あなたを守ってあげたい

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・場所などには、いっさい関係ありません。

夢の中なのか?物凄くリアルだ。
誰かが運転する車の後部座席で私は凄く久しい人と会話を楽しんでいた。小学生の頃以来だからもう10年以上振りくらいだろうか。

他愛のない話ばかりでケラケラ笑いながら話す相手はキョウジ君だよね?凄くセクシーでスタイルが良く、もっとイケメンになっていた。

普段何となくモヤモヤしている気持ちも吹き飛び、爽やかな気分になってくる。人と話すのってこんなに楽しかったっけ?

過去を振り返るがそもそも彼とは小4で初めて出会い、3年間同じクラスだった。当時彼は勉強も平均以上でスポーツがかなり出来て、合唱ではピアノを弾いていたよね。

見た目も色白でクリッとした猫目でぷっくりしたアヒル口で。まるで猫いや虎やライオンの子どもみたいだった。かっこ可愛くて結構モテていた。スタイルも良く、たまにへそ出しルックを見せてくれた。カリスマがかっていた。

同学年だけではなく、下級生もませた子は教室まで覗きに来ていた。

だからといって彼は気取ったり気障ったらしいとか、偉そうに全くせず、素直でみんなに誠実で優しかった。
彼が居るからクラスや学年が平和なんだと噂されていたくらい。

私は知里(ちさと)。市内で働くOL23歳だ。
日々淡々と仕事をし、会社と自宅を往復している。まぁまぁまぁ、日々退屈しないんだからこれで良いのだ。

彼は陽キャ、モテキャラなら私は陰キャだったなぁ。
彼とはあまり話した事は無かった。
ただ、しばらく一緒に帰ってくれた事があった。

私にも一緒に帰っている女の子が居たが、偉そうに命令されたり一緒に居ても全く楽しくなく、下校の時間が近づいてくるのが憂鬱だったのだ。

ある時、終わりの会の後、さようならの挨拶をしてため息をつく…間もなくキョウジ君が飛んできて私の手を取り、
「一緒に帰ろう」
と凄いスピードで引っ張っていったのだ。

「ちょっと待って!」

いつも一緒に帰っていたヒトエはぽかーんと立ち尽くしていた。
それが何日か続き、やがて
「もう1人で帰れるな?ヤバいならすぐに俺に言って来い。」
と彼。

そこからバラバラに帰った。案の定ヒトエは絡んできた。

「最近私の事避けてない?」

「まぁ…そうやねん。話題が楽しくないからな。」

わっ、それ言っちゃうんだ。
私、気が弱くてこれまでこんな事言えなかったのに。ハッキリしたキョウジ君のお陰かな?

ヒトエは
「勝手にしな。」
という風に1人で帰って行った。

ケータイに絵文字が送られて来た。
グッドジョブ!みたいな親指を立てた握り拳の。もちろんキョウジ君から。

キョウジ君は陰ながら私を守ってくれた。
その後はあまりしゃべらなくなったが。

卒業の半年前に好きだって気づいた。

思いは告げず、連絡もやがて届かなくなり、年賀状も小学生の間だけで終わった。

それなのに何で?
キョウジ君の事は最近全く思い出していなかったし、私もこれまでの人生恋をしなかったわけじゃない。

別の日は夢の中で彼と真珠塚歌劇団の舞台を観に行っていた。
舞台が始まる前のザワザワした観客たちの歓談が聞こえ、私たちも他愛なく話をしていた。
連絡先を交換してやがて目が覚めた。

この時も凄く凄くリアルな夢だった。

朝が来て今日も会社だ。
出来るならたまにはゆっくりしたい。
最近21時まで連日残業だ。
まぁ繁忙期だから仕方ないのだが。

キョウジ君が夢に出て来てから、家族や会社仲間たちから
「知里ちゃん、最近楽しそうだね。」
「元気やなあ。」
と言われる。

そうかな?
確かに朝は苦手だったが最近爽やかに朝を迎えられるのだ。
これで上手く繁忙期を乗り切れるかな?

電車で毎日私は通勤する。

とある場所が気になっているのだ。
会社の2駅ほど前だろうか?

