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Present(文サお茶代2月/ジユー課題)

プレゼントの醍醐味は「過程(プロセス)」と「約束(プロミス)」だ。
プラスチックの番号札をポケットの中でいじりながら、僕はつくづく考える。
本革でできたプレミアムなオートクチュール。それでも、君がたまに着けるパールのピアスよりずっと安い。
プロポーズの夜に渡すのには、あまり似つかわしくないものだから、君はきっと驚くはずだ。
だけど、パッケージを開いてピンク色のパスケースを見た瞬間、君はすべてを理解してくれることだろう。

僕たちは駅の改札で出会った。
快晴のわりに強い風が吹いていて、待合の床に桜の花びらが散っていたのをよく覚えている。落とした切符が風に舞い、ヒュルヒュル逃げてしまうのを捕まえてくれたのが君だった。
僕はすっかり照れてしまって、ろくにお礼も言えなかったけれど、君が僕と同じ駅で降りることがわかってからは、距離がぐっと縮まった。
仕事終わりに同じ店で食事をして、同じ時間を一緒に過ごして、いくつもの夜を越えた頃、隣に座る君に向かって「好きだ」とまっすぐに伝えた。
それからの日々は流れるように過ぎ去って、僕たちは三度目の春を迎えた。
改札に立つ君の肩に、桜の花びらがついている。左の頬についた何かの跡、直らない寝ぐせを手櫛で何度も梳く仕草。そうして目が合ったときのぎこちない笑顔を、僕はたまらなく愛おしく思う。

馴れ初めを思い返しながら、ふとショップカウンターに視線をやると、販売員がポリエステルのリボンを格子状に結んでいた。
ああ、本当は斜め掛けが良いのですが——思わず声が出そうになったが、ぐっとこらえて息を飲むにとどまった。
奇妙なこだわりを見せたところで、販売員は僕の立てた綿密なプランなど知る由もないのだ。リボンが格子になったなら、プールでのパフォーマンスを削ればいいだけのことだった。

帰宅してすぐに、僕はポスター状に印刷した予定表を修正した。
プリントケーキはパフェに変更して、コースのパスタをリゾットに。映画館で食べるポップコーンはキャラメルから塩にして、フレーバーポテトをつければ問題ないだろう。
プレゼントの醍醐味は「過程」と「約束」だが、そこに至るには膨大なアルゴリズムが不可欠だ。まずは告白の返事を待って、そこから細かい調整をしよう。

駅で見かけたときから今日まで、僕のプランは完ぺきだった。あとは張り巡らされたドミノの、最初のピースを倒すだけ……。

——しかしながら、電話がさっぱり鳴らないな。

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