらお聞きすると、意外にも素朴で素直な、自然体な返答をいただきました。
 
逸見さん「最近は健康面でも油が注目されていますが、こちらはそこを深く考えているわけではありません。ウチとしては、ただ油が必要とされたから作ってきた。そして、地元でその素材が手に入るからこそ作ってきた。えごまも米もごまも、身近にあったからにすぎないんです。その地にあるもの、気候風土に合ったものを無理なく作る。そんな自然で合理的な行動を続けてきただけ。それがたまたまウチは油作りだったんですよ」
 
 
周囲から必要とされることを、ただひたすら自然体で続けてきた。
100年以上続く老舗の秘訣は、案外シンプルなものなのかもしれません。
 
逸見さん「昔はとにかくものを大事にしていましたよね。ものを捨てるなんてもってのほか、という時代から続けてきましたから。その精神がどこかに根付いているんだと思います」
 
 
身近にあるものを最大限に生かし、無理のない暮らしを続けていく。
大量生産大量消費の社会を経験してきた現代人に向けて、なんとも示唆に富む話だと感じてしまいました。

時代に合わせて自分たちも変わるべし。

 次第に話は、創業当時のものに移っていきます。
 
逸見さん「曽祖父が岩槻から大宮に移ってきたことが大宮製油の始まりです。ここには当初、製油工場を設けました。当時は農業用肥料の需要が高く、油の搾りカスを肥料として販売していたので肥料工場と呼ばれていましたね。化学肥料が登場したあたりから需要が減ったこともあり、60年ほど前に工場は閉鎖。跡地は駐車場として運営し、現在も続けていますよ。これも時代の流れでしょうか」
  
駐車場経営という一部転身をはかりながらも、軸となる油屋さんは継続。こうした柔軟な姿勢も、老舗ならではなのかもしれません。
 
  逸見さん「大宮の街も柔軟に変わり続けてきましたから。もともとは静かな街でしたが、駅ができて国鉄の工場ができて、そこで働く人たちがたくさん入ってきて、街は一気に華やぎました。明治時代には盆栽村のエリアに多くの料亭がありましたし、太宰治がここの町内で『人間失格』を書き終えたなど、多くの文豪にも愛されてきた街です。近年は再開発などでさらに街並みは変わっていきました。街が変わるなかでずっと大宮製油を続けていますが、時代に合わせて自分たちも変わっていかなければと、常に考えてはいますね」
 
 
また、気になっていたこの建物自体の話もしていただけました。

 逸見さん「この洋館風の建物は、大正時代の終わりか昭和の初めあたりに建てられました。構造は木造、外壁はスクラッチタイルという施工は、帝国ホテルで使われたものをイメージしたのかもしれません。現存する建物は大変珍しいそうです。ガラスや金具なども大変貴重なものとのことでした。近い将来、道路の拡張工事が予定されていて、この建物を残せるのか不明なのですが、やはり残せるのであれば残したいです。この場所は幼少期から遊んで育った場所でもあるので、個人的な思い出もあります。それに、代々受け継いだものだし、使えるものは使いたいじゃないですか」

 立ち寄ってくれれば、何でもお話ししますよ。

現在の大宮の印象を聞くと、過去からの「ドラマチックな変貌」がひとつのキーワードだと逸見さんは話します。
 
逸見さん「雑多でいろんなものがあるイメージの大宮ですが、昔から今の大宮なわけではなく、時代によってドラマチックにその姿を変えてきた街だと思います。先ほどの駅や工場の話もそうだし、例えば、氷川参道は整備される前はすごく暗い道でした。だから、変わるべきは変わる、残るべきは残ると、時代に合わせて変貌を遂げてきた結果が、いわば“何でもアリ”の今の大宮を形成したんでしょう」
 
 
最後に、個人的な視点から大宮の魅力を教えていただきました。
 
逸見さん「氷川神社はやっぱりそのひとつで、今の若い宮司さんは様々な行事や企画をたくさん実施しています。神社の成り立ちなど歴史にふれるとさらに面白いと思います。大宮の街自体も新旧ともに魅力的なので、ぜひ歩いてみてほしいですね。ウチに立ち寄っていただければ、古い油の機械から建物のことまで、何でもお話しさせていただきますよ」
 
 
時代の変化に合わせて自在に変化してきた大宮の街。
そのなかで昔ながらの建物を利用し、商売を続ける大宮製油の存在は、いろんな意味で価値があるように感じます。
 
外観を眺めるだけもよし、店内で話を聞くもよし。
油屋さんから、大宮の歴史を楽しんでみるのも楽しいかも!?

 ■大宮製油  大宮製油合名会社 代表取締役社長 逸見 裕一(へんみ ゆういち)埼玉県さいたま市大宮区大門町3-90
MAP OMIYA 2023 発行:アーツカウンシルさいたま (公益財団法人さいたま市文化振興事業団)さいたま市南区根岸1-7-1-4階 編集・制作:株式会社Funwacca  2023年8月発行

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