墓と五重塔が隣接した場所がある。どこにでもある光景だと思うが、何となく嫌な予感がしたのだ。

疲れているからかな?21時を回って電車で帰宅する時に、五重塔の窓が開いていて気のせいかまるで目のような赤い鈍い光が2つほど見えたのだ。

一瞬で通り過ぎてしまう場所なのに非常に気持ち悪かったのだ。
気のせいか人通りもこの場所近くは異常に少ないし、電車を降りる人も居ない。

何かあるんだろうか?
考え過ぎだよね?
大好きなゲームやアニメの世界じゃないんだから。

私は「あの場所」が気になって仕方なくなり、寝ても覚めても頭から離れなくなったのだ。

幼い頃親が私に柔道と剣道を習わせてくれていた。大学では空手部主将だった。
自分の身はちゃんと守れる。木刀も用意した。

ある日私は一度仕事終わりに「あの場所」に行ってみる事にした。

案の定電車を降りる時、
「えっ!?そこで降りるの?」
というようなびっくり仰天したような顔を向かい席のおばさんにされた。

駅構内もとりあえず電気がついているが誰も居ない。
駅係員も事務所で気配を消しているのか誰一人見当たらない。

とにかく寂れているのと、雰囲気が暗い。

私は階段を降り、駅から出た。

夜の闇の質が違う。濃厚なのだ。

息を潜めてグループになって物陰に居る年配の男女を横目に見て、私は「あの場所」に近づいた。
「また聞こえるわ。」
「気持ち悪いわあ。毎晩毎晩」
と彼らは話していた。

五重塔からだろう。太鼓を打ち鳴らす音がする。
ドン、ドン、ドン、ドン、

それにあわせて金属を擦り合わせるような気味の悪い歌声が聴こえてくる。

「生贄を捧げよ…余はもう耐えられないぞ。若い娘はどうした」

と聞こえた。

タチの悪い悪戯なのか。
「気色悪」
私はゾッとした。

赤い光が見えた。

背後から
「姉ちゃん!あほかいな!早よ乗り!」
と声をかけられ、車に乗せられそうになった。

私は咄嗟に回し蹴りを放ったが、相手が人間なので加減した。
だからか相手に車に乗せられた。

「一先ずこの場を離れる。話はそれからや。」

40代から50代くらいの男は私を車に乗せ、とにかく必死で「あの場所」から離れた。

決して悪い人には見えなかった。ただびっくりした。

「落ち着いて聞きや。「あの場所」の近くは呪われてるんや。

あの五重塔には毎晩若い娘を喰らう魔物が居るんや。

あの近くを通った若い娘さん達が行方不明になってるんや。

急に触手が凄い速さで伸びて来て、若い娘さんを掴んで攫うらしいんや。

実際に魔物を見た者は居ないが、巨大な蛇や蜘蛛という噂があるわ。

勇気ある腕に自信のある男も乗り込んだけど、誰一人帰って来ないんや。

あんたみたいな若くて可愛い娘さん、魔物に気づかれたら間違いなく攫われる。

「あの場所」には二度と近づくな。分かったな?

家どこ?送ってあげるわ。」

その人は優しく、私を家の近くまで送ってくれたのだ。例を言って、5,000円を渡した。

でも、でも、
みんな困ってる…。
私、何とかしたいです。

ただ下手に近づくと死んでしまうよな…。
私も腕っぷしには自信があるが、巨大蜘蛛が大の苦手なのだ。

どうしたら良い?
その日は眠りにつく前、「あの場所」の近所の人、どうしてるのかな?

とばかり考えた。

「放置なんて無理!明日も行く!」
そして憎き魔物を倒すんだ。そう決心して私は眠りに落ちたが、凄い光を感じたのだ。

そこに光を纏った観音様が出て来られたのだ。

「皆が関わりたくないと目を背ける「あの場所」に居る魔物を倒せるのはそなた1人。

伝説の宝剣と兜、盾、鎧を身につけなさい。その後、「あの場所」までそなたを送る。」

「え?今からですか?」
観音様は縦に首を振った。

「皆が寝静まった今の時間が良いであろう。」

完全にゲームの世界やん。

私はそう思いながら白銀色で赤の宝玉がついた装備品を身につけた。

やがて観音様が手から出したシャボン玉に入り、私は観音様と共に「あの場所」を目指した。

赤い宝玉には魔を払う力があるようだ。
例の魔物を見た者は呪われると言われるが、赤い宝玉があれば安心だ。

観音様は私を守ってくれると言われ、回復役として一緒に魔物と戦って下さることになった。

「あの場所」に再びたどり着いた私は目を疑った。
5時間も経たないはずなのに、そこは先程と同じ場所だとは信じ難くなっていたのだ。

五重塔からは太鼓、そんな生ぬるいものではない、ズシン、バシン、バキッ!ミシーッ!

