今日から始める文化資本詐欺、旅行編

分け入っても分け入っても青い山 種田山頭火

身の上話です。恥ずかしいですが後天的にちょっとだけ蓄えた偽物の文化資本をさも先天的に授けられたものとして長らくまとってきました。

ただどれだけ技巧を凝らしてもそこにいつも自分がこさえたグロテスクで歪ななんちゃって文化資本の姿を見ないわけには行きません。冒頭に引用した種田山頭火の自由律俳句を借りて言えば
『まとってもまとってもグロい文化資本』みたいな気持ちです。
そもそも「やれ文化資本がー」とか言ってる時点でもうグロテスクです。私が擬態したい武蔵野市や杉並区とか世田谷区に住んでるリベラルな良家のキッズはきっとあんまりそう言うタームを口にしません。というのも自分の文化資本を自明なものとして無自覚に受け入れているのでわざわざそんな用語を持ち出したりしないわけです。そもそもそんな人文科学の青臭いテクニカルタームを頭に入れず制度化された文化資本、ex.高校から内部進学で大学にエスカレーターする時に提出する誰も読まねえ謎の論文とか書くのに彼らは忙しいので。

とにかく、虫歯になってようやく自分の歯の存在を強く意識するように文化資本はないからこそ強く文化資本として認識されます。

私は冒頭で種田山頭火の代表的な一句を引用しましたがこの無意味な引用はもうすでにグロいです。グロテスクに身体化された文化資本です。一瞬だけ富を蓄積した反社や夜の人間がエルメスのベルトにモンクレールのダウンを合わせて足元に蛍光色のダンクを合わせて得意になってるような支離滅裂なグロテスクさに近いものがあります。話を脱線させ、じゃあグロくなく身体化された文化資本のファッションは何だろうと考えます。プローサムの一枚袖バルマカーンコートにロロピアーナのニット。ちょっと首が冷えるのでジョンストンズのマフラー。手元が寂しいのでアンティークのゴールドジュエリー。足元には?あれで?時計はそれで?靴がこれか!?
とかやるんですね。例え話がファッションのこと。これも後天的に蓄えた文化資本を纏った詐欺師の限界です。表層からいつまで経っても出れないわけです。
冷静に考えてみれば文化資本の権化aka天皇陛下とかロロピアーナ着てないですね。文化資本の権化みたいな人はなんかモッサリしてます。このモッサリに憧れてモッサリをウディアレンの映画とかから輸入してくるんですけどなんか私がやるとアルファード乗った襟足だけ長い子供がコスプレでナードなモッサリやってるみたいになります。文化資本の権化たちはそんなにファッションとか興味ありません。表面的な見栄とかそんなもんどうでもいいわけですね。いつも消費の話してないでハゼの研究とかそういうのやってた方がクールですもん。

○おれが教えてやる。限りなくアプリオリに近い身体化された文化資本。

文化資本にも色々ありますね。書物や絵画、楽器それを所有しているっている客体化された文化資本とか
学歴、資格とか制度化された文化資本。そういうのは今回はなしです。あればある、なけりゃないで終わりだからです。

それに比べて身体化された文化資本は詐欺師に取り残された開かれた唯一の文化資本です。私はこの身体化された文化資本にレバレッジをかけて自分を大きく見せる芸当でやってきました。だからグロテスクでもあるわけですね。なんでかって、全部嘘だからです。制度化されたり客体化された文化資本はそこにありますが、文化資本詐欺師はないものをあるようにみせないといけないわけですからね。

ないものをあるように見せないといけないんですけどそれはときとして行きすぎてしまいます。やりすぎちゃうみたいなね。それだと文化資本詐欺師だとバレてしまうのでだめです。

文化資本詐欺師がもっと上手く詐欺を働きたいならもっとアプリオリな感じの文化資本をごく控えめに出さねばなりません。大事なのは控えめにです。間違っても聞かれてもいないのに自分から言っちゃだめや。動きすぎてはいけない。

○ケース1      旅行について行き先とかご飯。
旅行です。まず行き先。僕が擬態したかった武蔵野市、杉並区、世田谷区的アプリオリな文化資本人が好きなのは国内旅行です。
海外旅行は微妙なラインです。モロッコとかなんかそれっぽいですね。ただやり過ぎな感じがアプリオリ感を損ないます。海外旅行は難しいところです。

でもわかるハワイお前はダメだ。

「ヒロミー!夏はフミヤとハワイいこうぜぃ!モアナサーフライダーでパンケーキ食って昼からアラモアナで時計買っちゃうぅ?」みたいなのは杉並区のブルジョワはあんまり好きじゃないみたいです。私はアラモアナ的価値観の家庭で育ったのですが、アラモアナ的価値感は芸能や広告、不動産など広義の水商売系自営業家庭に固有の価値観ぽいです。

とにかくモノホンのアプリオリ文化資本感を出すのには山に行くことが大事です。傾向としては箱根、軽井沢、蓼科、那須みたいな避暑地です。泊まるのはまあ小ぶりな別荘か地味めなクラシックホテル。間違ってもエクシブとか行ったらダメです。会員制リゾートホテルみたいな軽薄な感じは己が文化資本詐欺師だとバレてしまうのでアプリオリの人たちから軽蔑と嘲笑の対象になります。そもそも何でもかんでも会員制という言葉をありがたがって価値を見出すのはお上りさんぽくて見苦しいのでそれも軽蔑されちゃうのかもしれません。私は心が田舎者なので会員制って大好きですなんですけどね。
ご飯はあんまり煌びやかな感じじゃなくてフレンチだけど郷土料理っぽいのがいいです。チャラチャラするとすぐ詐欺師とばれます。軽井沢に行ってもアウトレットとか寄ったらもうバレる。何が欲しいわけでもなく値段に釣られて買い物に行くのはバキバキ文化資本人からはマイナスポイントらしいです。ああ生きにくいね。地獄とは他者だ

○旅行、ナニスルノ?
僕は文化資本詐欺師なのでついつい旅行行ったら何かしたくなっちゃいますけど、あんまり動かない方がいいっぽいです。ゴルフとかテニスとかどうしても動きたいならいいですけど、じっとしてられないアラモアナ的多動の人かなと思われるのでダラダラするのが1番です。あとゴルフは少し忌避されてる感じもあります。接待とかそういう印象が強いからですかね。アガサ・クリスティとかサガンとかダラダラ読んで、セックスして寝て起きて、ケーキ食ってまた寝る。これでいいんじゃないでしょうか。サガンは流石に演出が過剰かもしれないのでもしかしたら「あれこの人の文化資本はアプリオリじゃないかも!」とバレるかもしれません。適当なエッセイ集とかがいいかもしれませんね。ただダラダラしすぎても隣の女がキレたりするので行きたいところは事前に聞いて擦り合わせておきましょう。箱根にはポーラ美術館とかありますね。行ってもいいですけど、あんまりウンチクを語ったりすると普通に「あ、この人頑張って勉強したんだなぁ!」とアプリオリの人から詐欺師認定されるので注意しましょう。美術への解析度が高すぎるとわざとらしいので「ママがこの絵好きで私も好きになったの!」みたいなアプリオリ文化資本ガールに「そうなんだー」とかほどほどに相槌を打ち、一度も親と美術館に行かなかったあなたが後天的に西洋美術入門のムック本で身につけたスーラやモディリアーニへの愛を心の奥深くに封印しておきましょう。













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