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高校時代にジャケット買いしたマンガ/『透明人間の恋』

 漫画家の安藤ゆきさんと言えば、『町田くんの世界』が代表作だと思う。ところがどっこい、私は『町田くんの世界』を気になるな~なんて思いつついまだに読んでいない。読めよ自分。

 私が安藤さんの作品で唯一読んだことがあるのが、『透明人間の恋』。

 この1冊との出会いは高校3年の冬だった。駅前の本屋の新刊コーナーで見かけてとにかくカバーに惹かれ、レジに『透明人間の恋』を持って行った。いわゆるジャケット買いというやつ。

 意志が強そうに姿勢よく座っているくせに、自分で自分を見失っているように透けてしまっている、どこか矛盾を感じさせるような女の子。

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 いつもってわけじゃないけど、息をひそめて教室にいることもある私は、表紙の女の子に変に共感してしまって悲しくなった。友だちもいるし勉強もそんなにできないわけじゃない。毎日そこそこ楽しいけど、たまに自分が何者なのかわからなくなったり、同級生と上手く接することができなくて空気になったり。

 そして裏表紙は、その女の子を見ようともせずにプリントを無造作に後ろへ渡す男の子。見ただけでなんだか切なくなってしまう。

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※写真がぶれていますが許してください(カメラの扱いが下手すぎて何回やり直してもぶれた)

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 こういうプリントの回しかたをしてくるやつってたまにいる。こっちを見ないで腕だけ後ろに回してさあ受けとれってな感じで。後ろに誰が座ってるとか気にしてなくて、私のことなんかどうでもいいんだろうな…なんて寂しくなりながら、いつも黙って紙を受け取ってた。

 この話の主人公、田辺さんはどうでもいいと思われてる状況をを通り越して、もはや「いたっけ?」と存在すら疑われるレベルで透明人間を極めし空気のような女の子だ。影が薄くて「さてはおまえ、忍者か?」と友人から怪しまれた経験のある私ですら、存在そのものを忘れ去られたことはまだない。そんなことになってしまうとさぞかし寂しかろう……。

 これは田辺さんと、彼女をダサい奴だと小馬鹿にしているちょっとデリカシーのない男子、鈴鹿くんの恋の話。

 鈴鹿くんはガチでマジで、失礼な男だ。「好きです、付き合ってください」と告白した田辺さんに対して「ムリムリムリ」だとか「鏡見たことあんの?」とか、ひっでえ返事をしやがる。

…でも。最後まで読めば彼女が彼を好きなのもなんとなく納得する話になっている。カバーでは後ろを見向きもしない彼は、意外にも彼女をちゃんと見てくれていた。

 表紙を見て寂しさを感じながら手に取ってしまった。そんな漫画だけど、ストーリーは寂しさの中にも優しさがあって、最後はちょっときらきらしてあったかい。

 今の私は少し大人になって、こんなに透明になってしまうことは少なくなった気がする。それでもこの『透明人間の恋』は、ふと懐かしくなってときどき読み返す。そんな1冊。


 ご興味ある方はよければ読んでみてください。他にも読み切りが数作入っている短編集です。そして私は時間ができたら『町田くんの世界』を読みたいよ……。

 ちなみにこのカバー、デザインは川谷康久さん。当時はまったく知らなかったけど少女漫画の界隈で有名なデザイナーさんじゃないか!

 高校生の私にこんなに刺さるカバーを届けてくれたことに本当に感謝。ジャケット買いを通して、多感な時期にとても良い作品との出会いを経験しました。



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