五重塔が今にも壊れそうな勢いで凄い音を立てていた。

その中に女が泣く巨大な声が響いた。

近隣の住人達はそーっと外を伺っているようだった。
全く眠れていないようだ。

五重塔に近隣する新しい墓も倒され、荒らされ、墓地全体もめちゃくちゃになっていた。


墓地の門の近くには50歳前くらいだろうか?
長い髪の美しい女性が泣き崩れていた。

「キョウジ…キョウジ…」

「すみません。どうされましたか?」
「キョウジ、いえ一緒にいた息子が突然目の前から消えたのです。でもキョウジは男の子ですし…」

さてはあの魔物だな?

若い娘にありつけなくなった魔物は最近若くで亡くなった者の墓を荒らし、掘り起こしたり倒して中に眠る人間を食べたのだ。

せめて骨だけでもと。

それでも飽き足らない時に若くて美しいキョウジが車を準備して母を連れて外出しようとしていたのを見て、魔物は即触手を伸ばしたのだ。

男にしては女に勝る色気と美しさを兼ね備えていたキョウジは魔物にとって恰好の獲物だった。

キョウジが居なくなったのは3時間前らしい。

ちょっと待って…
キョウジって…あのキョウジ?

お母様、彼に似ておられる気が…。

とにかく急ごう!助けなきゃ!

私は五重塔の中に急いだ。
階段を登り、どんどん音が近づいてくる。

土色や緑色のヘドロのようなものや血液で染まった襖が何枚も見える部屋前に来たのだ。

階段や踊り場には人骨が入った漆の箱がたくさん置いてあった。

異臭もすごかった。吐きそうだ。とにかく私は
前に進むしかなかった。

キョウジ…無事で居て…

私は襖を開けようとしたが動かず、仕方がないから数枚蹴飛ばした。

巨大な人面を持ち、顔から下はヘビになっていた。2本の巨大人面蛇が胴体で1つになっていた。

そいつは大泣きし、吐きながら
「男の血が妾の血を穢した」
と暴れ回っていた。

私はふつふつと怒りが込み上げ、
「黙れっ!大人しくしろ!お前には皆んなが迷惑してるんだ!
今日限りでお前を楽にしてやるから覚悟しろ!」

魔物もかなり弱っているようだ。行動に全く統制が取れていない。匂いを我慢すれば良いだけし、慣れてきたのだ。

私はまず、キョウジを助けたかった。
あのキョウジならもっと。

私は魔物の腹を深く切り裂いた。そのまま切り拓いていった。
毒や呪いを受けないように観音様がまたシャボン玉を出し、私を中に入れてくれ、導いてくれた。

私はライトで照らしながら探した。

何と、一箇所黒い塊が見えた。それはゆっくりもがいていた。間違いなく若い人間の男だ。

私は急いで抱き上げた。そしてシャボン玉の中に運び入れ、急いで外に出た。

魔物が怒って襲いかかって来たが、攻撃は私達には当たらなかった。

私は跳躍し、魔物の首を2本剣ではねた。

魔物は古い塵のようになり、そのまま遠くへ吹き飛んだ。

終わったのだ。

観音様は聖なる水と光を杖から出し、五重塔とその若い人間の男キョウジにかけ、洗浄、浄化した。

みるみるうちに五重塔は、魔物が住み着く前の状態に戻り、キョウジはゆっくりと目を開けた。墓も元の状態に戻っていった。

魔物に食べられた者達も蘇ったそうだ。

「知里か?俺は一体?」

キョウジはやはりあのキョウジだった。

「キョウジ、お久しぶり。気がついたのね。もう大丈夫よ。」

キョウジは状況を理解したのか、優しく微笑んだ。

「知里、ありがとう。ずっと会いたかった。小学校時代から君がずっと好きだった。」

「今それを言う?(笑)でも嬉しい!私もずっとあなたに会いたかったわ。それに、ずっとずっと好きでした。お母様、外で泣いておられたからまず、行こうね。」

観音様は見守ってくれていた。

観音様はこっそり2人に永遠のご縁を結んだ。

「キョウジ、生きてたのね。知里さん、ありがとうございます。キョウジをよろしくお願いします。」

「え?それって…。」

一同幸せそうに笑う。

キョウジと知里は観音様のからお守りをもらい、日頃の事を報告し合うようになり、2人はこの後仲を深めて幸せになりましたとさ。










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