駄文/ノラ猫を葬った話

当時、新卒で会社を二つ辞めたあと、バイトをかけもちしながら、JR中央線の線路沿い、風呂なし3万円のアパートに住んでいた。

アパートには4世帯入っていて、真上は失業中のN崎さん、隣りはヒッピー風の3人家族、斜め上の爺さんは、一日中窓から路地を見下ろして、「バカヤロー!!」と叫んでいた。

ある朝、バイトへ行こうとドアを開けようとするのだが、妙にドアが重い。ナニゴト!?と思いながら、ドアをゆっくりと押し開き、すき間からそうっと外を見ると、ドアの真ん前に、ヘロヘロのノラ猫が横たわっていた。

僕は、犬は好きなのだが、猫は、シャーッと引っ掻かれるイメージがあって、ちょっと苦手だった。が、ツンツンしても「ニャー」と言うだけで、動こうとしない。おそるおそる、そうっと抱き上げてみたが、「ニャー」と言うだけで顔を上げない。

どういう状況なのかさっぱりわからなかったが、とりあえず部屋にあったダンボールに猫を収容し、牛乳をお皿に注いで猫の側に置き、ダンボールごと部屋に上げて出勤した。

夜遅く帰ってきて、ダンボールを覗くと、牛乳を飲んだ形跡はなかったが、猫はまだ息をしていた。

翌日はたまたま休みで、通勤経路にあったはずだ、と記憶をたぐって、ノラ猫を犬猫病院に連れていった。

お医者さんは、猫の体温を計ろうとして体温計を尻に当てたところで、すぐにそれを止めた。
「もうダメですね。ほら、ここ見て。」
体温計の先に、虫がついていた。
「どうすればいいですか?」
「こういう場合は、もうもたないので、安楽死させてあげるのが一番かと…。」

費用は2万円と言われたが、お金がないことを告げると、それなら1万円でいい、とのこと。それでも痛い出費だったが、縁だと思って、そのようにしてもらった。猫は息を引き取った。

アパートに戻って、保健所に電話をかけた。猫の亡き骸って、どうすればいいの?と。
「犬は引き取るんですが、猫は燃えるゴミで出して下さい。」

なかなかの衝撃的な返答だった。

埋めようにも土がないし、土があったところで、猫の亡き骸なんか埋められても近隣住民が困るだろうし、
ペットセメタリーという発想も全くなかったし、あってもお金がなかった。

僕は保健所の言う通り、猫の亡き骸を燃えるゴミの日に出した。

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